■鈴木会長がシェア30%奪回宣言
販売好調な軽自動車のシェア争いが年度末になって、一段と熱を帯びそうだ。2006年まで長年トップメーカーに君臨していたスズキが「シェア3割奪取」に向けて反撃の構えに入った。『アルトエコ』、『スぺーシア』と商品力を高めた新モデルを相次いで3月に投入、同社を挟撃するダイハツ工業とホンダとの年度末競争に挑む。自動車ユーザーには商品の充実とともに、店頭では魅力的な価格提示もある買い時となりそうだ。
「昨年は残念ながらシェが29.6%と、30%を割ってしまった。今年は年度でも暦年でも最低30%は確保していく」。スズキの鈴木修会長兼社長は、2月26日に都内で開いたスぺーシアの発表会見で、静かな口調ながら「死守ライン」奪取への決意を表明した。
■燃費トップの新モデルを相次いで投入
スズキの幹部は、昨年の30%割れは社内でも大きな衝撃だったと、振り返る。07年にはダイハツに首位を渡したものの、3割のシェアは、初代『ワゴンR』を発売した翌年の94年から18年キープしてきた、まさに死守ライン。
鈴木会長は「周回遅れは困る。半周遅れで挽回しようと(社内に)言っている」とも強調する。じり貧状態が長引けば挽回は容易ではないとし、半周を半年程度に見立てている。半世紀以上にわたる軽自動車ビジネスでの経験則でもあろう。ちなみに12年4月から今年1月までの年度累計では、スズキのシェアは29.9%。12年度での30%達成は手に届くところにあるし、そこに向けて走っていく。
30%を万全のものにと投入するのが、いずれもそれぞれのジャンルでトップの燃費を達成したアルトエコとスペーシアだ。ともに3月の発売のため、販売台数では年度内の貢献度は少ないとしても、店頭への顧客動員効果は大きい。
ユーザーには魅力いっぱいの商戦に
新車の販売前線ではすでに「決算商戦」がたけなわであり、新モデルで勢いづくホンダですら、オプション品プレゼントといった販促策に力を入れている。トップのダイハツは昨年12月投入の新型『ムーヴ』の受注が好調なことから、12年度の販売計画を「1万台上乗せの65万台に修正した」(入江誠上級執行役員)。
もっとも、ダイハツは12年の軽販売が過去最高だったのに、シェアは若干落ちるという珍現象となった。ホンダの躍進によるもので、その分危機感を強め、攻勢に出ている。
とりわけ地方部で日常生活の足として欠かせない軽自動車は、就職や進学へのお祝い需要が高まるため、3月の販売は年間で突出して大きく膨らむ。各社の新モデル投入や、市場確保の思惑から、今年は例年になく販売競争がヒートアップする。アベノミクスによる円高是正など自動車業界の“高揚感”も加わり、ユーザーにとっては魅力いっぱいの年度末商戦となる。