「40代初心者ライダー」の公道デビューを、優しく後押ししてくれるバイクレッスンがあった

「背中を押してくれる」初心者向けのレッスン

付きっきりで「褒めてくれる」のが嬉しい

初の公道ツーリングで体感した「風」と「匂い」

より多くの人たちがYRAを受講できる体制を

40代半ばにして二輪免許を取得した筆者が、「YRA 大人のバイクレッスン」で公道デビューしてみた
  • 40代半ばにして二輪免許を取得した筆者が、「YRA 大人のバイクレッスン」で公道デビューしてみた
  • YRA 大人のバイクレッスン
  • YRA 大人のバイクレッスンで使うヤマハ トリッカー
  • YRA 大人のバイクレッスンで配布されるハンドブック
  • YRA 大人のバイクレッスンで配布されるハンドブック
  • ヘルメットやプロテクターもすべて借りることができる
  • YRA 大人のバイクレッスン
  • インストラクターの伊集院忍さんは、元全日本レディースモトクロスライダーだ

空前のバイクブームだ。コロナ禍にあって二輪免許の取得者が増加しているという。筆者もご多聞に漏れず、リモートワークになったのを良いことに40代半ばにして「バイク免許、取ってみるか」と一念発起したものの、教習所は同じ思いの方々で溢れ大混雑。取得まで半年以上かかってしまった。

さらに追い討ちをかけるように(?)新車販売数は251cc以上の小型二輪で前年比2割以上の伸長、一方で半導体不足や海外工場の稼働停止などによる影響で新車のデリバリーに時間がかかり、巡り巡って中古車のタマ不足や高騰にもつながっている状況。つまり半年かかってようやく免許を取得したものの、バイクに乗りたくても乗れない!という事態に陥ってしまっていた。

レンタルバイクでも何でも、乗るだけなら手段はあるがいきなり慣れないバイクはちょっと怖い。クルマの運転には慣れているものの、剥き身での公道走行は経験がないし、ヘルメットもウェアもちゃんとしたものを揃えなきゃ……などなど小心者にありがちな負のスパイラルにハマりかけていたところ、まさに筆者にドンピシャな機会に巡り合った。それがヤマハが運営するバイクレッスン「ヤマハライディングアカデミー(YRA)」だ。

というわけで、3月末に開催された、2022年第一回目のYRA「大人のバイクレッスン」に参加。初めての公道ツーリングを体感した。

「背中を押してくれる」初心者向けのレッスン

YRA 大人のバイクレッスンYRA 大人のバイクレッスン

バイクレッスンというと、速く、上手く走るためのガチガチの講習会というイメージを持つ方も少なくないだろう。実際、筆者もヤマハのレッスンということで当初は勝手に高いハードルを想像してしまっていた。しかし聞けばYRAの理念は、初心者やリターンライダーを中心に「バイクライフをスタートするための背中を押す」ことだという。

免許取得者は近年、毎年10%程度づつ増えているものの、そのうち実際にバイクを購入するのは30%程度だそうで、多くは離脱または結局バイクに乗らないままになってしまうのだとか。ひとりで公道に出るのが怖い、という理由もあれば「免許を取ってすぐに先輩ライダーからツーリングに連れ出されたりしても、慣れているライダーの走りについていけなくて辛くて乗ることをやめてしまうというケースも多い」とYRAの関係者は話す。

同じレベルで悩みや課題を分かち合いながら、かつ親切・丁寧にライディングのいろはを教えてくれる……初心者ライダーにとっての「あったらいいな」の実現を目指しているのがYRAの最大の特徴だ。インストラクターはロードレースライダーや、全日本モトクロスライダーなど精鋭揃い。厳しい自社基準のライセンスを取得した者だけがインストラクターになれるとあって、技術、そして教え方も文字通りのプロ。安心して身を委ねることができる。

インストラクターの伊集院忍さんは、元全日本レディースモトクロスライダーだインストラクターの伊集院忍さんは、元全日本レディースモトクロスライダーだ

YRAはバイクを持っていなくても参加できるし、ヘルメットもプロテクターも貸し出してくれる。開催地のアクセスのよさにもこだわっているから、手ぶらで参加できるのもメリット。受講料がすべて込みで8000円というのも安い。レンタルバイクを1日借りるよりも安く、しかもライディング技術をプロのライダーから教わることができるのだからかなりお得だ。

東京サマーランドの駐車場で開催された今回のYRAには15人が参加。およそ半数が女性で、年齢層も20代から50代までと幅広い。「20年ぶりにバイクに乗りたいと思ったけど、不安だったので一から学びたい」「1年近く前に免許を取ったけど、不安でまだ公道を走っていない」「スクーターは乗っているがMTも運転できるようになりたい」など、参加の理由もさまざまだ。が、共通するのは不安や心配を払拭して、楽しく安全にバイクに乗りたい、ということ。多くのライダーにとって「速く走ること」は重要ではないのだ。

付きっきりで「褒めてくれる」のが嬉しい

YRA 大人のバイクレッスンYRA 大人のバイクレッスン

YRAの基本プログラムは、「オンロード」と「オフロード」があるが、今回参加したのはオンロードのレッスン。午前中に走る、曲がる、止まるのトレーニングをおこない、午後に公道走行を体験するミニツーリングも組み込まれたプログラムだ。いきなり公道を走るではなく、基本的なレッスンがあるのもいい。というか、本当に教習所の最初の授業で教わるような運転姿勢からアクセルの開け方、ブレーキの掛け方から教えてくれる。

