フランス有数の環境都市として知られるストラスブールは、フランス最大の河川港を持るライン川沿岸の町として、古くから商工業の両方で栄えた。現在はヨーロッパ議会の本会議場が設置されており、EUを象徴する町のひとつとしても知られている。
この町で『プリウスPHV』の実証試験が始まったのは、2010年のことだ。世界中で600台のプリウスPHVが用意されたが、そのうち日・米・欧にそれぞれ200台ずつが振り分けられ、なかでもストラスブールでは欧州で最多の約100台が走り回っている。
台数の多さもさることながら、20年以上前からトラムや自転車専用道路を整備し、環境問題に取り組んできたストラスブールでは地方自治体も市民も環境意識が高い。市の中心地に700平方mもの特設会場を設置するなど地域が積極的にかかわり、フランスのエネルギー大手であるEDFが市内に150基もの充電スタンドを設置した。地域、エネルギー大手、自動車メーカーが手をとって実証試験を行なうことにより、PHVに関する研究を進めるだけではなく、充電インフラの検証や市民の理解といった多面的な効果が見込める。
スタートから約1年が過ぎ、プロジェクトはどう進んでいるのだろうか。トヨタ・モーター・ヨーロッパ(TME)で渉外広報を担当する山田哲也氏にプリウスPHVのプロジェクトについて訊いた。
「EDFは以前、同じような実証試験をEVで進めていました。しかし、EVの課題として、巡航距離や充電インフラの整備といった課題が明らかになり、次なる一手としてPHVの実証試験を開始することに決めたそうです。ちょうどその頃、私たちもプリウスの電池容量を高めてPHVとして利用することを検討していたので、お互いの思惑が一致して今回のプロジェクトにつながりました」
実は、従来EDFはルノーとEVのプロジェクトを進めてきた経緯がある。しかし、PHVに関してはトヨタをパートナーに選んだことは興味深い。エネルギー会社がEVやPHVに興味を示すのは、その背景にスマートグリッドへの発展といった巨大プロジェクトがあるからだ。原子力による発電については、現在、世界的に賛否がわかれるところだが、EVやPHVに搭載される電池は容量が大きいこともあって、自然エネルギーの貯金箱として大きな期待が持たれている。
「現在、ストラスブールでは官公庁で40台、民間企業で40台、残りをEDFで日常の業務に使っています。EDFの充電スタンドにはケーブルでID認証をする仕組みが備わっています。車両を個別認識し、課金などの情報管理も個別に行なうことができますし、充電スタンドの利用状況の把握ができます。詳細なデータを得られるため、今後の開発にも効果的なフィードバックができます。ユーザーの視点からは、街中で静かで低速域での加速感がいいなどのEVとしてのメリットと同時に、万が一、電池切れがおきてもハイブリッド車として走れる安心感があるといった点が評価されているようです」