米ノースカロライナ州にある『ホンダジェット』生産設備が媒体に初公開された。ホンダ・エアクラフトカンパニー・インコーポレーテッドの藤野道格社長は「市場に近いところでないとニーズに応じた製品を開発・生産できない」という。
Q:なぜホンダが航空機を作ったのですか?
藤野 ホンダという会社、我々はモビリティのリーディングカンパニーと呼んでいまして、必ずしもホンダ自動車とかホンダオートバイと自分たちを型にはめないで、常に新しいモビリティ、あるいはモビリティの発展を助けるようなツールを提供するというコーポレート・フィロソフィーに従って会社を運営し、会社は成長しています。ですからバイクから始まりましてクルマに入りましたけれど、クルマの中でも最先端のレースや『FCX』、燃料電池といった最も進んだ自動車の開発、そして最も進んだビジネスジェットの開発というプロダクトラインナップになっています。スピードで表現するとバイクの45マイル/hから始まりホンダジェットの480マイル/hに達したということで、これからさらにスピードを上げて行きたいと思います。
Q:ホンダジェットの開発はいつから始まったのですか?
藤野 航空機の研究は20年以上前から行っていますが、ホンダジェットのプロジェクトは1997年に、どんなジェットが必要かというコンセプトを考えたラフスケッチから始まっています。
こんなサイズ、クラス、性能が将来的に有望かというビジネスジェットを考えてスケッチを書きました。そのスケッチに基づいて、細かいディメンション、構造といった要素の研究を2年かけて行いました。その段階でエンジンの配置、主翼の翼形の開発、胴体のコンポジットの設計コンセプトを作るなど、技術的な事を固めました。
その技術を使って実機を作るテクニカル・デモンストレーター、アメリカでは「POC(プルーフ・オブ・コンセプト)」と呼んでいますが、その機体を組み立て、地上で試験を行い、飛ばしました。その初飛行は2003年の12月です。そのあと実際に飛行機を飛ばして性能ですとか操縦安定性などを実証しました。そして実証した結果に基づきまして05年のオシコシのエアショーでテクニカルデモンストレーションデータを初めて一般公開しました。
そこで非常に高い関心を頂きその過程を経て06年にホンダジェットの事業化を決定、会社の設立を決定しました。そのあと、土地購入、建屋建設、現地従業員の雇用といった「会社を作る作業」と同時に飛行機を作る作業を並行して行い、去年(2010年)FAA(連邦航空局)の型式認定用の機体を完成させ初飛行を成功させました。
ここノースカロライナにホンダ・エアクラフト・カンパニーの拠点を置き、開発、製造、販売、サービス全てをここで行います。現在所有している土地の広さは33万6000平方m(東京ドーム7個分)で、ここに本社ビル、R&Dセンター、量産工場を建設、全て合わせると4万8000平方mの建屋の総面積です。
Q:アメリカにホンダジェットの生産工場を造ったのは?
藤野 ビジネスジェットの主要マーケットはアメリカが一番です。ヨーロッパやアジアが伸びていると言ってもアメリカが一番大きいです。
市場に一番近いところでないとニーズに応じた製品が設計出来ないし造れないのは確かだと思います。これはホンダの他の製品にも言えることで、マーケットのあるところで造るというのが大事です。私もアメリカに長く住んで、何でアメリカ人がピックアップトラックをカッコイイと思うかが、今になると判ります。日本に住んでいて映画などで「俺のトラック」と自慢するのが本当のところ判らなかったです。まさにビジネスジェットは、自分で使ってみないと、どのような使われ方をしているからどこが重要なのか、どの性能が設計リクアイアメント(要求)として重要なのか、判りません。
だから飛行機を設計する前に企画の半分は決まっています。例えばニューヨーク〜マイアミ間の移動がなぜ重要かは住んでみないと判らない。どれ位の航続距離が必要か、速度が重要かというのはそこの市場にいて初めて判る事だと思います。そういったトータルの航空事業、ビジネスジェットを考えた時に、アメリカに居ないとちゃんとしたものが出来上がらないし造れない。造った後にお客様の声も聞こえない。日本にいてそれらの情報を集めるのは至難の業だと思います。それら総合的な観点から初めから迷わずにアメリカに拠点を作る事を決めてました。
Q:ビジネスジェットで、アメリカの市場規模は、世界市場の何割ぐらいですか?
藤野 機体サイズによりますが、現状7〜8割がアメリカ市場です。
Q:ホンダジェットを構成する部品サプライヤーの数はどれくらいですか?
藤野 細かいサプライヤーまで入れると何百にもおよびますが、メジャーなもので50社程です。サプライヤーは、自動車もそうですが、飛行機の場合もtier 1、tier 2、tier 3とあり、生産だけでなく開発を進める上でもとても重要です。サプライヤーの歩調が全て合っていないとスケジュール通り進められませんから、サプライチェーンのチームが精力を入れてやっています。全てのサプライヤーがオンタイムという訳にも行きませんから、その場合こちらからエンジニアなり担当を送ってサポートし、チーム全体としてこのプログラムのスケジュールとクオリティを守るという体制で進めています。