世界初の量産EV、三菱自動車『i-MiEV』が登場してからおよそ3年。2012年は充電可能な大型リチウムイオン電池を搭載したプラグインハイブリッドカー(PHV)元年で、1月にはトヨタが『プリウスPHV』を発売、さらにホンダ、三菱自動車も新PHVを出す予定であるなど、電動カーは少しずつ広がりを見せはじめている。
今回は、EV・PHVの黎明期にいち早く実車購入に踏み切ったユーザー6人による座談会を実施。EVを所有し走らせてみた実感、実際にどのように充電しているか、走り方や気象条件によって航続距離はどう変わるかといった、使ってみなければわからない“現実”が語られた。
(参加者プロフィール)
井川さん 所有車:リーフ 自宅は埼玉県川口市の戸建て。妻、子3。ホンダ『ラグレイト』から代替。三菱『アウトランダー』と併用。EVは自宅と駅、塾など短距離主体で使用。
丹野さん 所有車:リーフ 自宅は東京都内の戸建て。妻、子1。日産『プリメーラ』から代替。1台保有。用途は主に自宅近辺の送迎、買い物など。
桑原さん 所有車:アイミーブ 自宅は東京都練馬区の戸建て。妻、子2。BMW7シリーズから代替。トヨタ『エスティマ』との2台保有。EVは往復70kmの通勤を主体にファーストカーとして使用。
山崎さん 所有車:プリウスPHV 自宅は東京都町田市の戸建て。妻、子2。アウディ『A4』から代替。1台保有。用途は主に往復80kmの通勤。
大木さん 所有車:アイミーブ 自宅は埼玉県上尾市の戸建て。独身。軽貨物車と2台保有。買い増し。EVはファーストカーとして近場からロングドライブまで使う。
司会進行 レスポンス編集長三浦 所有車:プリウスPHV 自宅は神奈川県川崎市の戸建て。妻、子2。1台保有。ベンツ『Cクラス』から代替。主な用途は買い物や送迎でロングドライブもあり。(以下参加者敬称略)
■充電はどのように行なっているのか
三浦:EV、PHVでよく話題にのぼるイベントとして、充電がありますよね。電気は液体燃料と違って、エネルギーとしてクルマに積むのに時間がかかります。また、現状ではまだ自宅以外で充電できる場所も限られています。私の場合、乗っているのが普通充電のみ対応のプリウスPHVということで、自宅での充電が主体ですね。トヨタ系ディーラーが目的地の近くにあるときは、外出先でも充電します。PHVドライブサポートに加入しているので、1時間無料で充電できるのです。充電中は必然的に駐車することになるため、駐車場代の節約になるというメリットもあります。
丹野:私はEV(『リーフ』)ですが、やはり自宅での普通充電が主で、急速充電器はほとんど使いません。バッテリーにあまり負荷をかけたくないというのがその理由です。リチウムイオン電池は携帯電話、スマホなどで日常的に接していますが、大体2、3年で消耗してしまいますよね。EVはもっと長期間持つと言われてはいますが、いたわるに越したことはないと思います。
桑原:まだEVが発売されてから2年くらいしか経っていません。5年、10年という使用経験をまだ誰もしていないので、実際のところどの程度のものかはまだわかりませんよね。リチウムイオン電池の性能は急にがくっと落ちるのか、意外に大丈夫なのか…。ただ私の場合、劣化はあまり気にしていません。(i-MiEV)購入からすでに4万km以上走っていて、その間、毎日のように満充電から空に近い状態まで使っています。それに加えて急速充電も100回以上したでしょうか。今のところ、バッテリーが劣化したという感じはほとんどありません。
大木:とはいえ、急速充電はバッテリーが熱を持つので、あまり気分のいいものではないですよね。i-MiEVの場合、急速充電をすると冷却ファンが回り始めます。過度に温度が上がると電極が劣化するので、それを防止するというのが理由らしいです。もっとも、緊急時のことを考えると充電環境はこの1年で本当に良くなりました。とくに関東圏では充電スポットの数がかなり増えました。ディーラーに行けば必ず充電できますし、充電設備を一般に開放している行政機関もあります。地方に行くと一転、充電設備が少なくて苦労しますが、それでも新設が相次いでいるので、事前に調べておけば何とか大丈夫かなという感じもします。
井川:私は近距離が主体なので、ほとんど自宅充電です。私が住職を務めている寺に幼稚園が併設されていて、幼稚園のほうの動力用分電盤から単相200VをEV充電向けに引きました。自動車用の200Vプラグがホームセンターに売っていたので、自分で充電設備を整えたのです。ただ、電気代は結構かかりますね。家内は幼稚園の電気代が月間1万円くらい上がったと言っていました。
山崎:私は自宅と職場に充電スポットがあって、常時その2か所で充電しています。PHVなので、それ以外の場所での充電はあまり考えていません。PHVドライブサポートのサービスで、充電設備のあるトヨタ系ディーラーに行けば充電してくれるのですが、1時間でリミッターが働いて充電が止まってしまい、満充電にならないのであまり使いません。
