BYD日本進出:100店舗以上のディーラー網、中古車も…代表取締役社長[インタビュー]

BYD アット3とBYD Auto Japan代表取締役社長の東福寺厚樹氏
  • BYD アット3とBYD Auto Japan代表取締役社長の東福寺厚樹氏
  • BYDのディーラー網予想図
  • BYDのディーラーで出来ること
  • BYD Auto Japan代表取締役社長の東福寺厚樹氏
  • 日本に導入予定の3台。手前からドルフィン、アット3、シール
  • BYD ドルフィン
  • BYD アット3
  • BYD シール

中国の自動車メーカーBYDは3台のEVとともに日本で乗用車の販売網を構築。2025年には100店舗以上を目標としている。そこで具体的な施策や戦略について輸入元のBYD Auto Japan代表取締役社長の東福寺厚樹氏に話を聞いた。

BYD Auto Japan代表取締役社長の東福寺厚樹氏BYD Auto Japan代表取締役社長の東福寺厚樹氏

◆20店舗程度からスタートし2025年には100店舗以上に

----:早速ですがディーラー網を2025年には店舗数100以上を目指されるとのことです。これは例えばアウディの店舗数が124(2021年2月時点)ですので、それに迫る勢いです。そこでお尋ねしたいのは、直近で結構ですので、現在想定しているディーラーは現在自動車関連のディーラーを経営されているところだけではなく、どちらかというと新規に自動車ディーラーを始められる経営者(社)もターゲットにしているのでしょうか。

BYDのディーラー網予想図BYDのディーラー網予想図

東福寺:そうではありません。やはり既存のいくつかのブランドを扱っている販売店のオーナーさんに直接お声がけをして、今度、BYDが乗用車の販売を開始しますが興味ないですかと勧誘しているのが実態です。

その理由ですが、店舗網を展開していくためにはもちろん場所の確保も必要ですが、人の確保がすごく重要になります。自動車販売はかなり法律に縛られてる業態でもありますので、特に販売後のメンテナンスに関しては、リコールやリサイクル、そして点検・車検など完全にがっちりと組み込まれています。さらに中古車を扱うとなると古物商も必要になるなど、色々な意味で出来上がった仕組みの中できちんとやらないと認めてもらえない業態でもあるのです。そこに全く自動車ビジネスやっていない投資家さんがいきなりとなると、我々がひとつひとつお教えしながらスタートすることになってしまいます。それでは規模感もスピード感もちょっと次元が合わないというのが実情です。

----:来年の1月から販売をスタートするわけですが、その時点で大体何店舗ぐらい出来たらよいとお考えですか。

東福寺:まずは 20店舗ぐらいスタート出来たらと思っています。ただし、例えば更地に新たにショールームなどを建築するとなると、確認申請からはじめ、それから工期、引き渡しとなりますので、短くても1年くらいかかってしまいます。さらにいま資材高騰や鉄や木材が少ない状況ですので、店舗を作る場合いままで以上の時間がかかることが予想されます。ですから例えうまく契約が出来て、適地が見つかってそこに店舗を出せるとなっても、スタートしてからやはり1年から1年半くらいはかかってしまうでしょう。つまりいまスタートしても、おそらく来年末ぐらいに新規オープンというタイミングにってしまいます。

そこで基本的には既存店舗を持っていらっしゃる、マルチブランドをやっているディーラーさんで、ちょっとブランドを変えようかなというところとうまくタイミングが合えばいいなと。ブランドの入れ替えは常に起こっている話ですので、そういったところですと模様替えで済みます。

もうひとつ、例えば3月とか4月にオープンですが、1月から営業は開始出来るような準備室を作っていただくこともあるでしょう。我々としてはディーラーさんで扱っていただく手前のところまではウェブでリードマネージメントをして、お問い合わせいただいたお客様をちゃんとその地域のディーラーさんに繋いでいけるようなデータベースを作って、そこでうまくディーラーさんとお客様のブリッジを作っていきます。そのお客様に対してアポイント予定のお店の方からアプローチするのですが、まだ店舗はありませんので準備室に試乗車は置いていただいて、既存ビジネスのどこか、それは別のブランドの軒先かもしれませんが、そんな形でスタートしてもらう。その後ちゃんとしたお店が出来ますから、それまではこういう形でというのを合意した上でスタートしていただこうかと。そういうところも含めて20か所ぐらいは1月でスタート出来たらいいなと考えています。

