【インタビュー】“キネティック・デザイン”のその先へ…フォードはグローバルに通用するデザインを目指す

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欧州フォード エクステリア・ディレクター ステファン・ラム氏
  • 欧州フォード エクステリア・ディレクター ステファン・ラム氏
  • フォード S-MAXコンセプト
  • モンデオ ヴィニャーレ コンセプト(フランクフルトモーターショー13)
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  • フォード S-MAXコンセプト
  • フォード クーガ「タイタニアム」
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欧州フォードは06年発表のミニバン、『S-MAX』から「キネティック・デザイン」をテーマにデザインを展開してきた。日本で販売されているモデルでは、フォーカスとクーガがこのテーマによるスタイリングだ。

キネティックとは『運動の、精力的な』という意味の英語。ダイナミックなフォルムを追求しつつ、フロントの低い位置に大きな台形グリルを置くなど、台形をモチーフに安定感を表現するのが、キネティック・デザインの特徴だった。それが最近、少し変わりつつある。

◆キネティック・デザインのその先へ…グローバルなデザインへ

「我々は『キネティック・デザイン』から、さらに一歩推し進めたデザイン言語を採用している」と語るのは、欧州フォードでエクステリア・デザインのディレクターを務めるステファン・ラム。「フォードはグローバルなブランドだから、デザインもグローバルにしていく必要があるのだ」

フォードはアメリカ(ディアボーン)と欧州(独ケルンと英国ダントン)でデザイン開発を行っているが、どちらで開発するクルマにも同じデザイン・アイデンティティを持たせ、それをグローバルに訴求するというのが新方針。それゆえ欧州フォードだけがテーマにしていたキネティック・デザインは、終わりにせねばならなかったのである。

11年のフランクフルト・ショーで発表した”Evos”が、この新方針に基づく新しいデザインテーマを初披露するコンセプトカーだった。新テーマには『キネティック』というような固有の名称はなく、「One Global Design Languageと呼んでいる」とラム。「さまざまな地域に通用するデザインを生み出すのはチャレンジだが、これまでのところうまく行っている。例えば『フュージョン』『モンデオ』はとても成功しているよ」

◆新しいフォード顔

新しいデザインテーマを量産車で最初に採用したのが、その新型フュージョン/モンデオだった。北米向けのフュージョンは12年デトロイト・ショーで、欧州向けのモンデオは同年のパリ・サロンでデビュー。基本的に同じデザインである。

「例えばダイナミックさなど、従来のキネティック・デザインを受け継ぐ要素はもちろんある。しかしフォードのブランドDNAを築き上げていくために、デザインテーマを進化させた」とラムは語り、こう続けた。「すでに市場にあるクルマを否定することになってはいけないので、スムーズに新しいテーマに移行するように配慮した」

フロントの顔付きを見れば、キネティック時代との違いがわかりやすいだろう。「台形グリルはフォードの目印だから、そこは変えていないけれど、位置を高くした」のが、新世代フォードの顔の特徴だ。フォーカスやクーガでは台形グリルの上にもうひとつグリルがあるが、フュージョン/モンデオにはそれがない。

ヘッドランプは小型化する方向だという。「キネティックの頃は大きなヘッドランプをデザインしていたが、技術の進歩を活かしてランプを小さくし、フォルムによりインテグレートさせたい。以前のような天地寸法の大きさは、もう必要ないからね。実際、フェイスリフトしたフィエスタ(12年パリ・サロンで発表)は、ヘッドランプを小さくした」

◆プレミアムではないプレミアム・ルック

「我々が目指すゴールは、プレミアム・ブランドになることなく、フォード車により上級感のあるプレミアム・ルックを与えることだ」とラムは告げる。「路上を走るフォード車を見た人が、『WOW ! あの人は洗練されたクルマに乗ってるね』と言ってくれるようにしたい。そのためにはグリルやランプなどのグラフィックスも含めて、本物感が大事だ。タイムレスなデザインにしたいと考えている」

9月のフランクフルト・ショーで、フォードはS-MAXコンセプトを発表した。次世代ミニバンを予告するものであり、新しいデザインテーマの最新作でもある。これについて、ラムは次のように説明してくれた。

「シルエットやスタイルの点で言えば、S-MAXコンセプトは非常に効率の高いデザインだ。それでいてサイズ感や室内広さ、ダイナミズムなど、顧客がミニバンに求めるすべての要素を備えている」

「市場調査すると、顧客は他とは違うデザインを求めている。とくにアジア諸国では最新のデザイン要素を望む傾向が強いので、そこは我々も考慮しているところだ。我々は自分たちのためのデザインしているのではないからね。ブランドにフィットし、顧客のニーズに応えるデザインを行わなくてはいけない」

◆ネット時代のグローバル・デザイン

国や地域によって文化が異なり、顧客のニーズも違うはず。しかし地域ごとにデザインを変えないのが、フォードの新方針だ。さまざまなニーズに、ひとつのデザインで本当に応えられるのだろうか? ラムは時代の変化に言及した。

「地域のニーズを把握するために市場調査を行ってわかったのだが、10年前に比べて、それぞれの地域が似通ってきている。インターネットが普及したおかげで、どの地域でもデザインに関する興味や感覚が共通化しているのだ」

フォードは以前からグローバル指向が強い。96年の2代目モンデオをグローバルカーにすべく、北米でコントゥアの名で売ったが成功しなかった。「当時はまだ時期尚早だったのだろう」とラムは言う。

「インターネットが今の時代に果たしている役割は、驚くべきものだ。私は96年に半年ほど浜松に住んだことがあるが(当時、ラムはGMで働いており、提携先のスズキに長期出張した)、なんだか日本が世界から孤立しているように感じたものだ。しかし今、我々は当時とはまったく違う世界に生きている」

「中国のニーズは他の国とは少し違うかもしれない。彼らはクロームメッキが大好きだし、アドオンした要素を求める。我々ヨーロッパの感覚からすると『やりすぎ』に思えることもあるが、それは部品レベルで対応できることだ」

日本メーカーは中国市場に専用車を投入しているし、グローバルカーを目指す場合でも、例えばトヨタ『カムリ』は北米向けと日本/中国向けではボディ前後のデザインを変えているのだが…。

「他社のデザインについて語ることはできないが、前にも述べたように、我々のデザイン戦略は巧く機能している。フォーカスは昨年、独立調査機関から、世界で最も売れたクルマとして認定された。SUVのエスケープはアメリカで成功しているし、その姉妹車のクーガを中国に導入したところ、驚くほど好調だ。フュージョンもアメリカで大成功を収めている。ひとつのデザインをグローバルに売ることができる時代になったのだ」

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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