開放的な車内環境と快適な温度を両立、これまでの常識を覆すAGCの「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」

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AGCの「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」とAGC オートモーティブカンパニー トヨタグローバルユニット マネージャー セールスエンジニアの大川潤氏
  • AGCの「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」とAGC オートモーティブカンパニー トヨタグローバルユニット マネージャー セールスエンジニアの大川潤氏
  • AGCの「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」(調光モード)
  • AGCの「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」(透過モード)
  • スイッチのボタンを押すと、瞬時に調光モードと透過モードが切り替わる(調光モード)
  • スイッチのボタンを押すと、瞬時に調光モードと透過モードが切り替わる(透過モード)
  • AGC オートモーティブカンパニー トヨタグローバルユニット マネージャー セールスエンジニアの大川潤氏
  • 「調光ガラスWONDERLITE Dx」の仕組み
  • Low-Eコート付きのパノラマルーフは従来のものに比べ、輻射熱を5分の1にカット、車外放熱を3分の2に抑制する

ドライブ中に明るい日射しが差し込むサンルーフ。これまでも純正オプションとして多くのクルマに採用されてきたアイテムだ。SUVブームやアウトドア志向の高まり、より充実した車内体験を求めるユーザーの増加と共にその人気が昨今再び高まってきている。そのような中、これまでのサンルーフと一線を画す新たな製品が誕生した。今回はその秘密に迫りたい。

LEXUS「RZ」に採用された新たなパノラマルーフ

サンルーフはかつて、ルーフの一部をくり抜いて開閉できる構造を採用するのが一般的だった。そのため、その面積にはおのずと限界があり、オープンエアにはなるものの、開放感という観点ではイマひとつ物足りなさを感じたものだ。そんな中で、最近のサンルーフは開閉式を採用するのではなく、ガラス面積を拡大して圧倒的な開放感を重視するパノラマルーフに変化してきている。その背景にあるのが、これまでにないガラス技術の進化だ。

本来ならガラス面積を増やすと、外気の影響を受けやすくなる。たとえば、夏であれば太陽光によって車内温度が上昇し、冬は車内の暖房が逃げてしまい、空調効率は悪くなる。つまり、ルーフ用ガラスによってもたらされる開放感は、空調効率とトレードオフの関係にあったとも言えるのだ。

そうした中で画期的な技術が登場し、その状況を一変させることになった。それがAGCの「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」である。

これは2022年に発表されたLEXUSのBEV専用モデル「RZ」に採用されたもので、開放的な車内環境と快適な車内温度を両立させるだけでなく、なんと従来装着されていたサンシェードを廃止し、頭上空間の拡大と車体の軽量化も実現した。

AGCはこの「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」を、7月5日から7日にAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で開催された「人とくるまのテクノロジー展2023 名古屋」に出展した。同製品は一体どのような特長を持つのか。AGC オートモーティブカンパニー トヨタグローバルユニット マネージャー セールスエンジニアの大川潤氏に、開発に至った経緯や仕組みについて解説してもらった。

ストレスを感じさせない調光機能

大川氏によると、このパノラマルーフは「調光機能」と「Low-Eコート」の2つの技術によって構成されているという。この組み合わせがBEVである「RZ」にかつてない快適な空間をもたらしている。

まず調光機能だが「この機能ではスイッチ一つでガラスの遮光/透過状態を瞬時に切り替えられることがポイント」(大川氏)だ。その原理は、電圧をかけることで液晶素子の配列が変化することを利用している。

スイッチボタンを押すと、瞬時に調光モードと透過モードが切り替わる(調光モード)スイッチボタンを押すと、瞬時に調光モードと透過モードが切り替わる(調光モード)スイッチのボタンを押すと、瞬時に調光モードと透過モードが切り替わる(透過モード)スイッチのボタンを押すと、瞬時に調光モードと透過モードが切り替わる(透過モード)

