■単なる“スポーティカー”は作らない
本田技研工業のスポーツカーの歴史を少しだけ、振り返ってみよう。
FRの小型オープンスポーツとして一世を風靡した『S500/600/800』。リトラクタブルライトをひっさげてエレガントなクーペとして若者たちの絶大な支持を得た『プレリュード(2代目)』。軽量ボディとDOHCエンジンで弾けるような加速体験を味合わせてくれた『CR-X』。軽自動車のミッドシップオープンという後にも先にも出てこないであろうパッケージングでクルマ好きを魅了した『ビート』、タイプRの登場でFFスポーツの究極型を示した『インテグラ(3・4代目)』。そしてアルミボディ・VTEC・そしてF1からフィードバックされた数々のテクノロジーにより新次元の動力性能を身につけた『NSX』…。
つまり、本田技研工業の作るスポーツカーは、それまでの常識を覆すアイディアやコンセプトがかならず盛り込まれていた。
S2000も例外ではなかった。いや、その創立50周年を記念してリリースされる車両として、それまで作られてきたスポーツカー以上に、開発には時間と労力がかけられた。
■シャシー、エンジン、そしてミッション…すべて専用設計
S800以来29年ぶりに復活したFRシャシーをはじめとして、エンジン、ミッション、サスペンションなど、S2000の主要部分を構成するパーツはすべて専用設計。
エンジンは車軸より後方、バルクヘッドに突き刺すように配置された「ビハインドアクスルレイアウト」を採用するとともに、燃料タンク、スペアタイヤ、バッテリーなど重量物をできる限り車体中央に寄せて前後重量配分50:50を達成した。オープンモデルに懸念されるボディ剛性の確保については、ボディ中央からX字のフレームを走らせモノコックを構成する「ハイXボーンフレーム」で解決している。
初期モデルに搭載された「F20C」エンジンは9000rpmを許容、市販パワーユニットとしては類い希な超高回転・高出力を特徴とした。また専用設計された6速MTはエンジン特性に合わせて超クロースレシオとされた。サスペンションは本田技研工業お得意の前後ダブルウィッシュボーン形式で、各部に剛性の強化がなされている。これらはどれ1つとして他車に流用されることはなかった。NSXと同様、S2000はまさにオンリーワンの存在だったのだ。