【ゼンリンデータコム いつもNAVI インタビュー】コンテンツの拡充とソーシャル対応で先手を打つ

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ゼンリンデータコム 営業本部 コンシューマ事業部 部長 上野弘貴氏
  • ゼンリンデータコム 営業本部 コンシューマ事業部 部長 上野弘貴氏
  • ゼンリンデータコム 企画本部 サービス企画部兼新規プラットフォーム企画室 シニアディレクター 篠原啓氏
  • ゼンリンデータコム 制作部 伏見洋志氏
  • iPhone/iPad向け いつもNAVI
  • ゼンリンデータコム、iPhone/iPad向け いつもNAVI
  • オービスをいつもNAVIに表示させたところ。音声や表示による警告機能がないため、全く実用にならない
  • リアルな交差点拡大イラストも表示される。
  • いつもNAVI ドライブ

ナビゲーションサービス「いつもNAVI」を提供するゼンリンデータコムは、AndroidやiOSにいち早く対応し、オンラインコンテンツなどの取り込みにも積極的に取り組んでいる。iOS版はこの夏でリリースから3年を経過し、これを記念したキャンペーンも実施中だ。

これまでのスマートフォン分野での取り組みについて、いつもNAVIのサービス開発に携わるコンシューマ事業部の上野弘貴氏、サービス企画部の篠原啓氏、そして制作部の伏見洋志氏に話を聞いた。

◆Android対応を充実

----:ゼンリンデータコムが提供しているスマーフォン向けサービスへの取り組みについて、この1年間の主要なトピックをまずお教えください。

上野:ここ1年は、Android向けにいろいろと展開してきたという感じですね。まず2011年5月には、日本人渡航者向けの海外サービス「いつもNAVI 海外」の提供をスタートしました。さらに同年の11月には、Android向け「いつもNAVI ドライブ」というサービスの提供を開始しました。これはWindows phone用に提供してきたダウンロード型ナビゲーションアプリの「いつもNAVI PND」をAndroid向けに再コーディングしたもので、検索機能などに通信を活用したコンテンツを盛り込んでいます。

----:Androidアプリを揃えたということは、フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが急速だったということでしょうか。

篠原:スマートフォンへの流れは如実に感じましたね。Webでサービスしている「いつもNAVI」についても、スマートフォンからのアクセスが急速に伸びており、現状ではユーザ全体の2割がスマホユーザーが占めています。

----:スマートフォン向けのアプリは、ケータイアプリ時代と比べてどのような変化が見られますか?当初、スマートフォンはアプリベンダーにとってマネタイズが難しい市場、という話がもっぱらでしたが。

上野:Androidでもキャリア課金に対応できるようになったので、ビジネスの面でポジティブな方向に向かっていることは確かです。キャリア課金に対応したというのは、フィーチャーフォンでの会員がAndroidに移ったときのための受け皿として用意したという状態に近いですが、ただ、課金の方法が複数あることもまた悩ましいところです。ユーザーにとってキャリア課金が優しいのか、Google ウォレットがいいのか、こちらとしてもまだ判断できていないという感じですね。

篠原:スマートフォンはソーシャルメディアとの相性がいいので、TwitterやFacebookなどでユーザ同士のコミュニケーションでアプリの評判が伝播していくという流れになっています。こうした傾向はフィーチャーフォン時代にはなかったことです。

◆iOSはオンラインコンテンツの拡充に注力

----:一方、iOS向けのいつもNAVIは登場から3年が経過しました。最近の取り組み状況は。

伏見:大きく分けてふたつあります。1つ目は、ナビの中で使えるコンテンツを拡充すること。2つ目は、購入の敷居を下げることです。まずコンテンツ強化ですが、具体的には、駐車場の満空情報や、ガソリンスタンドの価格情報、またオプションになりますがオービスや観光データなどのオンラインコンテンツの強化に取り組みました。価格については、これまで全機能入りで2800円という価格で提供していましたが、2011年12月にサービスを切り分けて、アプリの本体を800円という値付けにしています。音声案内時の交差点名称読み上げ機能などを全て利用できるフルナビオプション(1年間)を2000円としました。

----:いつもNAVIではVICSに加えてプローブ対応も進めていますね。

伏見:OS向けいつもNAVIは、当社の中でも先進的な機能やコンテンツを積極的に投入していくという方針もありますので、通信型ならではのリアルタイムコンテンツを活用してます。VICSだけでなくプローブにも対応させることで、きめ細かく精度の高いルートの提供や到着予想が可能になりました。プローブの渋滞情報が入って800円という価格はナビゲーションアプリのなかでかなり安い部類になると思います。

----:この価格変更の狙いは。

上野:やはり2800円という価格はアプリ購入にはハードルが高いと思いましたので、敷居を低くしたかたちです。価格変更後はトータルの販売数も伸びましたね。また、iOS向けのいつもNAVIのリリース3周年を記念して、8月3日から20日まで、アプリを350円で提供するキャンペーンも実施しています。

◆ソーシャルメディアの登場でアプリの売れ方にも変化が

----:フィーチャーフォンからスマホへの移行で、ユーザーの変化などを感じることはありますか。

篠原:フィーチャーフォン時代の地図アプリは、プリントアウトした紙地図を持って行って、万が一それが正しくなかったりした場合や、現在位置を確認するときなど使うという、あくまでも「保険」的な存在でした。しかし、スマートフォンでは、電車を降りたらまず地図アプリを開きますよね。身近になった地図アプリに対して、より日常的な機能を追加していかないといけないなと思いますね。