ルーフ用ガラスに使われるガラスは2枚の合わせガラスでできており、この中間に液晶素子を含んだ特殊なフィルムを挟み込んでいる。この液晶素子は電気が流れていない時はランダムに並んでおり、そのため光は散乱して透過しにくい遮光状態となる。一方で、電圧をかけるとこの素子は均等に並ぶようになり、光はスムーズに透過できるように変化。この有機的な変化によって、車外からの光をコントロールしているのだ。これを製品化したのが「調光ガラスWONDERLITE Dx」である。

「調光ガラスWONDERLITE Dx」の仕組み「調光ガラスWONDERLITE Dx」の仕組み

こう説明すると、旅客機のボーイング787の窓に装備されている、スイッチ操作で徐々に調光する窓を思い起こす人もいると思う。しかし、大川氏は「AGCが開発したものは原理からしてこれとはまったく異なるもの」だと話す。ボーイング787で採用されたものは化学変化を応用したもので、その変化はゆっくりとしたものだ。しかし、AGCが開発した調光ガラスは、特殊な液晶素子を利用したことによりスイッチ一つで瞬間的に変化させることができる。その動作はストレスを一切感じさせない機構となっている。

ただ、この技術は電圧をかけた時にガラスが透明になるというもの。顧客によっては「万が一、電源が故障したとき(無電源)でも透明になるように設定したい」との声が出ても不思議ではない。そこでこの機能に対しては「『リバースモード』と呼ばれるモードも想定されており、実用化に向けて液晶素子メーカーと共に開発を進めているところです」(大川氏)と話す。液晶素子による調光には、そんな設計における自由度の高さも持ち合わせているというわけだ。

ここで一つ疑問が湧く。これまで液晶そのものは超高温や極低温下では動作しないものと伝えられてきた。自動車の温度変化が激しい過酷な環境下でその動作に問題は生じないのだろうか。これについて大川氏は、「確かに従来の液晶技術ではそういった問題はありました。そこでAGCは液晶素子メーカーとこの分野で共同検討を進め、2020年にそれに耐え得る技術を発表しました。その第一号としてトヨタ『ハリアー』への「調光ガラスWONDERLITE Dx」の採用が実現できました」と、その開発の過程について説明した。

「Low-Eコート」と組み合わせ、課題をクリア

ではもう一つの技術「Low-Eコート」とは何か。これを聞いてすぐに理解できる人は少ないだろう。大川氏によれば、それは「今までにない遮熱・断熱性能を実現することで、夏の暑さや冬の寒さといった課題を大きく抑制できる技術」だという。つまり、前述した、ルーフ用ガラスでトレードオフとなっていた空調の課題をこの技術によって解消できるというわけだ。

その効果は極めて大きく、夏場の遮熱に対しては温まったガラスの輻射熱を約5分の1にカット。冬場の断熱に対しては車室内の乗員やインテリアから放射される熱を反射させることで、熱をそのまま車室内に閉じ込めることが可能だ。これにより、ガラスからの車外放熱は約3分の2に抑えられたという。この画期的な効果が「RZ」にシェードレスなパノラマルーフというまったく新しいスタイルをもたらしたのだ。

Low-Eコート付きのパノラマルーフは従来のものに比べ、輻射熱を5分の1にカット、車外放熱を3分の2に抑制するLow-Eコート付きのパノラマルーフは従来のものに比べ、輻射熱を5分の1にカット、車外放熱を3分の2に抑制する

このシェードレスは車内空間の拡大や軽量化にもつながった。多くのルーフ用ガラスの場合、シェードが備えられているが、当然ながらその分だけ車内側に内装材が張り出している。しかし、「RZ」はSUVながらフロアにバッテリーが敷き詰められ、フロアが高めとなっている。それだけにシェード付きとなれば車内高に影響が出てしまう。当然、その装備の分だけ重量増にもつながるのは言うまでもない。

そこで大川氏の頭に浮かんだのが、このLow-Eコート技術と調光技術の組み合わせだった。

実は、このLow-Eコートの基本技術そのものは40年ほど前からすでに住宅用建材には採用されていたという。しかし、その基本はあくまでコーティング処理を施すもので、本来はがれやすいものだ。住宅用建材では2枚のペアガラスの内側にコーティングしていたために人が触れることはなく、問題はなかった。一方で、ペアガラスではないルーフ用ガラスにこのコーティングを施せば人の手が直接触れる状態となり、そこには当然、耐久性の問題が生じてしまう。