----:確かにそれであれば、これまでも自動車ビジネスに携わってきた方々ですから、人も会社も法規を含めて対応出来るので、トラブルなく進められそうですね。

東福寺:やはりご存知ない方に車庫証明を取ってきてといっても出来ないと思いますし、整備では整備協会もあり、保険もあるし、既存のビジネスモデルが出来上がっていますから、そことうまく繋がっている会社さんじゃないと、入りにくいというところはあると思います。

BYDのディーラーで出来ることBYDのディーラーで出来ること

◆ディーラーも認める商品力

----:これまでも拠点展開に関しては活動を行って来たかと思いますが、手応えを含めていかがでしょう。

日本に導入予定の3台。手前からドルフィン、アット3、シール日本に導入予定の3台。手前からドルフィン、アット3、シール

東福寺:これまでは水面下でディーラーになっていただきたい会社さんに、ピンポイントでアポ取りしながらお話をしてきました。実は2月から4月にかけて小さなサーキットを借りて試乗会を開催したんです。そこには中国でいまメインで売っている『ハン』というテスラ『モデルS』の対抗のモデルや、SUVの『ソン』、ミニバンの『タン』。そして導入予定の『ドルフィン』と『アット3』も含めて、中国仕様ですが全部持ってきました。

ディーラーの皆さんは日頃からクルマを売っていますし、いろんなブランドを扱ってるところですから比較もきちんと出来ます。そういう方々のファーストインプレッションは、“ここまで来てるのか中国は!”と驚かれていて、それが印象的でした。そこでやはり乗ってみるとわかるというのが1番大きなポイントになるでしょう。

デザインも非常に個性的ですから、当然好き嫌いは出ると思います。その中で例えば1%でも可能性があるとすれば、仮に100人に1人が良いといっていただければこちらにとってはありがたいお客様です。そのぐらいちょっと強い個性を良いなというお客様が取れるといいですし、そういったちょっと興味を持ったお客様にぜひ乗って体感いただきたい。これが1番大きなポイントになるんだと思いました。特にディーラーの皆さんに来て乗っていただいて、これはすごいよ、これは売れるよと、売り手側としてお勧め出来るといっていただいたのは大きな材料だった思いますね。

----:そこで1番のポイントとなるのは、ディーラーにいかに来場してもらうかになると思います。そこはどういう戦略を考えてるのでしょうか。

東福寺:いまの段階で例えばテレビコマーシャルをジャンジャン流しても、まだ販売ネットが整ってない状態ですから、それをやっても仕方がありません。そこで当面はSNS等を通じて色々なところでBYDというワードが出てくるようなことを進めていきます。例えば、今回のような導入発表会も同様です。大きくボーンと花火を打ち上げて、そこから火の粉が拡散していく。その拡散がBYDというワードになるのです。それが色々なところでパリパリし続けるような状態を作っていくことが大事で、そういう形で、とにかくじわじわとやっていくこと。

それから7月30日から8月28日まで“レッドブリックビーチ2022”が赤レンガ倉庫イベント広場で開催されるのですが、それのトップスポンサーとして協賛し、導入予定の3台を展示。そこではアット3は試乗も出来るようにしています。そのようにともかく見て乗っていただく機会を出来るだけ増やしていきたいのです。そのうえで、ディーラーさんの出店地が決まり、開店に向けてのスケジュールが決まった段階で、その地域に対してディーラーさんとタイアップの形になりますけど、出張展示会のような形で試乗イベントを開催し、その出店予定の周りのお客様に出来るだけ認知していただけるようにする。ディーラーはテリトリーの中での商売になりますので、そこは徹底的にやるつもりです。

