人間による直感的な操作システムを搭載した人型重機が、京都市の京都鉄道博物館に展示される。開催中の「『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』in 京都鉄道博物館」の関連イベントだ。「シンカリオン」は新幹線からロボに変形する玩具やテレビアニメ・劇場版アニメなどを展開するメディアミックス。
展示される人型重機は株式会社人機一体が開発した『零式人機 ver.2.0』と、それをベースに開発され、西日本旅客鉄道(JR西日本)で鉄道設備メンテナンスに使用されている『多機能鉄道重機』の2機種。両機のコラボ展示はおそらく初だろう。
◆人型重機で高所作業を解消
JR西日本は2024年7月より、鉄道設備メンテナンスにおける高所作業の解消のために、人機一体のロボット工学技術を搭載した多機能鉄道重機を導入した。鉄道工事車両のブーム先端に人型重機が設置され、遠隔操作することで、高所作業を安全に行なう。
多機能鉄道重機は当面は架線支持物の塗装や支障樹木伐採に使用される。今後もJR西日本において作業ツールの開発を継続し、対象作業を拡充する予定だ。電力や土木など他分野への応用も視野に入れている。
多機能鉄道重機は、高所重作業ロボットの零式人機 ver.2.0をベースに製品化された。零式人機 ver.2.0はJR西日本、日本信号株式会社、人機一体が共同で開発した。零式人機 ver.2.0に使用した、人機一体の特許技術を日本信号に提供、多機能鉄道重機が製作されている。零式人機 ver.2.0が試作機、多機能鉄道重機が実用機というような関係だ。鉄道設備メンテナンスでは西日本電気システム株式会社により運用される。

◆直感的に操作できる
多機能鉄道重機は、人機一体独自のロボット工学技術により、作業者は直感的に操作できることが特徴だ。多機能鉄道重機には力制御・トルク制御技術やパワー増幅バイラテラル制御技術などの技術が搭載されている。作業者のVRゴーグルを通じての、ロボット目線での作業も実現した。
機械の構成は、人に代わって重作業を行なう人型重機、人型重機の広範囲移動を担うブーム、人型重機とブームの操縦装置を装備した操縦室、道路と線路の両方を走行可能な鉄道工事用車両の各部分からなる。塗装や伐採など多様な作業に特化したツールを装備し、遠隔操作で最大40kgの重量物を把持でき、12mの高所作業が可能だ。
◆開発の背景にある社会的課題とは?
多機能鉄道重機開発の背景には、建設業の就業者数減少や技能者の高齢化がある。国土交通省の報告(2021年)によれば、インフラメンテナンスを含む建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに減少傾向にある。報告資料によると60歳以上の技能者が25.7%を占め、2031年までに多くが引退するいっぽう、29歳以下の技能者は12%ていどに留まっている。このような状況下で、若手技能者の確保と同時に生産性向上が急務となっている。
JR西日本は、技能者の確保や生産性向上を意図し、グループ中期経営計画2022において「システムのメンテナンスチェンジ」を掲げ、新技術の導入を進めている。その一環として、人機一体のロボット工学技術に注目し、高所重作業に対応可能なロボットを開発してきた。
多機能鉄道重機の導入効果としては、高所作業の省人化による生産性向上や、労働災害(墜落・感電)リスクの低減が期待される。また、性別や年齢に関わらず多様な人材が高所作業に従事できる環境の創出もある。

◆『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』in 京都鉄道博物館
人機一体は、京都鉄道博物館で開催中の「『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』in 京都鉄道博物館」の関連イベントとして、零式人機 ver.2.0を展示する。JR西日本も営業線で鉄道設備メンテナンスに使用されている多機能鉄道重機を展示する。この特別コラボ展示は1月18日と19日の予定。また零式人機 ver.2.0と500系新幹線電車の並列展示も予定されている。こちらは1月20日から28日まで。
3月2日まで開催中の「『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』in 京都鉄道博物館」では、TVアニメ『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』の世界を体験できる。アニメの複製原画や設定資料、関連グッズの展示、フォトスポット、AR技術を活用したコンテンツが楽しめるほか、特別な演出が施されたSLスチーム号も運行される。
シンカリオンは、ジェイアール東日本企画、小学館集英社プロダクション、タカラトミーの3社が原案となるメディアミックスプロジェクトで、最新作『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』はTVアニメシリーズの3作目。毎週日曜にテレ東系列で放送中だ。
主人公・大成(タイセイ)たちシンカリオン運転士が登場し、新幹線が変形するロボット「シンカリオン」と、実在の作業車などをモチーフにした武装強化ビークル「エルダビークル」とが合体し、正体不明の敵・アンノウンに立ち向かう。劇中、零式人機と多機能鉄道重機をベースに開発されたエルダビークルが「エルダ式ジンキ」だ。シンカリオンのメンテナンスや、線路の高所設備の重筋作業にも活用される。