2 | 考え抜かれたデザインの魅力 |
ご存知のように初代(※)500は20世紀自動車デザインの傑作として、イタリアの戦後復興が一段落した1957年に誕生した。デザイナーはダンテ・ジャコーザである。庶民の未来への希望を背負った500は、瞬く間にイタリアのシンボルとなった。(※フィアットジャパンでは、これより古い500“トポリーノ”は勘定に入れていない)
新型を開発するに当たって、こうしたシンボリックな部分をいかに現代にマッチさせるかが最大のコンセプトワークになった。技術的には、当然ながら衝突をメインにした最新の安全基準に適合させ、初代どおり「最小」を目指している。革新的な提案は無いが燃費に大きく影響する軽量化は最新レベルにあるようだ。何より重要視したのが初代のデザインのイメージの継承である。
そこで、初代の持つキュートで可愛らしいイメージがどのように現代的に翻訳されているか、詳細に観てみよう。
まず全体のプロポーションと骨格については、前後のオーバーハングを最小にし、リアの居住性もミニマムにして初代のキュートさを再現している点が最大のポイントだ。
ボンネットを開けると、日本のお家芸である軽自動車並みに突き詰めたレイアウトがなされている。しかしヒップポイントが低い一般的な乗用車のパッケージングであることと、エンジン&ミッションがかさ張っているため、ドライバー位置は軽自動車と比べ後方に位置し、結果的には初代のころの古典的シルエットに似た感じに仕上がっている。
デザインも迷うことなく初代の個性あふれるフロント周りの特徴や、末広がりのリアビューをシンプルにアレンジしているが、大きくなった分を考慮し、スピード感と軽快感を与えるためベルトラインを若干ウエッジさせ、現代的にアレンジしている。
少し残念に思えるのがフロントウィンドウ周りのデザイン処理である。自動車技術の進歩によってフロントウィンドウがボディに対し接着になったため、現代のルーフ構造では初代のように角の丸いはめ込みウインドウの再現は難しい。この辺りは無理をせず、あっさりと現代的な処理で済ませているのだが、初代500の特徴的な部分であったことを考えると、BMWグループ『MINI』のように、なんとかイメージを残して欲しかった。
ここをひと工夫すれば、フィギュア的な「どうしても手に入れたい!」と感じさせる出来のよさにつながり、趣味性が増加したのではないだろうか。少しもったいない気がする。
インテリアデザインは、思いっきり1950年代を演出していて、楽しく、しかも高品質な仕上がり。コンセプトは「エブリディ・マスターピース=毎日の傑作」とのことで、お洒落な女性に、ミッドセンチュリー・モダンを再現したデザインテイストは歓迎されるだろう。特にステアリングやレバー類などの操作系は、心が和む丸みを持たせた形状で統一されていて、懐かしくて新しいニュー・チンクェチェント・ワールドを創り出している。