【インタビュー】日本の自動車産業、EVシフトのシナリオ…ジャーナリスト 舘内端氏

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【インタビュー】日本の自動車産業、EVシフトのシナリオ…ジャーナリスト 舘内端氏
  • 【インタビュー】日本の自動車産業、EVシフトのシナリオ…ジャーナリスト 舘内端氏
2015年、COP21においてパリ協定が採択された。温暖化が2度以上進むと、地球環境に深刻で不可逆的なダメージを与えるため、国ごとに2030年までのCO2削減目標を定めた。各国は目標に向けて政策を進めており、再エネの拡大、モビリティの電動化も既定路線となっている。今後それぞれがどのような局面を迎えるのか、エキスパートにインタビューを実施した。第3回目は、EVに長年関わってきたジャーナリストの舘内端氏。
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EVシフトは産業構造を変える


舘内:久しぶりにパリに行ったら、ディーゼルのにおいで臭くて酷いなと。エッフェル塔ってどこからでも見えたんですけど、霞んでるんですよ、空気が。あんなエッフェル塔見たの初めてです。それで、「ヨーロッパやばいんじゃないのか」と思って調べてみたら、パリだけじゃなくイギリス、イタリア、ドイツも駄目でした。ヨーロッパの大都市は全部大気汚染が問題になっています。

---:ヨーロッパは有害ガスに対する注目が高まって、EVの後押しになっていますね。

舘内:そうですね。さらにEVにはエネルギー政策も絡んできます。これまで石油を使ってきて、CO2も有害ガスもありますが、やはり中東に頼らざるを得ないのが厳しい。世界の石油の半分は自動車が使ってますから。万が一のリスクが高い。

石油から離れたいというのは、実は自動車産業の大いなる野望、夢なんですね。でもそれはエンジンである限り、バイオでも使わないと無理な話なんです。だから常にEVはくすぶっていたんですよね。

そして震災をきっかけに原発が失速して、であれば、コストが下がってきた再生可能エネルギー、ソーラー・風力で行きましょうよとなったわけです。自動車産業の人たちがソーラー・風力を見て、それは気持ちが動きますよ。中東問題に悩まされずに済むんですから。コスト面でも、日本は化石燃料、天然ガス、石炭で毎年20兆円くらい使っていますし。

---:日本は自動車産業で利益をあげているので、石油を輸入できますけど、他の国は、石油を輸入して車も輸入して、中東と日本とドイツとアメリカを儲けさせてる構造がずっとあるんですね。

舘内:それを解消するためには、まずはエネルギー自立なんでしょうね。逆に言えば、食料とエネルギー地産地消出来たら、他のものを輸入するとしても相当有利に展開できますね。あとは車。EVになると、全部地産地消とは言いませんけど、かなりできてしまうんです、いろんな国で。

モーターもそれなりの性能でよければ自分でコイル巻いて作れるんです。電池は多少難しいんですけど、それでもそこそこでよければ買ってくることができる。するとあとは車体ですが、その国の実状に合わせた車体でよければ、できなくはない。

---:そのあたりはできあがった産業ですよね。

舘内:そうすると車さえも地産地消の可能性が出てくる。モビリティの地産地消ですね。エネルギーと機械、これが地産地消できると今までの産業、世界のあり方ががらっと変わるわけです。EVはそこまで世界を動かしてしまうんです。面白いですよね。

---:EVシフトは政策と非常に関わっているというのは私も実感するところです。

新しい=良い、ではなくなる


---:EVシフトになっても日本は生き残っていけるんでしょうか。

舘内:電池の材料技術は日本がトップです。キーを握っているのは全固体電池ですね。リチウムイオン電池は生産量でいうと中国の電池メーカーがトップになりましたが、技術力はまだ日本の方が上です。

ただここでよく考えなければいけないのは、これまでは、新しいとか、より性能が高いとか、パワーがあるという価値観が自動車のヒエラルキーを作ってきたんですが、ここでEVの地産地消が始まって、自分の国に合ったEVでいいよ、となると、そういう価値観は通用しません。いろいろな技術レベルがある程度の水準になってしまいましたから。

---:新しくて高いものと、使い回しの技術だけど安いもの、消費者はどっちを選びますか、と。

舘内:そうです。そしてシェアリングが始まってしまう。そうすると必ずしも電池の高性能化でリードできるかというと怪しい。中国のBYD(バッテリーメーカー起源の新興自動車メーカー。EVで高シェアを持つ)がそうです。大きくて重くても、安全で安ければ、そっちの方がいいということです。

