3 | 多様性は進化の必須要件 |
半世紀前には、イギリス、イタリア、フランス、ドイツそしてアメリカと、それぞれのお国柄を表したクルマが魅力を競い合っていた。
50年代、60年代はアメリカ車全盛の時代であったが、オイルショック以降は欧州車の時代となった。やがて欧州車の選別が進み、イギリス車が、そして超高級車を除いたイタリア車が戦列から離脱したかに見える。しかも最近では、ラグジュアリーカーの分野では、ドイツ車が一人勝ちの様相を呈している。
このような状況に流されて、世界のカーメーカーがドイツ車をベンチマークにしているように見えるのは残念としか言いようがない。それは、最近の国際政治、軍事面でのアメリカのポジションに似ている。
時代の変化に対応した主役の交代は自然の摂理なので、環境、資源問題に端を発したサスティナブルの時代にふさわしい主役の登場が望まれる。そのときの主役は、ボディに比べて小型のエンジンで効率よく走るクルマだ。
周りのクルマを威嚇することなく豊かな気分で運転を楽しむ、「シトロエンワールド」のようなクルマが徐々に時代の主流となり、さらにイタリア車やイギリス車が復活してライトウエイトスポーツカーで楽しむ時代へと続けばクルマの楽しさも尽きることがない。或いは自動車の世界については、アメリカ車の再登場を想像するのも楽しい。
多様性が生物の進化を支えたように、クルマの多様な魅力の競い合いを期待する。
D視点:デザインの視点 筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---東京造形大学教授、デザインジャーナリスト。元日産のデザイナーで、社会現象となった『Be-1』をプロデュースした。 |