マツダの「人間中心」は新型 MAZDA3 にどう反映されるのか…常務執行役員 廣瀬一郎氏【インタビュー】

廣瀬一郎常務執行役員
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試作車レベルで発表されていた「SKYACTIVビークルアーキテクチャー」が実装された新型車(『MAZDA 3』)がロサンゼルスモーターショー2018で発表される。この技術は、マツダのいう「人間中心」設計を具現化したものだが、そもそも、人間中心とはどういった意味を持つのだろうか? SKYACTIVビークルアーキテクチャーとの関係は? 開発責任者に聞いた。

インタビューに応じてくれたのは、マツダ 常務執行役員 廣瀬一郎氏。廣瀬氏はパワートレイン開発・車両開発・商品企画などを担当し、SKYACTIVビークルアーキテクチャーの開発でも指揮を執っている。

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クルマをアバターにし性能引き出す

----:人間中心の開発を少しかみ砕いて説明していただけますか。お客様にとってはどういう価値になるのでしょうか。

廣瀬氏(以下敬称略):これまでのクルマ作りは、最高速度、加速のような絶対性能を追求してきたと思います。おかげでクルマはどんどん速くなり、性能も上がってきました。それこそ、普通の操作では制御しきれなかったり、性能を出しきれないほどです。これはいわば「機械中心」の考え方です。「人間中心」では、だれでもその性能をしっかり出せることを最優先に考えてクルマを設計します。

マツダは変り者が多いので「クルマをアバターにする」といった表現もしています。クルマが自分の手足のように動かせれば、カーブで怖いと思ったりもせず、車に運転させられているといった感覚もなくなります。クルマの性能の奥深いところまで引き出せます。

----:人間中心を人間工学に置き換えると、どこの自動車メーカーでも取り組んでいるように思うのですが、マツダの人間中心は何が違うのでしょうか。

廣瀬:人間工学の考え方に通じるものはあります。比較は難しいですが、マツダでは、人間工学は、クルマの各部、各機能を局所的に捉えて操作性や機能の最適化を図るものと位置付けています。しかし、レベルの高いコモディティ(技術)を積み上げてもレベルの高いプロダクツ(製品)にはなりません。人間中心の考え方では、まず人の操作、動作を中心に据えて、全体の動きを決めます。そこから各部の動きや機能を最適化していきます。

----:複雑なコンポーネントは、部分最適を積み上げても全体最適にはならないというのは、興味深いアプローチですね。

廣瀬:例えば、使い慣れた万年筆はペン先を感じて文字が書けます。プロ野球の選手がバットの芯でボールを捉える感覚も、道具が自分の手足のようになってこそ得られるものです。

もちろんプロや達人なら、個々の道具の出来がよければそのような感覚で操作できるでしょう。自動車ならばステアリング、アクセル、ブレーキの分解能を見極めて、適切な操作ができますが、そうでない操作でも一体感を感じる分解能で最大限に制御してあげることが大切です。どう制御すればそれが実現できるか。評価は測定器ではなく人間が行うので、じつはとてもアナログな思考が必要だと思っています。

人間が歩くように運転できるにはどうしたらいいか

----:昨年の技術説明会でSKYACTIVビークルアーキテクチャーという概念を発表されました。これは、マツダの新しいプラットフォームと考えればよいのでしょうか。

廣瀬:プラットフォームというと、一般的にボディコック、シャシー、動力系の機能結合で作っていきます。今回は、人間中心コンセプトと同じアプローチで、人の動きからみた俯瞰統合に変えて設計しています。従来のプラットフォーム設計とは違う形なので、アーキテクチャという言葉を使っています。人の動きからの俯瞰ということで、人間が歩くように運転できるには、どうしたらいいかから考えました。それがSKYACTIVビークルアーキテクチャーの基本です。

人は歩くとき、後ろ脚で蹴って頭の重心をずらします。同時に体幹も移動して重心の位置を調整します。そのおかげで、実際には歩行で頭の位置が動いていても視点を保てるし、景色がブレて見えることもありません。これと同じ動きをサスペンション、ボディ、シートを経由してドライバーに伝えることができれば、体幹が自然に動き、ドライバーは疲れないし安心して運転ができます。

----:言葉にすると簡単そうに聞こえますが、人の骨格や動きとクルマのそれは全く異なるものです。それを俯瞰統合するというのは相当難しいと思いますが。

廣瀬:モデル設計がそれを支援しています。スパコンを使った3Dシミュレーションは、空力や燃焼などさまざまな場面で応用されていますが、SKYACTIVビークルアーキテクチャーの設計でも、それは不可欠でした。

モデル設計の強みは対象の見えない部分を可視化してくれること、実験困難、不可能な事象も再現、可視化できることです。それも、パラメータを変えた状態で試行錯誤が可能です。まず人間が歩行しているときの動きを分析し、それをクルマの動きで再現する方法を考えました。

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マツダ車のこれからはどうなる?

----:いよいよロサンゼルスモーターショーで次の世代の商品をお披露目しますが、これはSKYACTIVビークルアーキテクチャーが搭載されるという話も伺っています。マツダのこれからへの意気込みをお願いします。

廣瀬:SKYACTIVビークルアーキテクチャーには、各種のこだわりがありますが、ひとつ例を挙げれば、鉄を使い切ることにこだわったことです。超ハイテン鋼の利用、新しい接合技術など、鉄のボディでもまだまだできることはたくさんあります。剛性を上げるだけでなく、「減衰節」などエネルギー吸収技術を駆使することで、的確な動き、軽くて強靭、うるさくないボディを実現しました。新商品のSKYACTIVビークルアーキテクチャーは、昨年メディア向けに公開した試作車よりも各部を進化させていますが、技術面では、さらに新しいやりたいことも出てきています。

例えば試作車の試乗会では、一部の方から、動きが自然すぎてクルマから人へのインプットが足りないのではないか、というコメントがありました。人のバランス保持能力から考えた自然なクルマの動きなのですが、自然な動きをしない普通のクルマの「操作」をしている感覚からすると違和感のようなものを感じるようです。クルマはこのカーブではこの程度ロールするものだと思って運転していると、動きが自然すぎて逆に予想と違う動きに感じられてしまうのでしょう。この点については、どの方向性に持っていくのがいいのかはまだまだ研究が必要だと思っています。

----:なるほど。クルマの進化は、新技術を投入するだけではない奥深さがあるようですね。

マツダの技術、SKYACTIVビークルアーキテクチャーについて技術的な詳細の議論は尽きないが、廣瀬氏は、12月21日開催セミナー「マツダの一本道 ~新世代商品の幕開け~」において、ここでのインタビューに関連する詳細を講演する予定だ。

《中尾真二》

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