スズキの四輪技術説明会で、新興国向けの新パワーユニットとして開発中であることが発表されたディーゼルエンジンは、排気量は800cc、シリンダー数は何と2気筒だという。四輪エンジン第二設計部長の加藤勝弘氏に、この開発途中のディーゼルエンジンについて話を伺うことができた。このエンジンは現在、ディーゼルエンジンのライセンス供与を受けているフィアット社から技術的なアドバイスも受けて開発しているのだろうか。
「いいえ、これは完全に社内で開発しているものです。経験は浅いのでイチから手探りで作り上げています」。
しかしスズキの四輪車の歴史の中でディーゼルはもちろん、2気筒エンジンを搭載していた実績もないはずだ。ということは二輪車の2気筒エンジンを開発したノウハウも役に立ったのだろうか。
「実は、全くその通りなんです。開発にあたっては我々四輪技術本部だけでなく、2輪の技術本部とも技術的なディスカッションして、意見を反映させた部分もあります」。
これまでは四輪と二輪用エンジンでは独立した開発体制となっていたが、今回は二輪エンジンで長く培った2気筒エンジンの技術やノウハウを四輪用エンジンに活かしているのである。では、これまでの開発作業の中で、苦労した部分とは何なのだろうか。
「2気筒の振動と共に吸排気の脈動が大きいので苦労しています。エンジン本体の振動対策については、バランサーと燃焼の制御で行っています。燃料噴射で燃焼をコントロールできるのがディーゼルのいいところだと思っています」。
現時点では1回の燃焼工程で4回噴射して、振動や排気ガス成分のコントロールを行っていると言う。ユニークなのは、その燃料噴射のシステムだ。コモンレールと名は付いているが、実際にはコモンレールらしき部品は見当たらない。
「これはFDBコモンレールという方式です。FDBはフューエル・デリバリー・ブロックの略で、高圧ポンプからブロックを通じて各気筒に分配しています。2気筒なのでレールを使わずとも、同じ効果が狙えるのです。またフューエルコントロールユニットと高圧ポンプを分離して配置することにより、ポンプユニットを小型化することでエンジンルームへの収まり性を向上しています」。
燃圧は現時点では145MPaと、高圧化が進むコモンレールディーゼルの中では比較的低圧だと言う。コストを抑えるためにも反応の速いピエゾ式のインジェクターではなく、ソレノイド式のインジェクターを使っているようだ。
ディーゼルしかも2気筒と、初めてづくしのエンジンにも関わらず、環境性能と快適性、それに生産コストを満足させるという難題に挑戦しているスズキ。今後の新興国市場で勝ち残っていくための武器とも成りえるだけに、スズキの本気度が伺える。