試乗は残念ながら雨。しかし走り出してすぐに、ノーマルとの違いは明確なものとして実感できるものだった。
ドライブトレーンにこそ違いはないものの、シャシーにおける違いはノーマルとのパフォーマンスの差を明確に伝えてくる。
とくに車高が低められたうえに18インチのタイヤ&ホイールが与えられ、さらにリアのサスペンションリンクをピロボール式としたことはノーマルよりもシュアなハンドリングを実現した。
ノーマルよりも鋭く、かつ限界が高いシャシーはいっぽうで、快適性に対する期待をも裏切らない点がいい。確かにノーマル比ではややコツコツとした突き上げなどはあるが、それ以上にクルマの運動がよりしっかりとした剛性感あるものとされており、走り全般から頼もしい印象を受けるのである。
土砂降りの雨の中でチューンド・マシン…という組み合わせはいかにも危険な香りがするが、そこかメーカー直系のワークスであるSTI製らしく、あくまで忘れていない一般性の高さがしっかりと確保されているので不安は皆無だ。
さらにペースを上げていくと、ブレンボ社製のブレーキが頼もしく感じられる。これは雨中でも感じられることだから、ドライではさらに頼もしいものに思えるだろう。
コーナリングでの身のこなしはじつにシャープで、それがステアリングを通してしっかりと伝わってくる。サスペンションは硬められた方向性ながらも、そのときの運動の推移をしっかりとドライバーに体感させるだけの領域を設けている点がいい。
ワークスが磨き上げたからこその、ノーマルのよさを失わないポテンシャル・アップ…それが“チューンド・バイ・STI”のほかにはない美点だといえる。存分に雨の中で試乗して感じたのはそういうことだった。
こうしたモデルをしっかり送り出せることを考えると、STIというのはメルセデスのAMGやBMWのMのような存在に徐々に近づきつつあると思えた。