「その場にいるような音と映像を、ありのままに届けたい」---。創業者レイ・ドルビーの理念を受け継ぎ、音響と映像の革新を続けるドルビー。
ドルビージャパンは11月6日にジャパンモビリティショー2025の西アトリウムで開催されたトークプログラム「モビリティ×エンタメーDolbyが提案する新たな価値」を主催。第一部はドルビージャパン日本法人社長(兼)東南アジア・大洋州統轄の大沢幸弘氏によるプレゼンテーション。第二部は俳優の小林涼子氏と自動車ジャーナリストの佐藤耕一氏も加わり、トークショーを行った。
ステージに登壇した大沢氏は、30年ぶりともいえる技術革新が今、車内エンターテインメントにも波及していると語った。
◆立体音響「ドルビーアトモス」と高画質「ドルビービジョン」
大沢氏は、音響分野における大きな進化として「オブジェクトオーディオ」方式を紹介。従来のチャンネルベースのサラウンドから、音の位置を三次元空間上で自在に再現できる立体音響技術「ドルビーアトモス」への転換だ。
「雷が頭上から鳴るように聞こえる。ヘリコプターがどこを飛んでいるのか、目を閉じても分かる。そんな“体験”が可能になった」と説明した。
映像技術でも「ドルビービジョン」が登場。従来のテレビ放送がブラウン管時代の輝度レンジを引きずっていたのに対し、HDR(ハイダイナミックレンジ)技術によって光と影、奥行き、色彩表現が飛躍的に向上した。
「6色の色鉛筆で描いていた絵が、100色になったような違い。世界中の映画スタジオがこの技術を採用している」と語る。
色彩表現が飛躍的に向上したドルビービジョンNetflixやDisney+、Apple Music、Amazon Musicなど、主要な配信サービスがすでにドルビー規格に対応。テレビやスマートフォンはもちろん、PlayStationやXboxなどのゲーム機、そして自動車にもその波は広がっている。
◆車内は“第2の家”へ。中国で進むEV時代の新ライフスタイル
トークセッションでは、俳優の小林涼子氏と自動車ジャーナリストの佐藤耕一氏も登壇。「車は体験を楽しむ空間へ」をテーマに議論が交わされた。
佐藤氏は「中国ではすでに電動車の販売が新車の半分を占め、車を“第2の家”として使うライフスタイルが浸透している」と紹介。EVの大容量バッテリーを活かし、車内で快適に過ごす文化が広がっているという。
世界の自動車メーカーで採用が進むドルビー
「日本でも車中泊や長時間の待機など、車を生活空間として使う場面が増えている。電動化が進めば、より快適でエンタメを楽しめる“空間”としての進化が進む」と語った。
◆エンタメの力で、日本車の新たな魅力を
大沢氏は、車載空間におけるエンターテインメントの重要性を強調した。
「メルセデスやキャデラックなど欧米勢、中国・韓国メーカーも車内の映像・音響体験を強化している。日本メーカーは走行性能で優位性を持つが、今後はエンタメ体験の部分でも競争力を高める必要がある」と指摘する。
メルセデスベンツで採用されるドルビーアトモス実際、ソニー・ホンダモビリティが2024年にドルビーアトモスを同社のEV「AFEELA」に搭載することを発表。マツダは中国市場で、スズキはインド市場で対応モデルを投入するなど、日本勢も動きを見せ始めた。
「車の中でも、映画館のような没入感を。目的地に着いても“音楽が終わるまで降りたくない”と思えるような体験を届けたい」と大沢氏。
小林氏も「作品を作る側としても、車の中でここまで豊かな映像と音に触れられる時代が来たのは本当に嬉しい」と共感を寄せた。
小林氏「作品を作る側としても、車の中でここまで豊かな映像と音に触れられる時代が来たのは本当に嬉しい」◆技術から体験へ、そして文化へ
大沢氏は最後にこう締めくくった。「日本の自動車産業は走りで世界をリードしてきた。これからは“体験”で世界を驚かせる番。エンターテインメントの価値をクルマに融合させ、日本発のモビリティ文化を次の世代に届けたい」
俳優 小林涼子氏(左)、ドルビージャパン株式会社日本法人社長(兼)東南アジア・大洋州統轄 大沢 幸弘氏(中央)、自動車ジャーナリスト 佐藤耕一氏(右)車が単なる移動手段から“体験を楽しむ空間”へと変わる今。ドルビーが描く新しい車内エンターテインメントの未来は、日本メーカーにとっても次なる競争領域となりそうだ。










