【三菱 デリカ D:5ディーゼル 640km試乗前編】雨風でもばく進、本格SUVライクな乗り味…井元康一郎

試乗記 国産車
デリカD:5ディーゼル
  • デリカD:5ディーゼル
  • 国道352号線を走行中
  • 奥只見シルバーラインの素掘りトンネル
  • 国道352号線の路上を融雪水が流れる。俗に言う“洗い越し”だ。
  • 安ヶ森林道名物の古トンネル
  • デリカD:5はこういう道によく似合う
  • 安ヶ森林道の洗い越し。何のこともないように見えるが、ホイールベース中央のクリアランスは210mmの地上高でも結構ぎりぎり。
  • 路面の悪い道でも車内は平和そのものだった。

三菱自動車のミニバン『デリカD:5』のクリーンディーゼルモデルをオフロードを含め約640km試乗した。今回は前・後編の2回にわたりリポートする。

オンロード、オフロードを問わず走れるオールラウンダーというキャラクターを引っさげて現行デリカD:5がデビューしたのは2007年1月。すでに7年選手というロングライフモデルだが、同様のキャラクターを持つ後追いモデルが出現しなかったため、今日においても自動車マーケットにおいてオンリーワンのポジションを維持している。

そのデリカD:5に一昨年末、クリーンディーゼルエンジン搭載グレードが追加された。車両価格がガソリン車よりも30万円以上高価で、受けられるクリーンディーゼル補助金も5万円にとどまるのだが、カスタマーの人気はクリーンディーゼルに集中しており、販売台数の66%がディーゼルだという。

試乗コースは東京・葛飾を出発し、東京外環自動車道、関越自動車道経由で新潟の小出へ。そこから国道352号線に入って枝折峠、奥只見ダムから福島の南会津郡に達した後、未舗装区間のある安ヶ森林道で栃木の湯西川温泉に抜け、鹿沼から東北自動車道経由で出発地に戻るというもの。途中の寄り道を含め、総走行距離は641.8km。全区間にわたりエアコン使用、3名乗車という条件で走った。

◆特筆モノの衝撃吸収性…市街地

まず市街地でのドライブ。基本的に快適性は悪くない。デリカD:5はオフロードを意識したチューニングを行ったというが、オンロードを走ってみても乗り味はオンロード型の一般的なミニバンとかなり異なる、個性的なものだった。

舗装面の継ぎ目や突起を踏んだ時の衝撃吸収性の高さは特筆モノで、サスペンションのブッシュの容量が相当に大きいことがうかがわれた。また、アンジュレーション(うねり)の通過では、強固な鉄板の下で四輪が自由運動し、車体上部はあくまでゆったりと揺れるという動きで、大船に乗ったような気分に浸れる。デリカD:5ディーゼルはFWD(前輪駆動)ベースのAWD(四輪駆動)ミニバンだが、乗り味は同社のクロスカントリータイプのSUV『パジェロ』に近い。

一方、2010年に欧州に投入された新世代2.2リットルターボディーゼルの出来は、今日のクリーンディーゼルとしては少々粗い。カラカラカラというディーゼル特有のアイドリング音と微振動は最新の常用クリーンディーゼルとしては大きめ。ただ、加速を終えてエンジンの負荷が減少した後は一転、そこそこ静かなクルーズとなる。

◆大型車を彷彿とさせる独特の乗り味…高速道

次に高速巡航。デリカD:5は210mmというヘビーデューティSUV並みの最低地上高を持ち、サスペンションストロークも長大。フロアが高いぶん車体の重心もかなり高めである。三菱自のエンジニアはロールセンターの高さをサスペンションのロール剛性アップで緩和するのではなく、むしろ素直にサスペンションをストロークさせることを重視したセッティングを行ったようだった。

結果、デリカD:5のクルーズ感は独特なものになった。例えて言えば、東名ハイウェイバスに使われている後輪2軸型の大型バスに似たテイストだ。路面の荒れやうねりはストロークの長いサスペンションとアッパーマウントの上下動で徹底的に吸収され、車内は常に平和に保たれる。その代償としてステアリングインフォメーションは乗用車としては薄いが、ロールセンターが高いことが逆に幸いして、シートを通して伝わってくる車体の動きの情報は逆に豊か。姿勢変化の情報をメインにクルマをコントロールするのも、大型SUVライクであった。

◆雨も風もお構いなしにばく進

また、悪天候、悪路への耐性の高さも特筆すべきドキュメントのひとつ。試乗当日は南関東に大雨洪水警報が出ており、関越自動車道は高崎付近まで土砂降り。路面の排水が間に合わず、道路の至るところに水たまりができるような状態であったが、デリカD:5ディーゼルはそのようなコンディションの中でも、水たまりを踏もうが強風に煽られようが、お構いなしにばく進するというイメージだった。AWDとFWDの両モードで走ってみたところ、AWDのほうがやや安定感に優れるようではあったが、FWDでも十分な性能であった。

高速巡航時は、市街地では少々目立っていた騒音はほとんど気にならなくなる。もともとディーゼルは騒音レベルはガソリンに比べて大きめだが、燃焼音は柔らかく、高速巡航のステージではロードノイズに紛れて聞こえにくいタイプのノイズだからだ。ただ、6速での100km/h巡航時のエンジン回転数は1800rpmと、今日のディーゼル車としては高め。エンジントルクはかなり余っているという感じであったので、パジェロ3.2リットルディーゼルの1400rpmとまでは言わずとも、1600rpmくらいに抑えたほうが騒音面でも燃費面でも良かったのではないかと思われた。

◆デリカ D:5で掛ける深山ドライブ

関越トンネルを抜け、新潟の小出インターチェンジから先の奥只見シルバーラインおよび国道352号線は山岳路のオンロードステージ。奥只見シルバーラインは貯水量国内第2位を誇る奥只見ダムに至るルートで、実に19ものトンネルが連続する秘境道路だ。全長が4km弱と最も長い明神トンネルの中は夏季でも10度台前半で、風穴の中をドライブしているような気分が味わえる。奥只見界隈はマタギの里として知られ、奥只見ダム近くのひなびた観光センターでは熊肉料理も食べられるという、なかなか素敵な場所だ。

ダムから先、裏尾瀬近くを通って福島・南会津へと向かう国道352号線は、雪渓からの雪解け水が路上を流れる箇所が複数ある、これまた山深い道路。樹海ラインという異名のとおり、尾瀬へのアプローチではブナやダケカンバの原生林を通過するが、その光景はまさに清澄。道路はほぼ全線1車線で、すれ違いに気を使うような狭い場所もところどころあるが、それでもシルバーラインのサブルートで夏から秋にかけてのみ通行できる352号線枝折峠ともども、道路は昔に比べると劇的に改良されており、初心者でも容易に通行可能。深山ドライブを体験してみたいという人には自信を持ってオススメできるナイスなルートである。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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