---:技術的なイノベーションが価値になるとは限らない、ということなんですね。むしろ低コスト化した方が勝者になる可能性があると。

舘内:それはあるでしょうね。新技術が新しい価値になる、という分野もまだあるとは思いますけど、ただ少なくなってきているんです。もう車もコモディティ化を免れないと思います。
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日本の自動車産業のシナリオ


---:そういう中で、日本の自動車メーカーの動向ですが、トヨタとマツダとデンソーのEVチームに、スバルとスズキが参加するそうですね。いっぽう日産は三菱と組んでいます。となると、ホンダはどうするんでしょうか。

舘内:そうですね。ホンダは中規模メーカーで、買うには高いし、ひとりでやるにはリソースが足りないですし、難しい状況だと思います。EVシフトと言っても、あんなにエンジンが大好きなメーカーもないですからね。だから極論のようですが、EV会社を分社化するなど、大きな手を打たないと進まないと思いますよ。

これはヨーロッパも一緒なんです。例えばBMWは『i』というブランドとして、工場も旧東ドイツに作って、分けてるんですよ。メルセデスベンツは『EQ』というEV専用のブランドを作りました。フォルクスワーゲンも『I.D.』として分けました。

---:自動車メーカーの中にはどこもそういうエンジン対EVみたいな勢力争いがあると。

舘内:今までの自動車産業で成功したメーカーほど厄介なんです。何で成功したのかと言えば、エンジンで成功したわけですから。そして、良いエンジンを作った人たちが出世して、下請けも含めて産業ピラミッドを作ってきた。それが急に「EVだ」って言っても変われない。でもそれでは今の世界情勢の中で生き残れないんです。

---:でも日本のメーカーだってEVを作れば良いものができますよね。

舘内:当然です。だってハイブリッドをやったんですから。エンジンを外せばEVですから、楽なもんですよ。全然問題ないです。だから問題はエンジン勢力とどう折り合いをつけるか、です。だってこんなに強力な産業ピラミッドがあるんですよ、その雇用をどうします? 何百万人ですよ。それがEVになると、部品が本当に少なくてゾッとしちゃうんです。これまでの産業ピラミッドの半分以上がエンジン、ミッション、ラジエーター、触媒ですよ。

---:でも世界の自動車の生産台数はしばらくは増え続けますよね。一部はEVになるでしょうが、エンジンもまだ増えていく。

舘内:そうですね。この先10年は極端には変わらないでしょうが、自動車メーカーは5年から10年で先行投資を決めていきますからね。先行投資を止めると技術は停滞してしまうので、商品の魅力が停滞してしまう。

---:日本の自動車産業が発展しつつ、EVシフトが起きるシナリオはあるんでしょうか。

舘内:『ノートeパワー』が、7月の販売台数1位でしたよね。試作段階では乗ったらこれはいけるなと思ったんです。シリーズ型のハイブリッド車ですけどね。もう少し電池を多く積んでレンジエスクテンダー型にすると、もっとCO2が減り、乗り心地もよくなると思います。だから上手な軟着陸というのは、ハイブリッドじゃなくてレンジエクステンダーでエンジンを残していくっていう方式がいいですね。

---:マツダはロータリーレンジエクステンダーと言っていますね。

舘内:レシプロは背が高いですからね。ロータリーのレンジエクステンダーは、横倒しにして後ろの荷台の下に置くんです。そうやってそれぞれ模索すると思うんです。EVシフトの中で、どうエンジンを生き延びさせながら、外注さんをカバーしながらどうやっていくのかと。だからトップは相当経営的にシビアで手腕を求められると思いますよ。だけど日本の自動車産業はここまで来たんですから、ヨーロッパとアメリカに対して、第三次世界自動車大戦に今度こそ負けるな、という話だと思うんです。

---:勝算はあるんでしょうか。

舘内:車体技術をもっていて、しかも量産で安くする技術を持っているわけですから。高級車は辛いでしょうけど、量産車の領域で、動力を上手くシフトしていければいいんです。あとは政治がきちんとバックアップすることです。エネルギー問題も原発問題も含めてきちんとコントロールして。

---:各国も政策によって自動車産業を後押ししているわけですからね。中国もヨーロッパもアメリカも。

舘内:そうです。政策で決まっていれば、割と社内のコントロールはできるんですよ。「経産省と国交省が言っているんだから」って。日本人って意外と役人に弱いからですね。

---:上からの圧力には弱いですよね。

舘内:だからこそ、政策議論をきちんとやらなきゃいけません。議論を重ねていかないとね。
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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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