ドイツ車の王道、VW『パサート』が方針転換しステーションワゴンへ一本化した理由

VW パサートヴァリアント 新型(IAAモビリティ2023)
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◆欧州ではステーションワゴンに一本化した新型『パサート』

VWを代表するトップレンジとしての立ち位置のみならず、Dセグメントの総代としても欧州市場で君臨してきた『パサート』。73年の初代に始まって、8世代に渡り約3400万台が販売されてきたそのモデルが、今秋のIAA=ドイツ国際モーターショーを前に発表されたフルモデルチェンジで大きな方針転換を図った。新型では少なくとも欧州地域においては、「ヴァリアント」すなわちステーションワゴンのみの設定になるという。

VW パサートヴァリアント 新型(IAAモビリティ2023)VW パサートヴァリアント 新型(IAAモビリティ2023)

「欧州や米国のセダンマーケットはSUV需要の定着と置き換わるかたちで、日を追うごとに縮小しています。一方でヴァリアントについては積載力や動的質感について根強い支持がありますし、欧州についてはフリートの需要もカバー出来ています。ヴァリアントの一本化にはそういう事情があります」

VWのプロダクトマーケティングのトップであるヘンドリック・ムース氏は、決断の背景をそう語る。ちなみに直近の欧州におけるパサートの販売比率は2:8~1:9の割合で圧倒的にヴァリアントの方が多いという。ゆえに法人需要比率の高いセダンニーズはBEVの『ID.7』でサポートしながら、ヴァリアントのみの展開を決めたそうだ。一方で、中国を筆頭としたセダンのボリュームが大きい仕向地については、このヴァリアントをベースとするセダンの導入を計画しているという。

◆上級セグメントのEクラスワゴンにもせまるサイズに

VW パサートヴァリアント 新型VW パサートヴァリアント 新型

新型『パサートヴァリアント』のサイズは全長4917mm、全幅1849mm、全高1506mmとなる。先代に対しては特に全長が144mmの大幅な伸びとなっており、車格的にはひと世代前のEセグメント級ワゴン、たとえば『Eクラス』や『5シリーズ』のワゴンのそれにほど近い。但しホイールベースも2841mmと先代より50mm伸びており、それらの伸び分は居住性や積載力に等しく寄与している。たとえば荷室は標準時も先代比で40リットル大きい690リットル、後席格納時は140リットルも大きい1920リットルと、高さで稼ぐ大型SUVと比肩するほどの莫大な容量を実現した。

代々のパサートは質実剛健のキャラクターが実直なパッケージにもよく現れているクルマだったが、新しいパサートもその期待には十分応えてくれそうだ。会場でひっきりなしに撮影が行われる、その隙間を縫って展示車に座ってみての慌ただしい中での感想にはなるが、181cmの筆者をして後席の足元周りはかなり広々としており、車体の極端な絞りやピラー位置などの弊害による側頭部の圧迫感もない。つま先の置き場や足腰の屈曲度なども至ってお手本的で、それが長い時間をストレスなく共に出来そうな信頼感として伝わってくる。

VW パサートヴァリアント 新型VW パサートヴァリアント 新型

前席に移ってみると、進歩の跡がみてとれるのがダッシュやドアパネル、そのトリム類といった大きな造作物の質感が向上したことだ。VWのプロダクトはこのところ、リソース配分のしわ寄せが内装周りに現れている傾向が強かったように個人的には思っていたが、新型パサートは質感面での不満は感じなかった。運転席のドア横にはB6世代のように折り畳み傘を収納するポケットが復活するなど、代々をよく知る者をニヤリとさせるディテールもある。

インフォテインメントシステムには最新世代のMIB4が採用され、OTAによるアップデートや機能追加にも幅広く対応、また、ADASも最新世代へとアップデートされるほか、スマートフォンと連動した狭所での出入庫操作や、直近50mの操作や走行軌跡を記憶し同じ場所での駐車を自動で行うなど、パークアシストの機能が大幅に強化されている。また、情報表示はフルデジタル化され、特徴的なセンター部の横長タッチスクリーンは15インチ、メータークラスター周りには10インチの液晶パネルが採用された。

◆「エンジンの中身は別物といえるほどにブラッシュアップした」

VW パサートヴァリアント 新型VW パサートヴァリアント 新型

パワートレインは3種類のPHEVおよびMHEVと、5種類の内燃機からなる8バリエーションの構成となる。PHEVはバッテリーの容量を19.7kWhと大幅に拡大、高出力の普通充電にも対応し、約100kmのBEV走行を可能としている。2リットルガソリンユニットのチューニングによる差別化によって、高出力側では272psと強力なアウトプットを得ていることが特徴だ。

「新型パサートのエンジンは根本的な型式名称こそ前型と同じですが、中身は別物といえるほどにブラッシュアップしました。内燃機への投資は不透明なところがありますが、地域によっては必要とされる場所があることは理解しています。現在のエンジンファミリーを継続的に進化させるというプロセスについてはまったく後退していません」

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VWの技術開発担当取締役を務めるカイ・グリューニッツ氏は、VWのパワートレイン戦略を交えながら、ガソリンユニットの核となるEA211世代が今回、Evo2とも称される大幅な進化を遂げていることを話してくれた。

同様にこのパサート、そして間もなく登場する新型ティグアンからは、車台の刷新も進められている。MQB Evoと呼ばれるそれは、モジュラー化の要となるフロントアクスル~カウル間の寸法構成は従来のMQBそのままに、リアアクスルのモディファイやバリアブルダンピングシステムの刷新など、動的質感を高める数々の手が施された。その恩恵を真っ先に受けるパサートは、クラスを超えた洗練された走り味を実現したとアナウンスされている。

◆新型『パサートヴァリアント』の日本導入は2024年中

同様の使い勝手を持つSUVも数多ある中で、たくさん積めて気持ちよく走るというステーションワゴンの王道たるコンセプトを敢えて推し進めたパサート。日本の導入は2024年中が予定されている。パワートレイン的には現行型と同様、1.5リットルガソリンと2リットルディーゼルが継承される可能性が高そうだ。

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《渡辺敏史》

渡辺敏史

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト 1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。

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