「幻の鉄路」遺構活用の夢と課題探る…奈良県五條市でシンポジウム

鉄道 行政
奈良県五條市内で開催された「全国未成線サミット」の様子。「幻の鉄路」の遺構を活用した全国各地の自治体や団体が一堂に会した。
  • 奈良県五條市内で開催された「全国未成線サミット」の様子。「幻の鉄路」の遺構を活用した全国各地の自治体や団体が一堂に会した。
  • 鉄道研究家の森口氏が披露した「五新線城戸駅」のイラスト。森口氏は「『実際に開業していたらどうなっていただろう』と想像力をかき立てられるのが未成線の魅力」と語った。
  • 五新線(阪本線)に残るアーチ橋。2016年度の土木遺産に選定された。
  • 五新線(阪本線)に残るトンネル。老朽化のため2014年に閉鎖された(写真は「サミット」翌日の一般開放イベントで撮影)。
  • 未成線の遺構は各地に点在しており、一部は観光などに活用されている。写真は土木遺産に選定されたアーチ橋が残る今福線。
  • 未成線の遺構は各地に点在しており、一部は観光などに活用されている。写真はワインセラーとして活用されている佐久間線のトンネル。
  • 未成線の遺構は各地に点在しており、一部は観光などに活用されている。写真は路盤にトロッコ用のレールを敷いて月1回程度の運転を行っている油須原線。
「幻の鉄路」をどう活用するか---。NPO法人五新線再生推進会議や奈良県五條市、国土交通省などは3月4日、「全国未成線サミット」と題したシンポジウムを開催した。国土政策の推進を目的に各地で開催されている「国土政策フォーラム」の一環。

未成線は未完成の鉄道路線のこと。とくに構想・計画の段階や工事の途中で中止され、幻に終わった鉄道路線を指すことが多い。工事途中で中止された未成線は橋りょうやトンネルなどの遺構が残り、一部では遺構を観光資源として活用している例も見られる。シンポジウムが開催された五條市でも、「五新線」と呼ばれる国鉄未成線の計画があった。

五新線は、和歌山線の五条駅から紀伊半島の山間部を縦断し、太平洋岸の紀勢本線新宮駅(和歌山県新宮市)に至る計画だった未成線。現在の五條市内の五条~城戸~阪本間のみ1939年に阪本線として着工した。このうち、戦後の1959年までに路盤の大半が完成した五条~城戸間は、鉄道完成までの暫定措置としてバスを走らせることが決まり、バス専用道に改築されている。

その後、国鉄の経営悪化を受けて1980年に日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(国鉄再建法)が制定されたのを受け、1日平均の通過人員(旅客輸送密度)が4000人未満と想定される国鉄未成線は工事が凍結。阪本線も1982年までに工事が凍結された。五条~阪本間の路盤は引き続きバス専用道として使われていたが、トンネルの老朽化に伴い2014年9月限りで閉鎖された。

しかし、完成した路盤やトンネル、橋りょうなどの施設はほぼ全て残っており、2013年には遺構の活用を目指す有識者団体が発足。2015年にNPO法人化して五新線再生推進会議が設立された。2016年度には、五新線のアーチ橋が土木学会の選奨土木遺産に選ばれている。

■「物語」を見つけ出す努力を

サミットは13時30分から約3時間、五條市内の西吉野コミュニティーセンターで開催。パネルディスカッションでは、国鉄未成線の遺構を地域振興に活用している自治体やNPO団体などが一堂に会し、現在の取り組みや課題などを語った。

中国地方の三段峡(広島県安芸太田町)~下府・浜田(島根県浜田市)間を結ぶ計画だった今福線からは、同線の調査・研究を行っている島根県技術士会の和田浩氏が出席した。「どこにどんな遺構があるのか分からなかったので、まずは遺構のある場所を示す業務用の地図を制作した。しかし、これでは一般の人にはとっつきにくいから、イラスト風の地図も作って一般に公開した。これが認知度の向上につながった」などと話した。最近は現地調査を行っていると、遺構巡りをしている観光客に遭遇することが増えたという。

東海地方の天竜二俣~中部天竜間(浜松市天竜区)に計画された佐久間線では、一部のトンネルがワインセラーとして活用されている。天竜区役所の原昌広氏は「ワインセラーは民間からの提案。こうした発想は民間の方が素晴らしいと思う」などと話し、民間との連携の必要性を強調した。

九州の筑豊炭田に隣接する赤村は、石炭輸送を目的に計画された油須原線のうち、工事が凍結された区間に残る路盤の一部を活用してトロッコ列車を走らせている。月1回の運行だが、年間で1200~1500人が乗車しているという。赤村の松浦幸一氏は「産業遺産という物差しで(未成線の)活用をアピールする必要がある」などと話した。

国交省国土政策局総合計画課の牧野武人氏は「個人的な考え」と断りつつ、五新線の遺構の活用案を披露。バス専用道として使われていた経緯を踏まえ、「ボンネットバスなど古いバス車両を保存している団体は各地にあるが、それを走らせる場所がない」などと述べ、バスの動態保存の場として路盤を提供してみてはどうかと提案した。

「鉄道未成線を歩く」(JTBパブリッシング)などの著書がある鉄道研究家の森口誠之氏は「『もし開業していたらどうなっていただろう』という想像力をかき立てられる。それが未成線の魅力」と述べた。その一方、「未成線は(開業した路線のような)『物語』や『記憶』がない。(1980年代に工事が凍結された)国鉄未成線の場合、工事の様子を知っている沿線住民も減っている。今は当時を知る人から話を聞ける最後のチャンス。こうしたところから『物語』を見つけ出し、次の世代につなげる必要がある」などと話し、早急な聞き取り調査が必要との認識を示した。
《草町義和》

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