【スバル クロスオーバー7 試乗】国産SUV市場に突如現れたダークホース…井元康一郎

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スバル エクシーガ クロスオーバー7
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スバルが4月に発売した7シーターSUV『エクシーガ クロスオーバー7』を試乗する機会があったのでリポートする。

ベースとなった7シーターステーションワゴン『エクシーガ』は2008年6月発売と、デビューからほぼ丸7年を経た、技術的には1世代前のモデルだ。そのため、試乗するまでは大して期待していなかったのだが、実車を見て乗ってみたところ、印象は激変。内外のクロスオーバーSUVのライバルと比較しても、キャラの立ち方が際立ったモデルだと感じられた。

◆印象激変、走りにも好影響

まずはたたずまい。ベースのエクシーガを初めて見たときは、プロポーション、ランプ類のテクスチャ、ウインドウグラフィック等々、アンバランスな部分だけがやたらと目立ち、お世辞にも格好良いとは言い難いデザインとしか思えなかった。

クロスオーバー7は、車体の造形はそのエクシーガとほとんど変わっていないのだが、ボディの前後左右に黒のプロテクションモールやフェンダーアーチモールを配し、ルーフにキャリアレールを設けただけで、雑多なディテールが一転、野性味としてポジティブに感じられるようになった。カタログも含めた写真では伝わらない部分が多分にあるので、関心があるカスタマーはディーラーで一見することをおススメしたい。

イメージが激変したのは内装も同様だった。もともとの造形は大きく変更せず、シート表皮やトリムの素材を東レのスエード素材に変更し、メーターの意匠を刷新しただけなのだが、それだけでお洒落感は見違えるほど向上した。スエード素材のオレンジ色の調色が絶妙な良さで、もともと面積の大きな窓とあいあって、室内をとても明るくルーミーなものに見せることに成功している。また、クロスオーバー7化のさいにシート構造も変更されたとのことだが、そのタッチも優れたものだった。

内外装の印象が一新されたことで、エクシーガがもともと持っていた美点である少し前のスバルらしいフラットな乗り味の良さが俄然生きてきた感があった。最低地上高を10mm上げて170mmとしただけでなく、ショックアブゾーバーやブッシュ類のセッティングについても全面リファインしたとのことだが、その効果はてきめんであった。

最も印象が良かったのは高速巡航。今回走った東関東自動車道の成田~潮来の区間は路面状態がとても良いのだが、それを勘案してもシャーシが微小な振動を吸収する能力は大したもので、文字通り滑るように走る。単に滑らかなだけでなく、うねりでバンプしても進路が乱されることなく、ステアリングによる修正をせずとも揺れが収まると元の進路を維持しているという、欧州Dセグメントモデルに似た強固な直進性を持っている。

路面の荒れた田舎道になると、気になるほどのレベルではないが、足回りから微妙なガタつきが発生するようになる。また、ピークのはっきりしたギャップを踏んだときに、内装が部品の自重によるものと思われる軋み音を立ててしまう。静粛性は基本的に高く、SUVにありがちなこもり音も極小に仕上がっていたが、その中でサーッというタイヤのパターンノイズのカットはあまりうまくいっておらず、他が静かなだけにやや耳障りなものに感じられた。これらの雑味を取り切れれば、プレミアムセグメントに肉薄するような商品になるはずだ。

凡庸なのはパワートレイン。2.5リットル水平対向4気筒+チェーンドライブCVTという組み合わせだが、パフォーマンスは1.6トンの車重に対しては必要十分以上の域を出ない。ダウンサイジングターボや欧州に投入されているボクサーディーゼルなどがあれば、カスタマーに対する訴求性はもっと高まるだろうにと思われた。

ハイテクなしでも燃費は悪くなく、エアコンAUTO、1名乗車、高速7割、一般道3割という条件で走ったところ、オンボードコンピュータ上の平均燃費表示は13.5km/Lと、JC08モードの13.2km/Lはゆうゆうと上回った。高速巡航速度を100km/hより少し落とし、一般道でほどほどエコランに気を配れば14km/L超えくらいは簡単そうだった半面、中高負荷領域を積極的に使って走ると燃費の落ち込みは結構大きそうだとも感じられた。

◆新しいことと良いものであることは全くの別問題

総じてエクシーガ クロスオーバー7は、国産クロスオーバーSUV市場において思わぬダークホースが飛び出してきたもんだと感じさせられるような良さを持ったクルマだった。スバルはほかに設計年次の新しい2列シートのクロスオーバーSUV『アウトバック』も販売している。両車を比較すると、ロードノイズレベルが小さいこと、最低地上高が200mmあることなどアウトバック側にもアドバンテージはあるが、滑らかな乗り味やSUVとしての洒落感などクロスオーバー7のほうがいいと思われる部分のほうがずっと多いくらいだった。また、内外のDセグメントSUVと比べても、一部のプレミアムセグメントを食いかねない勢いだ。

筆者は今年の早春、ボルボ『V70』、フィアット『500』と、デビューから7~8年経過したモデルをたて続けにドライブした。両モデルとも現在の基準でみてもきわめて高いレベルの操縦性や乗り心地、ファントゥドライブなファクターを有していることに驚き、フルモデルチェンジの意義について考えさせられること甚だしかった。

クロスオーバー7のベースとなったのは2003年デビューの旧々型『レガシィ』。スバルが本格的にプレミアムセグメントを目指そうと意気込んで設計したクルマで、現代的な設計に比べるといろいろと無駄な部分も多いそうだが、そのぶん素性の優れたものに仕上がったのか、現代においても高い質感のクルマを作るベースとして通用していた。思えば当然の話なのだが、新しいということと良いものであることは、まったく別の問題なのである。

このエクシーガ クロスオーバー7、先進安全装備のアイサイトを搭載しながら、価格は税込み275万4000円。当初はコストが高かったコンポーネンツだが、今日では償却も終わり、低コストで作れるのだという。自社のライバルであるアウトバックを含め、クロスオーバーSUVを検討しているカスタマーにもっと真価が知られてもいいモデルだと感じられた次第だった。

ちなみに今回は70km程度のショートドライブだったが、過去の経験に照らし合わせてみて、ロングツーリングへの適性は相当に高そうだという予感があった。機会があればロングドライブであらためて魅力を探ってみたいと思わせるモデルだった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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