大木:EVも急速充電については2012年度中に有料になるということですよね。定額制で月3000円だったかな。
丹野:私はEVのゼロエミッションサポートプログラムに入っていますが、急速充電器が使い放題で月3000円ですね。それにしてもEVに乗ると、普通のクルマに乗っていた時と比べて持つカードが増えます。高速道路のサービスエリア、エネオス、神奈川県のカード、さらにEVだと割引になる駐車場、社用でEVを使うときにお得なカードなど。EV関連のカードを入れるためのホルダーを作ってしまいました。
■EV走行の魅力
三浦:EVやPHVなど、電動化技術が投入されたクルマの注目点としてよくクローズアップされるのはエコロジー性能です。しかし、いざ自分で所有してみると、エコロジー性能よりむしろエコノミー性能、走りの楽しさなどで喜びを感じることが多いような気がします。『i-MiEV』が発売された2009年に公道をテストドライブした時のこと。新世代EVは初めてだったのですが、とても運転が楽しかった。次のクルマはEVにしたいという衝動に駆られたのですが、1台しか保有できず、長距離ドライブもすることを考えると、一気にEVに行くだけの自信がなく、プリウスPHVにしたところです。実際に納車されて乗ってみると、EV走行距離が短いだけで力強さ、スムーズさ、静かさはEVと同じ。 それがあってこその電動車両だと改めて思いました。
桑原:本当にEVは楽しい。私がi-MiEVを買ったのは2009年の発売直後で、マイナーチェンジでマイルドになる前の刺激的なドライブフィールのモデルですが、初めて乗った時はまさに衝撃的でした。EVは走り方次第でエコ走行からファントゥドライブまで、実に幅広い使い方ができます。i-MiEVの公称航続距離はJC08モードで160kmですが、先日はバッテリーの電力を使い果たすことなく166km走ることができました。その一方で、電力に余裕のあるときは電気の節約をあまり気にせず、爽快な加速を楽しむこともできます。私の場合、深夜の安い電気を充電に使えるため、走行1kmあたりの電気代はおおむね1円台。エネルギー消費に関してはともかく、走行コスト面ではエコ走行を頑張ってもあまり効果はないと感じます。
丹野:私は楽しんで乗る場合が多いです。普段はそんなに飛ばすことはないのですが、高速道路の料金所を通過したときや本線車道への合流でアクセルを踏んだ瞬間が気持ちいいですね。ガソリン車なら加速しにくいところでもどんどん加速する。また、重量物のバッテリーが床下にあるためか、カーブでの安定性もいい。ガソリン車だとフロントが沈み込むような局面でもロールしません。運転が楽しいだけでなく、子供が後席に乗って車酔いしなくなったのも有難いところです。
■経済面での高効率性を感じながら走る
井川:私の場合、一番嬉しかったのはエコノミー性ですかね。長距離ドライブ用にガソリン車も1台保有していますが、EVの電気代に比べるとガソリン代はものすごく高い。以前、ガソリン車を2台保有していた時は気分や用途によって好きな方に乗っていましたが、今は快適さだけでなく、エコノミーの面からもできるだけリーフに乗るようにしてます。あとはやはりエコロジーも嬉しい。僧侶という立場的にも、寺社仏閣にお参りするのにクルマを使って、CO2や一酸化炭素などの有害物質を出すのはあまりいいこととは思えない。ガソリン車に乗っていた時はあまり感じなかったのですが、リーフを買ってそういう思いが強まりました。
大木:私のi-MiEVはマイナーチェンジ版です。桑原さんの前期型に比べて電費を稼ぐためにマイルドに作ってあるのですが、それでも楽しいです。最初は航続距離の残りが気になったりしましたが、1年も乗っていると、あとどのくらい走れるかがわかるようになってきます。以前は心配でエアコンや加速を我慢して電費を稼いでいたのですが、それではストレスがたまります。乗って楽しいクルマだから、EVらしい走りを積極的に味わうのも大いにありだと思うのです。ただ、そうは言っても長距離ドライブになると、足の短さはやはり気になります。楽しさと実用性を両立させるという意味では、発電機を搭載したレンジエクステンダー(航続距離延長型)EVの登場にも期待したいところです。あと、高速巡航時の効率 を上げるという点では、モーターに副変速機を入れて回転数を落とすような仕様になると助かります。
桑原:それは私も思いました。2速でいいからつけてほしいと考えています。
山崎:私はまず、毎日片道40kmというクルマ通勤のコストを、快適性を保ったままどれだけ下げられるかということが、クルマ選びのスタートでした。HVの『プリウス』も良いと思ったのですが、あまりにたくさん走っているからちょっと嫌だなと思い、プリウスPHVにしました。本当はプリウス以外のボディのPHVがあったらもっといいのに、と思ったくらいです。VTRカメラマンという仕事の性質上、カメラや足場などの機材の積載性は欲しいし、遠方に取材に行った時には倉庫代わりにも使いたい。ワゴンのPHVがあったらなあ、と思います。走行コストは以前の輸入セダンと比べても数分の1と安く、それでいてEV的に静かで快適なドライブフィールを持っているというのは、日々の通勤にはうってつけ。最近は趣味が通勤になったくらいですよ。
