【トップインタビュー】「我ら妥協なき集団、小さいことを強みにする」マツダ小飼雅道社長兼CEO

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マツダ 小飼雅道 代表取締役社長 兼 CEO
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  • マツダ・CX-5 2013アニバーサリー
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  • マツダ・Mazda6(日本名:アテンザ セダン)

リーマン・ショック後に続いた冬の時代を、SKYACTIV技術と「モノ造り革新」で乗り越え、赤字を脱したマツダ。6月に就任し、新たな成長への舵取りを担う小飼雅道社長は、2016年3月期までにグローバル販売拡大や安定した収益体質を狙う構造改革プランの目標について「必達」を宣言する。

----:マツダがめざすべき企業像をどう描いていますか。

小飼社長(以下敬称略):マツダは決して大きなプレーヤーではなく、現状のグローバルシェアはせいぜい2%程度。拡散するのでなく、われわれの強みが発揮できる“持ち場”でぜったい他社に負けない商品を妥協せずに造り続けていく、そういう会社をめざしている。一方で為替変動に対して態勢が弱いなど、課題もある。そこで構造改革(=構造改革プラン)への取り組みをやってきたが、その改革のトップにある商品づくりでは「SKYACTIV」を適用した2車種(=『CX-5』『アテンザ』)が成功し、2013年3月期はようやく黒字を達成できた。今期の第1クオーターも計画以上の進捗だ。

間もなく出す『アクセラ』は、いちばん販売台数の多い商品。商品力を認めていただき、今後も買い換えてくれるマツダファンをつくるような車種にしたい。ガソリンエンジンでは今回、SKYACTIV-G シリーズとして1.5リットルを新たに刷新した。このエンジンを搭載したセダンの燃費は19.6km/リットルと現行モデルより25%改善しており、評価いただけると確信している。アクセラは確実に成功させたい。

スポーツカーのDNAをすべての車種に

----:世界のライバルと比較すると、スケールなど不利な点も少なくないなか、世界に伍して行ける商品が生まれる源泉、あるいはマツダの強みはどこにあるのでしょう。

小飼:今われわれが開発している商品群のコンセプトを信じ、従業員全員がそれを強みと思い、情熱をもって取り組んでいる。この一体感が一番大事なところだと思う。われわれの強みにフォーカスした商品づくりとは、ひと言でいえばスポーツカー、スポーティカーで培ったものだ。つまり動力性能、走破性能、操縦安定性能が高く、結果としての本質的な安全を体感できる商品である。

----:それらを生み出す土壌とは何でしょうか。

小飼:たとえばスポーツカーやレースを通じて得たボディー、サスペンションの開発能力といったものがある。各テストドライバーが限界まで挑戦するところまでやるし、開発陣も絶対負けないぞという気持ちで探求を続けている。そうしたところがわれわれの“持ち場”の部分であり、(他社に)負けてはいけない分野。逆に、それ以外のところには手を出してはいけないと考えている。

----:フォーカスして戦っていく。そのポイントが全社で共有されているということですね。

小飼:そう。こじんまりしているところが意識の共有につながっている。つまり、広島にほとんどの開発陣が居て、フロアひとつかふたつ違うところに生産技術も居て、工場は目の前にある。そういう環境で各部門が2、3年後に生み出せる商品を徹底的に協議して、ここで確定して、それぞれが並行して開発を進める。サイマルテニアスというか、コンカレント(筆者注=いずれも各部門が並行して一体的に開発に取り組む手法)というか、そういう開発の仕方を身につけている。

企画して開発に下ろし、設計して図面にし、生産現場で調整が入るというシーケンシャル(連続的)なやり方ではない。シーケンシャルな開発体制だと、企画した商品は次の部署を通過するたびに必ず劣化してくる。設計はこんな図面はできない、生産技術はこんなものつくれないとなってくる。

マツダでは最初から売る人、生産する人が開発の方に入って、一緒にものをつくりあげようというやり方だ。

----:企業の規模としても、車種の数としても、そうした並行開発体制が取りやすく、結果として商品力で有利になると。

小飼:そう。あと広島気質というか、そういう仕事の進め方が会社として身についている。

モノ造り革新で「ベスト構造」が出せた

----:構造改革の一環としても取り組んでいる「モノづくり革新」では、中期的に投入する商品を一括して企画していますが、これも同じ考え方ですね。

小飼:はい。元々台数がそう多くないですから、開発のシナジーを出すには、やはりBセグメント以上は共通のストラクチャー(車台などの骨格構造)にしていかないと効果は出てこない。それはどうしてもやらざるを得ない。ただし、共通にするのが目的ではない。一番高性能で、最も軽量で、ローコストだというストラクチャーを今回、モノ造り革新でブレークスルーしてベスト構造に辿りつけた。ベストであれば、共通であろうがなかろうが、それぞれのモデルの開発担当者が使いたいと思う。

また、サプライヤーさんも共通の部品を生産できるというメリットが出てくる。さらに、われわれが海外で工場を造る時も共通の設備で複数のモデルを生産できるので、投資抑制が可能となる。

