【池原照雄の単眼複眼】スバル快走の転機はマーケ機能の強化

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スバル レガシィツーリングワゴン(現行型)
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  • インプレッサXV(プロトタイプ)タンジェリンオレンジ・パール
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原動力は09年投入の現行レガシィ

富士重工業(スバル)のグローバル販売に勢いがある。『レガシィ』、『インプレッサ』という2枚看板が北米で好調なのに加え、2011年末に欧州や豪州などに先行投入したSUVの『XV』も5000台規模のバックオーダーを抱える。ここに至る転機は07年に遡る。マーケティング機能を強化した結果、独自技術から生まれる「過信」を直視できるようになり、市場との対話に基づく商品企画が実を結んでいるのだ。

スバル車は、08年秋のリーマン・ショックの影響をさほど受けなかった世界でも数少ないブランドとなった。最も販売数量の大きい北米では同年から昨11年まで4年連続で過去最高の販売(暦年ベース)を記録、今年も更新が確実な情勢となっている。

昨年は東日本大震災による制約はあったものの、グローバル生産も11年度まで2年続きで最高だった。リーマン後の北米は、約3割も新車市場が縮小したのにスバル車は唯一、前年をクリアした。その原動力は、何といっても09年に全面改良した『レガシィ』(現行モデル)だった。

トヨタ方式を倣って即導入

このレガシィは、米国と中国という富士重工にとっての重点市場に商品企画を思い切って振り、前モデルよりひと回り大きくした車体サイズなどが評価された。レガシィは、前モデルから日本の5ナンバーサイズを脱していた。しかし、「価格は米国ベストセラーの『カムリ』より2000ドルほど高いのに、車格は『カローラ』並みにしか見られなかった」(小林英俊常務執行役員)そうで、結局、中途半端に終わり、過剰在庫を抱えるに至った。

そうした苦闘の時代の06年に就任した森郁夫社長(現相談役)は、資本・業務提携したトヨタ自動車のクルマづくりで、富士重工には不十分だったプロセスがあることに気付いた。世界に向けた商品の企画で重責を担う「グローバルマーケティング」の機能だった。開発部門と営業部門をつなぎ、市場の声を商品に反映したり、ブランド力を高めるための施策を講じたりする部署である。

米国工場の立ち上げにも参画し、彼の地の販売事情にも詳しい森社長は、ただちに07年4月に「グローバルマーケティング本部」を立ち上げた。独創技術の実績から社内での権限が強かった技術・開発部門と総体的に弱かった営業部門の間に同本部をはめ込んだのだった。

技術ポテンシャルを“売れるクルマ”へと昇華

そうして生まれたのが“グローバル・レガシィ”だった。その後、11年に発売した現行インプレッサの成功を見ても、グローバルマーケティング本部が開発と営業の橋渡し役として、順調に機能を高めていることがうかがえる。

同本部副本部長でもある小林常務は、いま開発中の新モデルでは、走行性能とデザイン、さらに安全性能、低燃費――の4領域で、スバル車ならではの独自性を徹底追求する方針を示している。これらを具現化した最初のモデルは、14年に投入予定の「新コンセプトカー」(Cセグメント)や、次期『レガシィ』シリーズになるという。

富士重工がトヨタとの提携で得たものは、スポーツカーの共同開発や、中小型車への経営資源集中(軽自動車生産からの撤退)にとどまらない。マーケティング手法を学びとり、もともと高い技術ポテンシャルを「売れるクルマづくり」へと昇華させることで、体質の劇的な改善をもたらしつつある。ちなみにトヨタのこの部門は、10年1月に豊田章男社長が社長を兼ねる子会社(トヨタモーターセールス&マーケティング)として分社され、こちらも一層の機能強化を進めている。

《池原照雄》

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