3 | 燃料電池車の三段跳び |
インドのムンバイがボンベイ(1995年より公式名称はムンバイ)と呼ばれていた頃、郊外にある滞在先の大学から、ミーティングのために町の中心部に出向いたことがある。軍事道路といわれる広くて頑強な道路の両側に、途切れることなく続くぼろ布を巻いたような小屋と裸の子供達を見ながらの2時間弱の道中であった。
暫らくは、クラクションを鳴らし続ける泥まみれのおんぼろトラックと、乗客を詰め込んだ3輪スクーターの親玉のようなオートリキシャーと一緒に走った。市街地に入るころから、スズキの『アルト』のインド版、マルチ『800』と、イギリスの50年代のモーリス『オックスフォード』ベースの現地仕様らしき、古色蒼然とした『アンバサダー』など、少しまともなクルマだけになった。
小さなクルマに混じって、時々、得体の知れない近代的な大きなクルマに出くわしたが、鼻先にTATAのロゴマークが光っていたのが印象的であった。
ミーティングには大学教授だけではなく商工会議所のお偉方も出席しており、日本における燃料電池車普及についての質問が出た。先進国の進歩は段階的なのに対して、発展途上国のそれは三段跳びのようだと感じたものだ。そのときの印象が現実になったようなインドの現状をみると、ジャガー再興の期待も自ずと膨らんでくる。
D視点: | デザインの視点 |
筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』、2代目『マーチ』のプロデュースを担当した。東京造形大学教授を経てSTUDIO MATSUI主宰。【D視点】連載を1冊にまとめた『2007【D視点】2003 カーデザインの視点』をこのほど上梓した。