【放談会2002 Vol. 2】「グローバル15」に死角はあるか

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三浦 トヨタが2010年のグループ目標としてかかげている「グローバル15(フィフティーン)」、世界市場でのシェア(市場占有率)15%は、けして無理な数字ではない。前回はそういう話題でした。しかし、15%ともなると、2010年の全体市場を仮に6000万台と見積もると900万台です。日本国内での生産は増えにくいでしょう。となれば、海外生産で増やすしかありません。この点はどうなのでしょう。

牧野 トヨタは現状では約600万台です。8年後に900万台ということは5割増し。トヨタ1社ではなくトヨタグループとしての目標ですから、軽自動車およびスモールカーはダイハツ、トラック/バス系は日野と、それぞれが役割をきちんと果たすことが大前提です。ダイハツにも日野にも海外生産拠点がある。トヨタとダイハツ、トヨタと日野という海外での連係も出てくるでしょう。実際、パキスタンではトヨタの工場がダイハツからノックダウンセットを受け取ってミラを組み立てています。もう1点は、トヨタウェイを海外工場に定着させることです。

三浦 トヨタ生産方式ですね。

牧野 たとえばGMの生産部門では、トヨタとの合弁会社であるNUMM(ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクテャリング社)を経験しないと出世できない、と言われる。NUMMIでトヨタのやり方を学んで来い、ということです。トヨタ生産方式のキモは、『必要な量の部品が必要なときに生産ラインに到着する』というジャスト・イン・タイム(JIT)と、『人と機械のコンビネーション』を最良に保つための自働化です。有名なカンバン方式はJITのための手段に過ぎない。完全に自動化された生産ラインは“自働化”の一要素に過ぎない。そういうことは、体験してみないとわからないのです。最終目的は徹底的な無駄の排除であり、多品種少量生産を低コストで行うということです。世界中のトヨタ工場がこれを実践すれば、コスト競争力はすごいものになると思いますよ。

安田 そう。トヨタ生産方式は文書化されていて、自動車に限らずほかの製造業、たとえばNECでも採用しています。ところが、同じシステムでやっていても、トヨタ以上の成果を挙げている企業はどこにもない。張社長も言っていましたが、トヨタでは「生産ラインに問題が生じたとき、最低5回は“なぜ?”を繰り返す」といいます。そこで真因を突き止める。でも、僕らは実感できない。たぶん体に覚え込ませるということなのでしょうね。アメリカではこれが一定の成果を挙げていることは事実なんですが、ヨーロッパでも中国でも……ということを考えると、時間がかかるのかなぁ、という気がします。

牧野 うわべだけではどうにもならないですからね。

安田 まあ、モノ作りに関しては、トヨタは非常に真摯な会社だから、うまくやるのでしょう。問題が残るとすればホワイトカラーを襲う大企業病です。豊田喜一郎伝を書いた東大の和田教授が言ってましたが、企業の大企業病は官僚化なんです。文書の指事どおおりに仕事をする。前例のないことは却下する。世界で「グローバル15」の勝負に出るのだから、心してかからないと。

三浦 トヨタの海外生産拠点は現地での社長採用が増えています。コミュニケーションの問題も出てきますか?

安田 トヨタは地元に根付くという方向で常にやってきた。新しいところでは、ヨーロッパも中国も現地人スタッフ中心です。たしかに、現地人のホワイトカラーにトヨタウェイを根付かせるのは大変かもしれない。

三浦 それと、デンソ−やアイシン精機といったトヨタグループ各社をどうまとめてゆくのか。昨年のいまごろは『持ち株会社構想』がありましたが、最近はまったく聞かなくなりました。

安田 奥田前社長が持ち株会社構想を打ち出したとき、デンソ−は困惑していた。もともとはトヨタ自動車工業から分かれて行った会社ですが、いまでは売り上げの半分はホンダや三菱などトヨタ以外の自動車メーカーです。一生懸命に取引先を開拓し、それで規模も大きくなったのに、トヨタの持ち株会社構想の中にガチッと組み込まれると、そこから発生する問題点もある。だから困惑しているわけです。

牧野 逆に、トヨタとしては、トヨタが開発費を負担した技術が他メーカーに流れるのを食い止めたい。実際にそういう例がいくつもあって、当然、奥田社長は知っていたわけです。グループの結束もあるけれど、トヨタとしての利益も守らなければならない。

安田 しかも、トヨタ向けと同じ部品を他メーカーが買うと、トヨタより安く買えたりするわけです。奥田さんから張さんに社長交代して、持ち株会社構想は表面に出なくなりましたが、張さんはそれが必ずしもグループの結束にはつながらないと判断したのではないでしょうかね。それよりも、たとえば燃料電池などの新しい分野でプロジェクトごとにグループ各社を引き込む、気持ちの面で結束を盛り上げる、と。

牧野 同時にトヨタは、新しい分野では積極的に他業種との提携を進める方針です。ヘタすると、トヨタグループの企業がプロジェクトから外される可能性もあるわけです。このあたりでどうバランスを取るかも見物です。

安田 トヨタに対する見方は、グループ内でも温度差があります。それをどう括ってゆくか。「グローバル15」の正否が問われる部分です。

牧野 ただ、個人的には、トヨタの商品が必ずしも良いとは思いません。「グローバル15」より大事なことがあるはずです。国内で大きなシェアを握る企業だからこそ、健全な方向にユーザーを導く役目を果たさねばならない。『売れ線』ばかりを狙うな、と言いたい。国内のヴィッツとヨーロッパのヤリスが、たとえば後席の安全性でなぜあんなに違うのか。「日本には基準がないから」で済ませていいのか、と。まあ、逆に言うと、トヨタが本気でそういう部分を手当てしてきたら、ほかの日本メーカーはたまらないのですがね。トヨタの豊富な人材と組織、それと資金力は、国内のライバルを本当に潰しかねない。これは私の『珍説』ですが、もしかしたら「グルーバル15」はトヨタが他の日本メーカーを吸収することで達成されるかもしれませんね。

《レスポンス編集部》

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