【中田徹の沸騰アジア】ヒュンダイの成長戦略、稼いだキャッシュを何に使うのか?

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ヒュンダイ MISTRA(上海モーターショー13)
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  • ヒュンダイ グランド サンタフェ(上海モーターショー13)

製品力(デザイン等)の向上や品質改善が近年の躍進の原動力といわれるヒュンダイとキア。しかし、2012年11月に米国で燃費水増し問題が発覚した。さらに2013年4月には同じく米国において両社としては過去最大規模のリコールを発表している。

変調するヒュンダイグループ。2013年のグローバルの自動車生産台数の伸び率を4%増に抑える一方で、グループ全体の研究開発(R&D)投資を1.4倍増の7兆ウォンに増やす。この数字を額面通り受け取れば、製品力強化や品質向上といった「質的成長」にようやく本腰を入れるということになる。2013年の事業計画などから、ヒュンダイの経営戦略を考察する。

韓国では減産、R&D投資を1.4倍に拡大

2013年の自動車生産計画は、ヒュンダイとキアの合計で、前年比3.9%増の741万台に設定された。内訳をみると、韓国生産が1.4%減(約5万台減)の345万台、海外生産が9.1%増(33万台増)の396万台となっている。米国や中国などで引き続き販売を伸ばすとしており、増産を続ける構えだ。しかし、品質確保などの点から規模拡大に慎重な姿勢を示していることもあり、全体の伸び率(3.9%増)はリーマンショックのあった2008年のそれを下回る。

韓国では2008年以来の減産を見込むが、この背景には様々な状況と思惑が織り交ざる。ヒュンダイとキアは、2013年から深夜残業を中止することで労組側と合意。経済民主化の流れに沿った労働環境の改善を認めた。深夜残業廃止による減産規模は20万台になるとの試算もあるが、ウォン高による輸出採算性の悪化や内需減速を考慮するとヒュンダイ・キアにとって都合の良い生産調整・リストラという形になる。実際にワーカーの給与は減るとみられ、こうしたことから土曜日に限り深夜残業を継続する方向で再調整している。韓国生産を積極的に拡大したくない理由がある一方で、韓国国内産業への影響や朴槿恵(パククネ)新政権への印象を考慮して減産規模を小幅に抑える計画を示した、と推測される。

海外生産は400万台に迫る。既に世界の主要な大陸・マーケットに生産拠点を配置済みで、地産地消の体制が構築されているが、各拠点が概ねフル稼働となる。北京現代・第3工場が本格稼働することで、中国生産は全体で150万台弱に伸びる。米国では増産を計画しているが、燃費問題によりヒュンダイブランドに対する信頼性が低下しており、販売面で踏ん張ることができるか注目される。新工場が稼働したばかりのブラジルでは増産。景気低迷が続く欧州では、生産・販売ともに前年並みと設定している。販売シェアが10%に満たない国・市場では、伸びる余地があるとの考えから、概ねポジティブな目標を設定している。

鉄鋼部門などを含むヒュンダイグループ全体の2013年の投資計画は14兆ウォン。正式発表されていないが、14兆ウォンのうち半分の7兆ウォンを研究開発(R&D)向けに充てる予定だ。昨年実績(5.1兆ウォン)と比較して、1.4倍増ということになる。次世代環境車開発や燃費技術向上、電子制御技術などに重点を置くことで、将来に向けた成長の基盤作りを加速するためと説明しているが、一方で米国での燃費詐称問題によって失った信頼の早期回復に向けたアピールとも考えられる。また、投資額を増やしたところで同時にエンジニアの数も増やさなければ、開発業務は進まないため、1.4倍増が現実的かという疑問が残るのも事実だ。

ヒュンダイの経営戦略

ウォン高、燃費詐称問題、リコール問題、韓国市場への外資攻勢。ヒュンダイを取り巻く経営環境は大きく変化しているが、これらの問題・課題は日本の自動車メーカーも同じように経験していることでもある。実際に日系メーカーの事業戦略などにも学び、課題をひとつずつクリアしている(当然のことだが)。ヒュンダイの海外生産は既に韓国生産を上回っており、ウォン高対策が進んでいる、といった具合だ。

気になる点がひとつある。2012年の営業利益率は、ヒュンダイ10.7%、キア8.2%となっており、業界トップクラスの収益力を維持している。また、純利益はヒュンダイ9兆ウォン(約8000億円)、キア4兆ウォン弱(3000億円)となった。そして、この巨額のキャッシュを何に使うのか。ヒュンダイが今最も力を入れている分野のひとつが電子制御技術の強化で、この分野への投資額も増えている。電子制御技術は極めて重要だが、ヒュンダイの将来像の輪郭を描く要素としては弱い。利益の使い道が注目される。

《中田 徹》

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