◆CESで登場した新星EV「BYTON」
1月9日から12日までアメリカのラスベガスで開催された世界最大の家電見本市である「CES2018」。昨年秋に開催された日本の家電見本市CEATEC(シーテック)では冷たい対応であったトヨタ、日産、ホンダも打って変わって独自のコネクティッドカーやEVをアピールしクルマに採用するITテクノロジーや新しい事業ビジョンをアピールしていた。
並みいる家電やIT系ブランド /ベンチャー企業、日欧米のカーブランドの中で異彩を放ったのが独中米のカー/IT業界の連合軍とも言える 新興EVブランドの「BYTON(バイトン、中国名拝騰)」である。
1月7日のプレスローンチ。ネットで配信されているその商品コンセプトやパワフルなビジネスモデルを見る限りテスラや中国製EVが色褪せて見える。アメリカと中国での発売が予定されている2019年、欧州発売2020年に向けてEV業界の台風の目になることは確実だ。
◆コンセプトは「LIFE」
このバイトン、創業者は元BMWのドイツ人コンビ。元技術副社長と中国通で日産にも在籍していた元マーケティング担当副社長。技術コンセプトやブラントビルディングに対するこだわりはまさにドイツ的なものを感じざるを得ない。商品コンセプトは、ストレスの多い車内空間を人生(LIFE)の一部にまで高めるほどの快適性やパーソナル性を追求した。CASE(Connectivity, Autonomy, Sharing, EV)はそのための手段であり、顔の識別などの個別技術はその要素であると明言している。
発表されたコンセプトモデルを見る限り、ダッシュボード全面に広がるタッチパネルスクリーンなどの先端技術が満載である。何よりも車としてオーソドックスで十分に美しい外観をしている。プライスタグは4万5000ドルで競合と思えるテスラの『モデルX』の半分の値段だ。これから量販に向けての課題はあるにせよ、この段階での本気度は凄まじい。
◆独中米のいいとこ取りのビジネスモデル
バイトンはIT技術が満載されたクルマである。このため、アメリカのシリコンバレーの人材を大量に採用しているという。レクサスも採用し始めたアマゾン・アレクサという車載用音声認識ソフトともコラボを組むようだ。自動運転は立ち上がり時にはレベル3だが、将来はレベル4を目指すという。
生産場所は中国の南京でインダストリー4.0コンセプトのスマート工場になるという。この工場と開発センターのために経済特区に広大な用地を確保している。中国政府はEV開発生産促進策のため外資規制を緩和しつつあるが、公式には認められていない100%外資のEV企業が南京政府の力により特区限定で認められたと思われる。膨大な資金の調達も含めドイツ人やアメリカ人ではできないダイナミックな準備作業が中国地方政府や香港資本のサポートによって行われたとみて良い。
ドイツのカーテクノロジーとブランディング、アメリカシリコンバレーのIT技術、生産場所を誘致する中国の政治力と資金調達力。まさに国を超え業界を超えたベストマッチングの EVベンチャープロジェクトと言えるだろう。
携帯電話のような「アメリカが開発とブランディング、生産は中国、部品は日本や韓国」といった水平分業体制はクルマでは起こらないと言われていたが、いよいよ認識を新たにする時代が到来したのかもしれない。
<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。