【VW ゴルフ 3700km試乗 後編】Cセグトップ独走もうなずける、ファミリーカーとしての資質…井元康一郎

試乗記 輸入車
フォルクスワーゲン ゴルフ1.4TSI ハイライン
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2017年に大規模改良を受けたフォルクスワーゲンの主力モデル『ゴルフ 1.4TSI ハイライン』で東京~鹿児島を3700kmあまりをツーリングした。前編ではエンジン、シャシーのインプレッションをお届けした。後編ではユーティリティ、居住性、先進装備および運転支援システムなどについて述べる。

今回のドライブは本州区間は往路、復路とも山陽ルートで、高速道路と一般道を併用しながら距離を稼いだ。本格的に周遊したのは九州内で、往路は大分の天ヶ瀬温泉や熊本の阿蘇などの深山ルートを積極的に走り、天ヶ瀬温泉の共同露天風呂に入ったり雄大な山岳風景を眺めたりしながら、路面のうねりや段差のきつい道路、スピードが乗るわりに幅員の狭い道路などでの走行性を見た。帰路は西南戦争最大の激戦地であった熊本北方の田原坂から1車線道路の山岳路を経由して福岡南部、八女の山間部を観光しながら関門海峡へと向かった。

3700kmというマイレージは日本自動車工業会が発表している平均的なカスタマーの約10か月分に相当する距離。このクラスのモデルを駆るカスタマーの走行距離との対比でも3か月分くらいにはなるだろう。こうした多彩なルートを走って強く印象に残ったのは、“マイルーム感”とでも表現すべきフィット感だった。

◆快適性、居住性、使い勝手は

クルマというものはいつも車内をきっちりと整理整頓して乗るわけではなく、たとえば走行中にCDを交換したとき、とりあえず停まったときに片付けるとして、その場ではそのへんに放り投げておくといった局面は日常的にある。小銭、レシート類もしかり。ゴルフの収納スペースはそういったドライブにおける行動原理を見事に熟知していると感じられるようなデザインだった。

ドアポケットはサイズが巨大なだけでなく、内面全面に起毛地のトリムが張られている。クルマが振動しても、そこに投げ込んだものが内装材と干渉してビリビリと音を立てたりしない。その他の収納スペースもそこに置いたものが急な加減速や強い横Gで落ちたりしないような傾斜になっていたり、ブラインドタッチで開閉しやすいフタが装備されていたりして、ドライブ中にモノが跳ね回るのではないかと心配しないですんだ。地味なことだが、こういう設計はクルマに対する親しみをわかせる。

日本車に対してビハインドがあるとすれば、カップホルダーのレイアウトだろう。ゴルフに限らず欧米車はカップホルダーの装備は貧弱だ。ドイツではドリンクを飲みながらドライブするのは危険、フランスでは降りてゆっくり飲めばいいじゃないかといった考えが強く、ビジネスカーを除けばドリンクを置ける場所が限られている。ゴルフの場合、巨大なドアポケットに1リットルサイズのペットボトルコーヒーを置くことができたが、コンビニでコーヒーを買ったときなどは身体を少しねじる必要があるセンターコンソール内のホルダーに置く必要があった。

居住感は前期型と変わらず、非常に良好だった。オーナーが最も長い時間を過ごすであろう運転席は、たっぷりとした座面のクッション容量とすべりにくいヌバック調の表皮で身体を有効に支えてくれ、疲労軽減と防振性の点では第一級だった。筆者は2016年にプラグインハイブリッドの『ゴルフGTE』でも4000kmほどツーリングしているが、コーナリングGがかかったときのホールド性ではGTEのスポーツシートが勝つが、連続走行時の疲労の少なさに関してはハイラインのシートのほうが上という印象であった。

また、大昔のゴルフと違ってグローバルモデルとしての設計が徹底されたとみえて、ペダルレイアウトは左ハンドル圏メーカーのモデルとしては異例にゆとりがあり、日本車と並べてもトップクラスの良さ。シートと並び、これも疲労軽減に大いに貢献したものと思われた。

