商用車は販売の9割をカバー
トヨタ自動車が9月から商用車およびハイブリッド車(HV)を値上げすることを決めた。
注目の乗用車は『プリウス』と『ハリアーハイブリッド』の2車種のみにとどめた。国内市場の厳しい状況を踏まえた苦渋の判断だが、いっそのこと乗用車の値上げは見送った方がよかったのではないか。
値上げされる商用車は小型バスを含む7モデル。商用車は、すでにトラック専業メーカーのほとんどが値上げを実施しており、追随する格好だ。値上げする7モデルで、2007年の商用車部門販売実績のほぼ9割をカバーし、幅広い価格転嫁となる。
一方の乗用車は2モデル合計で昨年の販売実績が約6万2000台。仮に値上げ分がすべて通っても、小売り段階での年間増収寄与は47億円程度(代表グレードでの試算)にとどまる。
◆環境の「シンボル」なのに
トヨタは今回の値上げについて「鉄鋼やレアメタルの使用量が多い商用車およびハイブリッド車について、価格改定を行うこととした」と発表している。
だが、実際の値上げ対象は必ずしもこの理由付けに沿っていない。値上げする商用車には、鋼材の使用量が『カローラ』級のライトバン『プロボックスバン』などが含まれるし、レアメタルを多く使うHVも、すべてを値上げするわけではない。
乗用車の場合、要は引きが強く販売への影響も軽微な一部HVに絞ったということだ。社内では原価低減に関わる調達、生産管理、生産技術といった部門と国内営業部門での綱引きもあったのだろう。
原価低減に必死で協力している部品メーカーの理解を得るため、乗用車を含めたかったという事情は分かる。だが、いくら数か月の納車待ち状態といっても『プリウス』には首をかしげる。長期ビジョンで掲げる「サスティナブル・モビリティ」のシンボルでもあるのだから。
◆消費者にも分かりづらい
結果的に、環境負荷の小さいクルマに的を絞って値上げするのだから、同社が目指す「サスティナビリティー」の理念と矛盾すると見られても仕方ない。
しかもプリウスは来年には全面改良が予想されるモデル末期の商品だ。原材料費の高騰という異変がなければ、利益還元の「お買い得車」が投入されてもよい時期である。
今後、国内でのコストアップ転嫁は、モデル改良をとらえての値上げということになる。21日に発売された新型『クラウンセダン』などは、資材・原材料の上昇分が相当反映された価格になった。
また、海外での値上げも幅広い地域で実施されている。それだけに、このタイミングで消費者にも分かりづらい中途半端な国内値上げが必要だったのかと考えさせられる。