そんな中でAGCは特殊金属コーティングを施すことでこの課題をクリアできる技術の開発に成功。それが車載向けLow-Eコート技術につながったのだ。

この開発が終了したのと前後して、トヨタから「『RZ』はLEXUS初の“BEV専用モデル”だけに、世の中にインパクトを与える先進的なものを提案してほしい」と言われていた大川氏は、これが実現できればシェードレスとなり、空調の効率化や軽量化という側面でその期待に応えられるのではないかと考えたのだ。

もちろん、車載用とするからには温度変化や耐振性といった過酷な状況下にも耐えられるものでなければならない。特にルーフ用のガラスは湾曲しており、製造に当たっては温度を加えて3次元にガラスを曲げる作業が伴うが、この時にコーティングに影響が出ないようにする必要がある。特にシェードレスとなったことで、ガラス面にはユーザーの表情が映り込むことにもなり、その時に不自然な歪みが発生しないようにも気を配ったという。

また、調光に関しては電気信号によって変化を生じさせることから、車両から発せられる電波状況などあらゆる場面を想定した上でその影響を厳しく検証。この結果はトヨタ側からも高く評価され、「RZ」への採用に至ったという。これらの実現には、AGCの長年にわたる世界最高水準のガラス技術が反映されていると言っていいだろう。

より多くの車両への展開を目指す

今回、「Low-Eコート付き調光パノラマルーフ」はLEXUS「 RZ」への搭載でスタートを切った。AGCとしては当然ながらこの機能をより多くの車両へ広げていきたいと考えている。電動化が進む中でバッテリーの効率的な運用は避けられず、その意味でLow-Eコートの遮熱・断熱は間違いなく省エネ効果にもつながっていく。それは結果としてCO2削減にも結びついていくはずだ。

AGCとしては当然ながらこの機能をより多くの車両へ広げていきたいと考えている。電動化が進む中でバッテリーの効率的な運用は避けられず、その意味でLow-Eコートの遮熱・断熱は間違いなく省エネ効果にもつながっていく。それは結果としてCO2削減にも結びついていくはずだ。

最後に大川氏に思っていた質問をぶつけてみた。それは「仮にすべてのガラスにこのコートが施すことができれば、それこそ省エネ効果として大きくなるのではないか」ということだ。大川氏は「現状ではクルマ自身が電波を通して外部と通信することが多く、Low-Eコートには電波を遮蔽する機能が含まれているため、今のままでは実用化できない」という。ただ、「今後はそういったものにも対応できる技術を開発していきたいと考えています」とLow-Eコートの今後の可能性に前向きだ。

さらに調光技術についても「フロントガラスにレーザーで彫り込めば、たとえば車両名など多彩な表示を浮かび上がらせることも技術的には可能です」とも話す。最近はドアを開けると路面に車両名を投射することや、車両起動時にメーター内に車両名などが浮かび上がることがあるが、これをフロントガラスに浮かび上がらせることはできないか、そう思ったからだ。大川氏は「フロントガラスは保安基準との絡みもあり、その兼ね合いを検証する必要がある」としながらも「検討する価値はあります」と回答してくれた。

AGC オートモーティブカンパニー トヨタグローバルユニット マネージャー セールスエンジニアの大川潤氏AGC オートモーティブカンパニー トヨタグローバルユニット マネージャー セールスエンジニアの大川潤氏

これまで車両に搭載されるガラスと言えば、合わせガラスと強化ガラスぐらいしか思い浮かばなかったが、話を聞けば聞くほど、ガラスがもたらす奥深さを知ることになったのは確かだ。これから先、クルマを取り巻く環境は大きく変化していくと思われるが、ガラスはどんな希望を与えてくれるのだろうか。今後の進化を楽しみに待ちたいと思う。

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《会田肇》

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