【メルセデスベンツ S560 試乗】今の時点で、これ以上望みようがない…中村孝仁

試乗記 国産車
メルセデスベンツ S560
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1991年のジュネーブショーで3代目の『Sクラス』が発表された。常に時代の最先端を行くメルセデスのフラッグシップは、彼らの理念と戦略に基づき、最高のモデルを作り上げた。しかし、待っていたのは反発。ここからメルセデスのクルマ作りが変わった。

その前、つまり2代目のメルセデスSクラスは空前絶後のヒット作となり、今も最多販売台数の記録はこのクルマが持っている。それをメルセデスとしては正常進化させたのが、「W140」を名乗る3代目Sクラスであった。しかし当時の世相は省エネに端を発する環境問題が声高に叫ばれていた時期。大きく重く、そして燃費の悪くなったSクラスの評判は、彼らが自信を持って送り出した割りには低いものだったのである。その反動で、次の4代目「S220」は、大幅にダウンサイズされ、世相に配慮したのだが、その分押し出しが弱く、また批判を浴びた。Sクラスの盛衰がこの時代に見て取れる。

そして今、メルセデスというメーカーはちゃんと空気を読めるメーカーに変貌した。昔はひたすら自らの理想とするところを追い求めていたが、今ではちゃんとニーズとシーズをきっちりと市場に当てはめたクルマ作りをしている。

現行モデルはコードネーム「W222」を持つ6代目で、今回はそのマイナーチェンジというわけである。世相がどう反応しようが、Sクラスは乗ってみると常にその時代の最高の自動車としての価値を提供してくれる。つまりは最高のビジネスツールともいえる実用的なものだ。勿論、その価格から行って実用的などというと角が立つかもしれないが、要するに世の中にはもっと贅をつくした、例えばロールスロイスのようなクルマがあり、それは最高のビジネスツールなどとは呼べない代物だったから、実用的なわけである。これを腕時計に例えるなら、Sクラスはローレックスであり、それ以上のロールスロイスやベントレーなどはパテックフィリップをはじめとした超高級品と言えばわかり易いかもしれない。

今回のマイナーチェンジでは外観のリニュアルもさることながら、エンジンを一新し、トランスミッションには新たに9Gトロニックを採用、そしてマジックボディコントロールのサスペンションはよりその性能を高めるなど、走りを完全に進化させた。世間的に、そしてメルセデス的に訴求が強いのはインテリジェントドライブの進化や、通信機能の進化によるメルセデス・ミー・コネクト、メルセデス初のアクティブパーキングアシストなどだろう。

この中で驚くべき進化を見せていたのが、インテリジェントドライブの一つ、メルセデスで言うところのディストロニック、即ちACCの進化である。設定スピードに対して、常に前方車を監視して極めて適切なタイミングでブレーキを踏み、車間を維持してくれる。その精度の高さ、マイナーチェンジ前とはズバリ言って激変である。さらにLKA(レーンキープアシスト)も、見事なほど正確にレーンの真ん中を維持する精度の高さには舌を巻いた。これはもう事件である。比較的速い流れの首都高速湾岸線でこのACCとLKAを試してみたのだが、コーナリング中でもきっちり車線の真ん中を維持できたクルマはこれが初めてである。

快適性もずば抜けていた。それがマジックボディコントロールのおかげなのかは定かではないが、正直なところこれ以上望みようもないほどスムーズで快適。次に作るクルマがこれを超えられるのか心配になるほどである。

今回「S560」を名乗るモデルのエンジンは、気筒休止機能が付いた4リットルツインターボV8である。ご存知の通り560の名は、一番売れた2代目Sクラスのトップモデルだった。それにあやかったのだろうが、どこを探しても今回のモデルに560の名がつく理由は見当たらなかった。が、2.2トンを超える車重のボディを軽々と、それに軽快に走らせる強心臓であるとだけ言っておこう。9速ATは既に他のモデルで体験済みだが、その変速はいつどこで行われるかほとんどわからない。勿論気筒休止の方も全くわからず、である。

コーナリング中は、必要な側だけのサイドサポートをぎゅっと締めてくれるシートは、少なくとも一般道を走る限り非常に適切なサイドサポートを与え、普段は締め付けから解放されるリラックスしたドライビングポジションが取れて、これも理想的。彼らの標榜する「最善か無か」というフレーズは、このクルマに関する限りまさに最善である。デカくて少し持て余すという以外は完璧なクルマである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。
《中村 孝仁》

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