3 | 魅力的なブランドアイデンティティがあるのに |
リアスリークォーターは人気のドイツ車、サイドビューはイタリア車、フロントビューは日本車のような、見慣れないクルマが走っていたら、新型インプレッサである可能性が高い。
フロントマスクに六連星マークを確認できても、これまでのデザインの痕跡すら残していないクルマを、新型インプレッサとは認め難い。「ブランド・アイデンティティ」のないクルマは産地不詳の食材と同じで、信用できない。
スバルは車種数が少なく、ブランドが確立された数少ないメーカーだ。アイデンティティ変更は、軽乗用車の起死回生の切り札とした『ステラ』以降、「川下発想」といわれる商品開発法を採用したのが要因と受け取れる。
商品開発の川下であるユーザーの趣向を実際に聞いて、商品企画に生かす手法だ。この手法の長所は大失敗がないことであり、欠点は、「将来流行るもの」を予測せずに、「今流行っているもの」をベストとしてしまう傾向があることだ。
新型インプレッサの、流行のデザインをコラージュしたようなデザインも、このような「川下発想」の結果として見れば納得できる。しかし魅力的なブランド・アイデンティティは、一貫した個性化の努力から生まれるものであり、今後に期待する。
D視点:デザインの視点 筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』のプロデュースを担当した。 |