後席は十分なスペースを持つうえに窓面積が広く、身体的ストレス、視覚的な圧迫感等は極小。横方向だけでなく前方向の視界の抜けもま良好だった。乗り心地も悪くない。長時間座ったわけではないが、これなら前席と一体感のある移動が可能であろう。ドアの開口部の上端は非常に高く取られており、高齢者の乗り込みもこの種のハッチバックモデルとしては最も楽なもののひとつだった。

コクピットの操作系はインフォティメントシステム化されたカーナビを除き、非常に扱いやすいものだった。スイッチ類はヘッドランプコントロールをはじめ運転中に操作する頻度が高いものを取捨選択し、それらすべてを運転姿勢のまま視認可能なところに置くという初代以来のコンセプトを一貫して守っており、運転中にあれこれ迷うことがない。惜しい点はのはエコ、ノーマル、スポーツとパワートレインの制御を切り替えるボタンが左ハンドルと同様シフトレバーの左隣に置かれており、ドライブ中に積極的に使う気になれなかったことくらいだ。

荷室は380リットルと、広々というわけではないが十分。ただし、同クラスのライバルのひとつ、シトロエン『C4』がちょうど同じ容量ながら中型スーツケースをびっちり4つ並べて積めるようなスクエアな空間に仕立てているのに対して、ゴルフはそこまで用途にこだわったパッケージングではない。一方、開口部の下端を薄く作り、しかも大荷物を滑り込ませやすいように角度がつけられているなど、利便性への配慮は徹底していた。

◆コネクティビティと先進安全システム

ゴルフ7改良版で新たに設定されたもののひとつに「Discover Pro」というインフォティメントシステムがあり、試乗車にはそれがついていた。インパネ内が液晶画面となっており、プレミアムセグメントのモデルのようにドライバーのセレクトによって車両情報、走行情報、オーディオ情報、ナビゲーション画面などを動的に表示させることが可能というもので、表示内容になってスピードメーターやタコメータが大きくなったり小さくなったりもする。

果たしてそのDiscover Pro、コントラストがとても明瞭で視認性は良好。デザインも先進性を感じさせるものであった。が、ETC2車載機を含めオプション価格17万8500円という価格に見合う装備であるかどうかと言われると、ゴルフにはまだ要らないんじゃないかと正直思えた。一昨年夏に乗ったGTEは通常のインストゥルメントパネルだったが、視認性、各種情報表示、デザイン性などは悪いように感じられなかった。

今日、自動車業界の競争領域としてコネクティビティ(クルマのネット端末化)が持てはやされているが、現状ではそれによってドライブ中に受けられる恩恵はきわめて限定的だ。こういう装備は未来においては大事なものになるのかもしれないが、少なくとも現時点ではかっこいい、高級そうといったこと以上の意味合いは希薄で、普通のメーターで十分だと思う。

長距離ドライブの疲労を軽減し、安全性を高める先進安全システムについては、改良で大幅な充実が図られた。果たして車線維持アシスト、渋滞追従機能付きのアダプティブクルーズコントロール、後斜め方向の車両近接警報などは良好に機能。雨天で路面が濡れた夜間走行など認識の厳しそうなシーンでも車線の失探は少ないほうで、システムとしては結構成熟しているという印象を受けた。

その安全システムのなかで唯一いただけなかったのはアクティブハイビームである。ヘッドランプの照射能力自体は高く、配光性も良い。コーナリングランプやステアリング操作に連動して光軸をコーナーの奥に向ける機構も有効に機能していた。半面、先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビーム機能はほとんどハイ・ロー切り替えとしてか機能せず、しかもいったんローになった後、ハイビームへの復帰の判断も鈍かった。

ドイツ在住の知己にきいてみたところ、現地ではとくに性能に対する不満は出ていないとのこと。右ハンドル車のチューニングが甘いか、あるいは試乗車のライトの調子が悪かったのか。アクティブハイビームはカメラのキャリブレーションを結構シビアにやる必要があるので、調整不足の可能性は少なくないが、こういう機能の良し悪しは顧客満足度に影響しやすいので煮詰めをしっかりやってほしいと思われた。

◆満タン1000km走破は…

東京~鹿児島のような長いドライブをするとき、筆者は一度はエコランなしでのワンタンクでの航続距離がどのくらいか測ることにしている。これまで同区間をワンウェイ無給油で走りきったのがホンダ『アコードハイブリッド』とボルボ『V60 D4 R-Design』の2台。実走行でのワンタンクディスタンス1000km超がボルボ『V40 Crosscountry D4』、メルセデスベンツ『GLS 350d』、ホンダ『フィットハイブリッド(中期型)』。

