トヨタ×ソフトバンクの提携でくっきりと見えてきた現実【藤井真治のフォーカス・オン】

提携を発表したソフトバンクグループ孫正義代表と、トヨタ自動車の豊田章男社長
  • 提携を発表したソフトバンクグループ孫正義代表と、トヨタ自動車の豊田章男社長
  • トヨタとソフトバンクが提携を発表(10月4日)
  • ソフトバンクのAI投資
  • ソフトバンクグループ孫正義代表
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  • トヨタ自動車の豊田章男社長
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トヨタ×ソフトバンク提携から見えてきたもの

日本を代表する企業トヨタとソフトバンク2社提携のニュースは、10月4日の記者会見と同時に世界中を駆け巡った。新しいモビリティサービスの創造と完全自動運転に向けての動きが更に加速する、といった大手メディアの報道やネット上での様々な熱いコメント。

しかしながら、著者はこの記者発表を通じて情報革命とこれからのはやりの言葉になるであろうMaaS(※)との本質的な関係がくっきりと見えてきたのだが。

※MaaS:Mobility as a Service。全ての交通手段を単なる移動手段としてではなく一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念を指す。

記者会見で豊田社長はトヨタのバックボーンであるトヨタ生産方式や部品メーカーを重視している一方で、トヨタが「クルマを作る会社から、移動サービスの会社」つまりMaaSを実践していく会社に変わっていくと熱く明言した。一方、10兆円の投資ファンドを持つソフトバンクグループ孫代表の説明は静かなトーンで情報革命を目指す自社の投資戦略やAIという難しい代物が持つ可能性や必要性などをきちんと説明していた。

トヨタ、ソフトバンクの共通テーマである全自動運転については、「開発投資の塊である自動運転車は当初1000万円以上の価格がつくことは明白で、個人よりもプロの事業者であるライドシェアが出口としては有望」と言ったくだりはビジネスとしての説得力があり、なるほどと思わせた。

近未来のドアを開けると孫代表がいる

ソフトバンクグループ孫正義代表ソフトバンクグループ孫正義代表
両者のプレゼンから著者の目でくっきりと見えてくるものは「情報革命によって実現する世界では必ずしもMaaSビジネスを必要としない」ということである。

なぜなら情報革命が進むと、人々は通勤、通院、買い物、外食、銀行(ATM)、映画やコンサートなどのために移動する必要がなるからである。言葉を少し柔らかくすると モビリティ自体やその必要性が今とは大きく変容していくということである。
ソフトバンクのAI投資
ソフトバンクの投資先を見てみると、ウーバーやDIDI、トラック輸送のマッチング、自動運転などモビリティ関係の企業が名を連ねているものの、電子決済、オフィススペース、医療、農業、ロボット掃除機、VR、AI(人工知能)ときわめて多岐にわたっている。

記者発表会での豊田社長の発言である「自動運転のドアを開けると孫さんがいた」、どころか「近未来のドアを開けると孫さんがいる」のである。孫代表の投資先が有機的につながっていく時に実現する世界には MaaSの占める範囲は極めて小さいものになっているだろう。極論するとトヨタが作りたいモビリティプラットフォームはソフトバンクが作り出すもっと広範囲なものの一部になっている可能性もないとは言えない。

派手な記者発表とは対照的な現実路線

トヨタ e-Paletteトヨタ e-Palette
自動運転という領域で見ると、欲しい走行データなどのビッグデータは今のところ自動車屋であるトヨタが集約する優位性があるように思えるが、移動という領域が情報革命の一部であるとすると、より広範囲なエリアを束ねるソフトバンクに優位性があるのではないか。

ただし情報革命は始まったばかり。提携の具体的内容は驚くほど現実的である。

提携は20億円(将来は100億円に増資)で日本にMONET Technologyという合弁会社を作り、オンディマンドサービス、データ解析サービス、Autono-MaaS事業(意味不明)を行うとい。10兆円の投資ファンドを持ち、1件あたり1000億円規模にも及ぶダイナミックな投資を展開しているソフトバンクの活動を考えると、拍子抜けするほどの小さな数字ではある。だが、現実に今日本で起こっている切実な問題である、高齢化、過疎化、買い物をビジネスのチャンスととらえ果敢に事業展開を行うことは大変意義がある。

派手な記者発表とは対照的な現実路線は提携の序章にすぎない。
トヨタ自動車の豊田章男社長トヨタ自動車の豊田章男社長

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治のフォーカスオン》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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