上野:サービスの品質に対するユーザーの目が厳しくなったということも言えますね。ソーシャルメディアで生の使用感がすぐに出てくるので、中途半端なサービスを出せません。我慢して使い続けて「よし、ものになった」というユーザはもういない。アプリマーケットで見つけたアプリを手当たり次第ダウンロードしてダメだったらすぐ手放すという時代ですからね。

----:開発面ではいかがでしょうか。

上野:フィーチャーフォン時代はキャリアごとのプラットフォームが必要でしたが、Androidは共通ですので、開発はしやすくなりましたね。検証については、OSや端末側のファームウェア、さらに画面の解像度など機種の仕様の違いがあるので依然としてかなりの工数がかかるというのが実情です。

----:ゼンリンデータコムでは、オンライン型の「いつもNAVI」とダウンロード型の「いつもNAVI ドライブ」と、いずれもカーナビとして利用できるアプリを異なる携帯で提供していますが、両者の機能の差別化、あるいは利用者ターゲットの違いはどのような点にあるのでしょうか。

篠原:「いつもNAVI ドライブ」は、オンボードアプリで、端末に地図データをすべてインストールするタイプです。通信なしで詳細地図表示やルート検索、音声案内、オートリルート機能などを利用できます。「いつもNAVI」は通信必須。どちらもいいところがあって、「ドライブ」は地図をクライアントにデータがあることで、スクロールやルート探索が素早いというメリットがあります。

上野:また細かい点ですが、どちらのアプリでもGPSで取得した位置を近くの道路に引き寄せる処理、マップマッチングを行っていますが、通信型「いつもNAVI」のほうは“ルート”に対して引き込む傾向があり、「ドライブ」は地図上の“道路”に対して引き込むという違いがあります。つまりルートから外れたという判定も「ドライブ」のほうが速いと思います。

byflowを活用してモノと場所とナビを結びつける

----:展示会などでは、自動車メーカーと共同で開発したディスプレイオーディオ向けのナビゲーションアプリもデモ出展していましたが、今後この市場はどのように見ておられますか。

上野:もちろんディスプレイオーディは大きな市場になる分野ですので、当社としても力を入れて取り組むべきという認識を持っています。ただ、サービサーである当社だけでは実現できないことでもありますので、車載器メーカーさんやカーメーカーさんと調整しつつ開発していきます。いまいろいろと話をしていますが、しかるべきタイミングで国内展開もスタートしたいと思います。

篠原:Androidは、連携させる仕様によるところが多いので、そのあたりをメーカーさんなどがどういう仕様にするかが気になっていますね。MirrorLink(ミラーリンク)などのディスプレイオーディオの規格がすでにできていますので、それを採用するかどうかを検討する段階です。

----:競合が増えて格安のナビゲーションアプリが増えてきつつあり、さらにiOS 6のネイティブナビゲーションアプリも登場するというなか、どう差別化を図るお考えでしょうか。

上野:親会社でもあるゼンリンの地図精度をベースに、鮮度の高いコンテンツや情報をを組み合わせて市場に投下するというのがミッションです。と同時に、利用者のニーズに沿ったきめ細やかな案内を実現するというところで、他社との差別化を図りたいと思っています。

篠原:ナビゲーション自体、お金を払って使うという機会が少なくなってくるだろうと思います。AndroidやiOSでも地図や道案内を無料で提供する時代です。そうなると、ナビ以外、例えば行きたい場所を共有できるサービスや、ユーザ同士でコミュニケーションできるようなソーシャル機能を併せ持つサービスを提供していきたいと思いますね。

----:そのソーシャル機能で、具体的な取り組みはありますか。

篠原:2011年12月から、場所とモノを結びつけるコミュニティサービス「byflow」を当社に事業移管しました。このbyflowを活用して、位置情報とナビゲーションにかかわるソーシャルサービスができないかなどを検討中です。

◆未来を予見して、先手を打つ

----:いつもNAVIでも取り組んでいるように、差別化のために各種のコンテンツを取り入れるのがひとつの流れになっていますが。ソーシャルの機能もナビと一体化していくという方向性でしょうか。

上野:コンテンツにしても、ソーシャルにしても単に取り込むだけではダメで、見せ方の工夫は必要でしょうね。ビジュアル的な見せ方を変えて、使いやすいもの、使いたくなるものを目指していきたいですね。

篠原:当社の場合は、byflowからのユーザの情報をもっと活用するなどして、「モノ」視点の要素も加えて、O2O(Online to Offline)的なサービスも可能性があると考えています。他社とは一線を画した情報提供が実現できればと考えています。

伏見:対Googleや対Appleを考えると、やはり彼らがやらないことをやっていかねばならないと感じています。たとえばキャラクターをフィーチャーしたもの、車両の情報を取得してナビゲーションに活用するといったものです。また、AppleやGoogleのナビはグローバル展開を前提していますから、地域の交通状況に応じてローカライズされてはいないでしょう。日本発の日本に向けたナビゲーションアプリとして使いやすさにはこだわりたいですね。

----:ディスプレイオーディオの台頭といい、Appleのナビ参入といい、この業界にとっては大きな転換期にあるということでしょうか。

伏見:日本のナビゲーションは世界で一番進んでいるといわれましたが、PNDが出てスマートフォンアプリが出て一瞬にして市場の構図やテクノロジーの動向がガラリと変わりました。ルールが変わるところを眼のあたりにしてきたわけですが、ではディスプレイオーディオがナビの主流になるのかというと、まだ不透明な部分も大きいと感じます。今後来るニーズやテクノロジーの動向にどんな変化があるかをしっかり見極めて先手を打っていきたいと思います。

Android用 いつもNAVI au版(Google Play)
Android用 いつもNAVI Softbank版(Google Play)
いつもNAVI [ドライブ](Google Play)
iOS用 いつもNAVI(App Store)

《聞き手 北島友和》

《レスポンス編集部》

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