マツダのミニバン『プレマシー』を中古で購入してしばらく経つが、小ぶりなサイズ感、スポーティなハンドリング、意外と広くて実用的なパッケージングなど、まさに丁度いい感が気に入っているものの、不満がひとつだけあった。それが「静粛性の低さ」だった。
愛車の2007年式(CREW型)マツダプレマシー20Zは、特にロードノイズの大きさが気になっていたのだが、「走りの良さ」とのトレードオフだろうと勝手に納得していた。しかし、いつものように楽しく家族で週末のドライブを楽しんでいた時の妻の「このクルマ、ちょっとうるさいよね?」というひと言に、一念発起。静粛性向上計画を実行することにしたのだった。
まずはなんとかお手軽に静粛性を上げる方法はないかと、あの手この手で調べてみた。ネット上では同じ悩みを抱えるプレマシーオーナーの声も多く見つかった。静音タイヤの装着や、DIYで制振材を入れたりと様々な努力を見たが、どれも期待ほどの結果は得られていないようだった。
そこで思い出したのがカーオーディオの世界だ。特に高級カーオーディオを嗜む人たちにとって、クルマそのものを静粛化するのは基本中の基本。そしてオーディオの世界にはプロショップがあることも聞いていた。プロに依頼すれば中古のプレマシーが高級ミニバンになってしまうかも?などと淡い期待をこめながら、いくつかのショップを調べているうちに目に留まったのが「車内空間の魔術師」というパワーワードだった。このインパクトにやられてしまい、説明書きを読むのもそこそこに問い合わせてみることにした。
◆車内空間の魔術師
車内空間の魔術師を展開するのは、カーオーディオ製品の輸入・販売をおこなうイース・コーポレーション。業界では名の知れた会社だ。車内空間の魔術師とは、北海道から沖縄まで全国128店舗(2018年7月現在)に存在する車内防振のプロ集団で、オーディオ本来の性能を引き出すのはもちろん、振動の少ない快適なドライブを実現するためにその腕を振るう。
今回はオーディオの購入ではなく、静粛性の向上だけをお願いしたい旨を伝えると快く引き受けてくれた。実際、こうした要望も少なくないのだとか。簡単にクルマの現状と、どうしたいのか、そして予算感を伝えると「それなら徹底的にやりましょうか。天井と前後ドア、フロアと、ラゲッジルームに制振材を入れましょう。これだけやれば違いははっきりわかると思いますよ」と頼もしい言葉。さっそく施工の日取りを決めてクルマを工房に持ち込んだ。
今回施工をおこなってくれた“魔術師”は、イース・コーポレーションの岡田伸一郎さん。まず今回の施工内容と概算見積もりを確認すると、雑談もそこそこに「じゃ、まずは全部剥がしちゃいましょうか」と早速作業にとりかかる。すると、1時間も経たずに全てのシートとドアの内張は剥がされ、2時間後には天井、フロアも全てむき出しの状態になってしまった。
「最近のクルマだともっと効率的に作られているから、剥がすのも戻すのもずっと楽なんだけど」と岡田さんは笑う。ちなみに、こうした施工をするなら新車時が一番良いのだとか。古いクルマはゴム部品が劣化して吸着したり、細かい樹脂部品が割れてしまったりするそうだ。それでも心配ないと岡田さんは話す。「何かが壊れちゃっても、直せちゃうのがオーディオ屋さんなんですよ。見た目にもこだわるから仕事が細かいんです」。
さて、改めて今回の施工の内容を紹介すると、制振材を入れるのは、天井(ルーフ)全面、左右フロントドア、
左右スライドドア、ラゲッジルーム、そしてフロアの大きく7箇所。そして制振材には、「サイレントコート」というブランドの材料を使用した。メインに使われたのはブチルとアルミ、複合ゴムがサンドイッチ状態となった厚さ2mmから5mmのシートだ。これによりロードノイズなどの250Hz以下の低周波ノイズ(振動や共振)を抑えるのだとか。シートを持ってみるとズシリとした手応えがある。これをむき出しになった車体の各部分に合う形に切り出して、貼り付けていくのだ。
◆まるでスペースシャトルのキャビン?