ゴルフ7改良版のドライブでは1000km超は行けると思っていたのだが、鹿児島北部の出水で満タン給油後、三重の亀山のガソリンスタンドでちょうど航続残表示がゼロに。閾値超えまでもう一歩、988km地点でアタックを断念した。

田原坂から熊本の山鹿、福岡の八女の山岳地帯を巡った時に燃費を落としたのと、全般的に優速な流れに乗ってドライブしていたのが敗因。ただ、筆者は過剰なエコランで燃費アタックをしてもあまり意味はないという考えで、山岳地帯を走り回ったのは他のモデルも同じ。ちなみにゴルフ7は燃料タンク容量がゴルフ6より5リットル減の50リットルというのも響いた。欧州Cセグメントならやっぱり給油配管を含めて60リットル入るようにしようよーと、僅かな燃料残の差にちょっと歯噛みする思いであった。

◆ファミリーカーとしての資質は依然として高い

まとめに入る。大規模改良を受けたゴルフ7はややオーバーデコレーションになったきらいはあるが、ロングツアラーをこなせるファミリーカーとしての資質は依然として非常に高いものがあった。

経済性は非ハイブリッドのガソリン車としては同クラスのライバルと比較してもおそらく最も良いもののひとつであろう。操縦安定性は高く、路面が荒れ気味のワインディングロードでの身のこなしは山岳路でも集落があるところを除けば制限速度100km/hの国のクルマであることを想起させるレベルのものだった。欧州のCセグメントマーケットはゴルフ7が2位以下に2倍以上の差をつけてトップを独走、その2位もゴルフベースのシュコダ『オクタヴィア』という“天下統一”ぶりはやはりダテではない。

半面、日本向けに独自にチューニングされた足回りは当たりの柔らかさはあるがブルブルとしたゴム振動感が残る。日本向けゴルフとしても、少しチューニングが雑なのではないかという感があった。ゴルフは歴代、油圧感の豊かな乗り心地を身上とし、コアなファン層がそれを強く支持してきたという経緯がある。そういうカスタマーにとっては、そこがはいささか気になるポイントかもしれない。コンチネンタルやミシュランなど、ねっとり系のタイヤに交換して様子を見たくなったところだ。

ゴルフに向くカスタマー層はクルマで遠出をすることの多いアクティブライフ系の人。ゴルフの良さはやはり中長距離を走ってこそ享受できるもので、市街地オンリーならば経済性も含め、ほかにいくらでも良い選択肢がある。また、ロングドライブをどういうクルマでやるかということについてはSUV、スポーツカー、ミニバンなど多様化しており、ハッチバックモデルでなければいけないという必然性は薄まっている。ハッチバックの優位性は低重心設計による走りの性能と居住空間の両立にあるので、これ1台ですませなければいけないが、質の高い移動を求め、たまにはシャキッと走りたいというカスタマーにはうってつけの選択肢となるだろう。

ライバルは内外のCセグメント全般。ゴルフはキャラクター的に並みいる競合モデルのなかでも最も中道を行くクルマだが、最近は強敵も多い。国産車で最も性格が被るのはスバル『インプレッサ』であろう。それほどスピードレンジが高くない領域での高速道路、バイパスのクルーズ感についてはインプレッサはゴルフに負けていない。4名乗車だと差が出るが、1~2名乗車に限って言えば、トヨタ『プリウスPHV』も走り味の点で強敵だ。ちょっとデザインがごちゃごちゃしているが、ホンダ『シビックハッチバック』もぶつかるだろう。

輸入車ではシトロエン『C4』、プジョー『308』、ルノー『メガーヌ』のフレンチ三羽烏が直接競合するであろう。性格的に一番バッティングするのは308、ちょっとドイツ車ライクなテイストが入ったメガーヌはデザイン的にぶつかりそう。C4はこのなかでは最も古いが、クルマづくりが洗練の一途をたどる今日においてはちょっと懐かしい味がある。中道とエキセントリック、どっちを求めるかでクルマ選びが変わってきそうだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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