----:8月に防府工場で尖ったデザインでも量産を可能にするような車体プレス技術や塗装技術などを見学する機会がありました。モノ造り革新の現場は、単なる効率化やコスト低減にとどまらず、ブランド力を高める場にもなっているとの印象でした。

小飼:有難うございます(笑)。これはここ5、6年でできたということでなく、かなり遡ったところから手を加えてきた。美しいラインをきっちり出せるプレス成形技術は、成形シミュレーターの開発もあるが、やはり造ってみてだめだったという結果をフィードバックし、経験を積み上げてきたことが大きい。

塗装工程でご覧いただいたのはアテンザの「ソウルレッド」という赤色だが、これも10年くらい前にシルバーグレイのメタリックで非常に陰影感のあるものを、当時のアテンザに採用したことがあった。しかし難しい塗料で、デザイナーの求めるものはできなかった。その後、メタリックの光る部分になる「アルミフレーク」を、塗面に平らになるようボディーに叩きつけて並行に配置するかという技術を開発し、ようやく工法が確立できた。いずれも失敗から学んだ積み重ねの成果だ。

構造改革プランの目標は「必ず達成」

----:冒頭に触れられた「構造改革プラン」では2016年3月期にグローバル販売を現状より4割ほど多い170万台に、また連結営業利益を1500億円とする目標を掲げています。現状での手ごたえはいかがですか。

小飼:これは必ず達成します。1ドル77円、1ユーロ100円という円高を前提に1500億円をだすという計画なので、台数だけでなく売り方が課題となる。つまりインセンティブを多く使った売り方やフリート(法人向け)活用の売り方はできない。基本的に1台当たりの収益を高めねばならない。いわば安売りをせずに正価販売をすることであり、これも5、6年前から取り組んできている。米国では調査機関によるとマツダ車の残存価格は、新モデルについてはトップクラスになってきている。商品づくりの集大成であるSKYACTIV技術は、そうした売り方ができる商品力の源泉でもあり、もちろんモノ造り革新で製造原価を下げる努力も進める。すべてを進めないと1500億円は出てこない。

----:商品開発から販売まで連動した取り組みの結果として目標達成が見えてくると。

小飼:安売りで170万台できても、それはゴールにはならない。ゴールした途端、倒れてしまいます(笑)。

----:昨年、新型アテンザをモスクワでデビューさせるなど、海外戦略ではメリハリを効かせています。しかし、新興国といっても幅広いし、米国など既存の巨大市場も無視できません。海外はどのように攻めていきますか。

小飼:商品面ではワイドレンジではなく、取捨選択を進めている。たとえばCセグメントといっても様々なクラスやバリエーションが想定されるが、われわれは勝てるCセグメントのジャンルへと絞っている。リソースの制限があるので、この選択は絶対やらなければならない。

同じように売る場所もその考え方が必要で、われわれの強みが発揮できるリージョン、国を優先する。一般的には新興国が成長力というが、われわれにとっては必ずしもそうではない。マツダのクルマをご理解いただける、クルマを知り尽くした成熟されたお客様がいる市場でないと勝負できない。

若い人がいつか必ず買いたいというクルマを出したい

----:日本や米国といった成熟した市場で勝負できると。

小飼:そうです。さらに欧州や、われわれのシェアが10%近くと高い豪州といったリージョンなどにフォーカスしていく。日本では若者のクルマ離れともいわれるが、それも魅力ある商品によって呼び起こしていきたい。若い人にも、このクルマはいつか必ず買いたいというものを出していきたい。

----:アクセラにはトヨタ自動車の技術によるハイブリッド車(HV)も設定されますが、次世代環境技術にはどう取り組んでいかれますか。

小飼:当面はスソ野が一番広いコンベンショナルなエンジンの効率的な燃焼の追求を進める。ここはマツダの持ち分として全力でやっていく。ただし、ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも走行プロセスで燃費が悪いところがあるので、そこはやはりモーターでカバーするということは必要だと考えている。各社がもっているパワートレーンの特性で、HVの性格が変わってくる。国内市場の登録車はHVが大半になってくるなか、当面はトヨタさんから技術供与を受けながらマツダのHVをつくりあげる。

電気自動車(EV)については航続距離やコストの課題があるものの、『デミオEV』を100台近く生産し、テストしている。燃料電池車(FCV)についても2000年代初頭に試作して以降、研究を進めている。EVの電池と同様、スタックやタンクは当面、他社やサプライヤーから調達し、車として完成させるパッケージや走りの部分でマツダの強みを活かすことを考えている。

小飼 雅道(こがい・まさみち)
1977年東北大工学部卒、東洋工業(現マツダ)入社。主に生産畑を歩み2004年執行役員防府工場長。06年から2年間は「思い出深く成長もできた」というタイの合弁工場社長を務める。08年常務執行役員技術本部長、10年取締役専務執行役員生産・物流・ITソリューション担当などを経て13年6月社長兼CEOに就任。「人事を尽くして天命を待つ」を昔から心掛けてきた。高校時代にはラグビーもやり、同社のラグビー部部長でもある。長野県出身、59歳。

《インタビュアー:池原照雄(経済ジャーナリスト)/三浦和也(レスポンス編集長)》

《池原照雄》

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