◆特に若い人たちにアピールを

----:さて、日本においてBYDはどういうメーカーだと思ってもらいたいですか。

東福寺:日本の私のような年齢層、要は50代60代が持っている中国ブランドに対する認識は、安かろう悪かろう。そこからだんだん安くて良いものも出てるよねぐらいの変化だと思うのですが、それでもまだどこかで日本の方が優で中国は劣っていると最初から分けてしまう層がいらっしゃると思います。そこは先入観念ですからなかなか代えがたいとは思うんです。実際に使ってみないとわからないところですから。

ただその下の層、40代から30代あたりは実際に色々旅をして中国の凄さを知っていたり、上海の万博に行ったり、北京オリンピックを見に行ってきたとか、あるいは中国に駐在してみたような人たちがものすごく増えているんです。そこからまたさらに下がった、大学生とか20代の人たちは、全くそこに政治的な色合いを結びつけないで、これはこれ、あれはあれという感じで、良ければいいじゃないかという考えに変わってきています。

ですので出来るだけ40から30、20代といった層に対してのアピールはしっかり増やしていきたいと思います。確かにお金を持っている層は50代、60代で、買う名義人はその方になるかもしれませんが、インフルエンサーになるその下の世代の人達から、“お父さん、実際はすごくいい会社なんだよ”といってもらえるような、“将を射んとする者はまず馬を射よ”ではないですが、これも必要かなと思います。

そういうこともあってディーラーのプロの力をお借りして、買った後もともかく相談出来るところがあって、ないに越したことはありませんが、何かあってもすぐに面倒見てもらえるサポート体制があるというのは、安心につながるかなと思います。また技術的には超安全なものを作っていますので、売り場でその安心を醸成していただいて、実際に試乗すると、実に安定している良いクルマだと感じてもらう。このように安定・安全・安心が揃うとうまくいくんじゃないかなと思っています。

そのディーラーさんもBYDの世界観がある程度ちゃんと見える店舗作りは必要です。そして、ゼロスタートのブランドですから、1店舗あたり800から1000ぐらいの既納客が出来で、サービス入庫からある程度の収益が期待出来るようになるまでには、初回車検、2回目の車検ぐらいまで我慢してずっと売り続けなければなりません。そして最初に売ったお客様が逃げないようにリテーションをかけていく。これが必要なので、その間はやはり新車をいかに売って、お客様を増やしていくかが1番キーになるでしょう。

あとは中古車ですよね。ある程度値崩れを防ぐ仕組みを入れた認定中古車をしっかり最初からやることです。サブスクや、残価設定型ローンをやる理由としては、回転率を上げていって1台で2人3人のお客様を増やしていくことをしっかりやっていけば、5年、6年した時に初めてアフターサービスでようやくペイ出来るようなレベルになってくるんです。そこまではやはり我慢して続けなければいけない、厳しいですけどね。

ですからBYDから見える世界観というのは大切にしながら、ただあまり中国、中国って表に出すとどうかなとも思うんですが、でも、ワールドスタンダード的な部分での中国側できちん決めている部分(CI)をしっかりと整えながら、お客様に1番心地よく感じていただけるようなお店を、大きさに関わらずちゃんと作っていくっていうのが重要だと考えています。

----:そうするとインポーター側とディーラーとの連携や関係性は、これまでよりも、相当密にしていかないと厳しそうですね。

東福寺:ゼロスタートである利点としては、最初から問題点が分かってることについては、お互いにそうならないようにするためにはどうしましょうかという話が出来ることだと思うんです。面々と流れてきてる歴史の中でいきなり仕組みを変えるのではなく、最初からWin Winをどうやって作っていくか。そこに必要な要素はなんだろうということを、ゼロベースで色々お話出来るのは利点です。

----:そのディーラーからは何か要望みたいなのは出ていますか。

東福寺:ある程度地域を任せてほしい、テリトリー的なお話があります。そういったことを無視してしまうと自銘柄競合が起こりやすくなってしまいますので、出来るだけそういう地域割りみたいな形をとるようにしていきます。また、認定中古車の話もディーラーさんの方から、EVだから残価を維持するためには是非認定中古車を早い時期からやってくださいという話をいただいていますので、最初からやるようにしていくつもりです。まだ契約出来ているディーラーさんは少ないのですが、これから引き続き、これらのことを踏まえながら進めていきます。


《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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