■電力マネジメント…冬のEV使用には工夫が必要
大木:一方で、EVにとって冬は、やはり厳しかったですね。ヒーターが電気式なので、バッテリーを猛烈に使います。私はヒーターを我慢して、クルマの中で白い息を吐きながら乗っていました。
桑原:暖房を入れると走れる距離が一気に半分くらいになります。なるべく距離を稼ぎたいから、暖房を入れないでひざ掛けを巻いて、ダウンジャケットを2枚着込んで手袋をして震えながら運転していました。もちろん近距離だとそんな必要はないでしょう。
丹野:私は2012年1月納車で、短いながら冬を経験しました。リーフの場合、運転席、助手席、後席それぞれにシートヒーターがついていて、独立してオンオフができる。これがなかなかよく出来ていて、寒さを感じやすいお尻の部分から暖かくなって、それがだんだん背中に上がってくる。寒いところでの血流を人間工学的に考えてヒーターコントロールがなされていて、すごく温かく感じます。ステアリングヒーターもあります。普段はエアコンを使い、バッテリー残量が気になる時にはエアコンをオフにしてステアリングヒーターとシートヒーター、それにUSBコネクタ接続型の電気毛布を使っていました。
井川:プラグインの状態だと、クルマの電気を使わずに乗る前からエアコンで室内の温度を調節できるのは嬉しいですね。私の場合は近距離がほとんどなので、エアコンはフルに使っていました。帰って充電すればいいや、という感じです。
■PHVにとっても暖房は課題
三浦:プリウスPHVの場合、暖房は悩みのタネでしたね。電気ヒーターではなく、エンジンの冷却水から熱を取るので、暖房を使うとEV走行でもエンジンがかかってしまう。これは電動車両ユーザーとしてはとてつもなく損をした気分になってしまいます。春になって暖かくなったときには本当にほっとしました。
山崎:冬、早朝に出勤するときに走り始めてから暖房が効きはじめるポイントを観察したのですが、以前に乗っていた輸入車に比べて、暖気が出てくるのがかなり遅く感じました。それだけエネルギー効率が高いということなのでしょうが、快適性を考えると課題と感じます。エンジンを使うハイブリッドモードでスタートして、暖房が効きはじめてからEVにしてみたりと、効率のいい方法を模索しました。もっとも、大事なのは燃費だけではありません。家族など同乗者がいる時は快適性優先で、最初から空調を使っていました。
■EV、PHV所有の満足度は?
三浦:さて、いろいろとご意見を出していただきましたが、最後に皆さん、EV、PHVを所有してみた結果の満足度はいかがでしょう?
丹野:10点中9点をあげたい。1点分は将来の要望点。非接触充電への対応をお願いしたい。それと航続距離の延長。バッテリーの性能に制約があることを考えると、レンジエクステンダーEVに期待したいところです。
山崎:コストやパフォーマンスではPHVに満足しています。ただ、バッテリー容量がもっと大きいとさらに楽しいかも。10kWhくらいのバッテリーを搭載してEV走行距離を延ばし、荷物も積めるレンジエクステンダーEVの登場に私も期待します。
桑原:要望はいろいろありますが、私の場合、EVは自分にとって理想の乗り物でした。おそらく、もう普通のクルマに戻ることはないです。この良さを自分だけで独占せずに、多くの人に伝えて普及させなければいかん、とすら思っています。
井川:私も満足かな。もう普段乗るクルマはほとんどリーフばかりですし。要望はやはり航続距離延長。日常使用はいいとして、いざ長距離を走らなければならないような時も、せめて東京から関西までたどり着けるくらいになればと思います。
大木:私もEVという乗り物には大いに満足しています。ただ、次に買い換えるときにはEVがさらに格好良くなってくれているといいですね。たとえばテスラなんて格好いい。しかしあまりに高い…。リーズナブルで格好いいEVを希望します。あと、ビジネスとしてEV介護タクシーをやってみたいとも考えたりしています。
三浦:プリウスPHVを買ってから、本当にカーライフが変わりました。エンジン音なしで走る車内の静けさは格別だし、春になって窓を開けてもエンジン音が入ってこない感覚も独特。クルマの電動化はまだ始まったばかりですが、これからの展開に大いに期待したいですね。
■節電の夏にEV・PHVが果たす役割
今年も節電の夏が始まる。近視眼的にとらえれば電力で動く車両は、時代の要請に反しているようにみえる。しかしオーナーたちは自身の生活におけるエネルギーフローを総括し、EV・PHVをそれぞれの生活に最適化、活用している。EV・PHVの存在は、改めて電力というエネルギーの価値と使い方を考える大きなきっかけになっている。