改良版『86』では、個人的には6速AT車の代り映えにも関心をもった。スポーツカーでありながら“スポーツクーペ度”もより高められていたからだ。
印象的なのは、走りにコクが増した点。ダンパー、サスペンション取り付けボルトの改良はMT車と共通で、走らせてみるとサスペンション系の剛性の高さと、好感のもてるカドマルな乗り味、ステアリング切り始めのしっとりとしたタッチは実感できる。が、その“波長”がMT車以上に合っていると思え、クルマ全体の格があがったようにさえ感じる。
パワーユニットはMT車と共通で、200ps/20.9kg-mの爽快な動力性能はAT車でも同じ。さらにパドルシフトを駆使したり、モード切り替えを“SPORT”にすることで、リラックスしたまま、十分に刺激的なパワー感まで味わえる。アクセル開度にかかわらず、エンジンレスポンスが自然なにもいい。レポーターはこの最新モデルのAT車で86が今までより大人びて思えた次第。
奇をてらわない新円かつ適切なグリップ形状と太さ、硬さのステアリングホイール(トヨタ車最小径の365mm径という)や、アナログメーター、着座感のいいシートなど、スポーツカーのセオリーを大事にした車内環境も、乗るにつれ身体に馴染む。赤を差し色にした試乗車のインテリアも、軽々しくなくいいセンスだ、と改めて感じた。
それと懐かしさ。振り返りではあるが、50歳台のクルマ好きならば、運転免許をとり友人の誰かしらが『セリカ LB』を買い、人数が3人以上の移動となると誰かが後席に押し込められた覚えがあるはずだ。それもまた楽しからずや…だった。86のタイトでオシリを落として座る後席は、そんな青春時代(!)の記憶も思い出させてくれる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。 便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。