いよいよ制振材を貼り付けていく。天井には厚さ2mmの制振材を貼る。車体の重量バランスを考え、比較的薄く軽量なものが選ばれたようだ。施工箇所の寸法を測り、最適なサイズに切り出して貼り付け、ローラーで圧着する。さらに各ドアにも天井と同じ厚さの制振材を使用。走行中に起きるドアの共振を押さえる事で、走行音や風切り音の低減を図っている。
フロアに貼る制振材は、天井やドアよりもぶ厚い5mmのものを使用。使用面積からいっても、ある意味今回のメインかもしれない。鉄板の薄い部分や弱い部分、騒音が特に気になる部分に施行すると効果が大きいのだそうだ。確かに、むき出しになったプレマシーのフロアを叩いてみると、素人でもわかるほどものすごく軽い「鉄板音」…。これを補強すればノイズは大きく変わるだろうことは容易に想像できた。また今回はフロアと合わせて、タイヤウォールにも同じ制振材を入れてもらった。
すると、プレマシーの車内が全面アルミの銀色で覆われ、何ともゴージャスな感じに。あるいはスペースシャトルのキャビンといったところか。この状態で見せびらかすことができないのは残念だが、ここからさらに仕上げの吸音材を貼り付けていく。天井に貼るスポンジ状のシートには断熱効果もあるそうで、炎天下でも車内が暑くなるのを抑えてくれるそうだ。これは意外なメリットだ。そしてまたフロアには踏んでも形状を復元できるラバーベースの発泡体を使用した。これは見た目からしてぶ厚く、6mmの厚さ。外から回り込んでくるノイズが車室内に入るのを低減することで静粛性が大きくアップするということだ。
すべての制振材、吸音材が貼り付け終わると、最初に取り外した内装、シート、フロアマットを元に戻していく。バラバラに点在するパーツを、ネジひとつ余すことなく組み上げられていくのだ(当然といえば当然なのだが…)。また、制振材を入れて厚みが出た部分には、咄嗟のアドリブでパーツを加工して組み込んでいく。内装を剥がすだけなら素人でもできるが、この「戻す」作業には尚更プロとの違いを見せつけられた気がした。
今回は全行程で約16時間。のべ2日にわたるプレマシーの大改造が完了した。
◆ドアを閉めた瞬間にわかる「密閉感」
受け取ったプレマシーを一通りチェックすると、見た目には施行前と何ら変わりがない。これはちょっと残念でもあるが、同時に岡田さんのプロの仕事の何よりの証明でもあって誇らしく思えた。あとは肝心の走りだが…運転席に乗り込んでドアを閉めた瞬間からすでに違っていた。
とにかく密閉感が違う。開閉音がまるでドイツ車のような厚みのある音になっているのである。ボディを拳で叩くと、コンクリートのように「コツコツ」というだけで全く音が響かない!すでにニヤニヤが止まらなかったが、エンジンを掛け発進する。するとこの日は運良く(?)豪雨だったのだが、まず天井を叩く雨の音がほとんどしない。そして濡れた路面を走っても、これまで「ジャー!」とか「ゴー!」と唸りを上げていたロードノイズが「サー」「コー」まで低減している!もっと具体的にいえば、これまでボリュームを「20」まで上げないと聴こえなかったオーディオが「9」でもくっきり聴こえるようになった。これは革命的だ。
個人的には大満足の結果だったが、最終審判を下すのは妻だ。後日、いつものように週末ドライブに出かけると…「ドアが全然違う。高級車みたいに静かになったね。私でもわかる」と太鼓判。大成功だ。あとはかかった費用(30万円)をいつ報告するかだが…それはまた別の話。しばらくは、車内での会話も弾む、快適なドライブが楽しめそうだ。
まさに良いことづくめの静音・防振対策だが、最後に注意すべきことが2点ある。ひとつは、車両重量がかさむこと。今回の施行では約30kg重くなったが、その重さははっきりと体感できるレベルだ。プレマシーの場合は、かえって高級感ある味わいにプラスしたが、コンパクトカーや軽自動車など元が軽いクルマほどネガが出るだろう。「何が目的か、何をしたくないのか」を事前にしっかりとプロに相談するのが吉だ。
もうひとつは「オーディオの沼」だ。車内が静かになって気づいたのは、元々のオーディオの“しょぼさ”。クルマの改造あるあるだが、アチラを立てればコチラが…と改造に歯止めが効かなくなっていくパターンだ。実際、初めから「カーオーディオにお金を掛けよう!」と思っている人は少なく、手始めにアンプやスピーカーを交換してみたらズブズブと深みにハマっていくのだそうだ。…かく言うこのボクも、確実にその「沼」に一歩を踏み出してしまったことに違いない。
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