2~3人あたりに1人以上のインストラクターが付きっきりで、かなり細かく面倒を見てくれる。教習所と違うのは、よりリアルで実用的な操作やライディング方法を教えてくれることだ。例えば、教習所では4速から停止する際のギアチェンジの方法は教えてくれないだろうし、基本的に「右足は地面に付くな」と教えられたが(これは筆者だけだろうか)「倒れないためならば両足を使ってもいい」ということだったり、狭い場所でのUターンの仕方だったり。超初歩的なところでは、バイクに跨ってからスタンドを上げればいい、なども。ベテランライダーにとっては「そんな当たり前のこと」でも、初心者にとってはひとつでも不安要素は少ない方がいい。眼からウロコな気づきがいくつもあった。

YRA 大人のバイクレッスンYRA 大人のバイクレッスン

何より嬉しいのは「褒めてくれること」。個人的かつ世知辛い話だが、40代も半ばの中間管理職にもなると仕事で褒められることなんてないし(できて当たり前)、家庭で褒められることもまずない。よっぽどサービスのいい教習所なら教官も褒めてくれるのだろうが、残念ながら筆者のところではなかったので、「今のブレーキよかったですね!」「きれいなコーナリングでしたよ!」「目線もバッチリですね!」なんて言われると涙が出そうになる。褒められ足りないアラフォー、アラフィフ世代は、それだけでも参加する価値があると思う。

半分冗談はさておき、教習車として用意された250ccの『トリッカー』は、教習所で多くの人が乗るホンダ『CB400』と比べるとかなりコンパクトで軽く(およそ70kgも軽い)、扱いやすい。それでも朝9時に始まったレッスンがお昼を迎えるころになると、腕や足に疲れがたまってくる。そもそも教習所では2時間が上限だ。休憩を挟みながらとはいえ、この日はすでに3時間以上乗りっぱなし。「言葉は優しいけど、結構やっていることはスパルタじゃないか…?」などと考えていると、見通しの悪い交差点を模したコーナーでやらかした。生まれて初めての「立ちゴケ」だ。握力のコントロールができず、低速でアクセルを開けることができないままエンスト、そのままバランスを崩し左へ転倒。幸いケガは全くなかったが、曇天を見上げながら「レッスンで経験できてよかった」と、謎の満足感を得ていた。

初の公道ツーリングで体感した「風」と「匂い」

初めての公道ツーリングもサポートしてくれる初めての公道ツーリングもサポートしてくれる

昼食を挟んでいよいよ待望の公道でのミニツーリングだ。コースは東京サマーランド周辺で、往復1時間程度のちょっとした峠道での走行も楽しめるもの。3人グループにつき1人のインストラクターが先導する形でのツーリングとなったが、敷地を出てまず感じたのが「自由」と「風」。あれこれダメ出しされることなくバイクを操って走っているという自由さに、初めてクルマの免許を取った学生の頃のワクワクを思い出した。

そして敷地内とは違う、公道で感じるスピード感と、剥き出しの身体で浴びる風は、想像していたよりもずっと手応えがあって思わず笑ってしまう。クルマでならサーキットを200km/hで走ることもあるが、全く違う次元のスピード感だ。制限速度内で、ギアチェンジに四苦八苦しながらのもたもたライディングでも実感する。「風を切るってこういうことか」と。

初めての公道ツーリング初めての公道ツーリング

対向を走る大型車の威圧感にビビったり、民家につながれたロバの可愛らしさに微笑んだりしながら峠道を走ると、いくつかのトンネルにも遭遇した。この最初のトンネルで味わった感覚が、初めてのツーリングの思い出として、今も深く刻み込まれている。それがトンネルの「温度」と「匂い」だ。クルマで走っていたら全く気づくことがなかった感覚。入った瞬間に体を包んだひんやりとした空気と、体育倉庫のような書庫のようなカビっぽい匂い。思わずひとりヘルメットの中で「すげぇ…」と呟いてしまった。

このトンネル体験が、筆者の中のバイクの世界観をかなり広げてくれたと思うし、バイクの愉しさの一端を味わえた気がした。クルマや他の移動体では味わえないスピード感と「匂い」。今回YRAに参加せずともいずれ味わっていたかもしれないが、初めての公道ツーリングでこれを得られたことで、唯一無二の体験となったのは事実だ。これらはもちろん、優しい(やることはちょっとハードな)講習と、ツーリング中も見守り続けてくれているという安心感があってこそだというのはいうまでもない。

より多くの人たちがYRAを受講できる体制を

モーターサイクルショーで紹介されたYRAの取り組みモーターサイクルショーで紹介されたYRAの取り組み

YRA大人のバイクレッスンは2022年、すでに開催されたものも含め44回を実施する予定だという。参加希望の倍率は10倍近くにもなるというから、気になる方は早めのチェックをおすすめする。

繰り返しになるが、この体験内容で参加費8000円はバーゲンプライスだ。バイク普及、ヤマハファンの創出という大目標があるとはいえ、赤字覚悟の草の根的活動ではもったいないと正直思う。ぜひヤマハにはもっと商売っ気を出していただきつつ、持続的に、より多くの人たちがYRAを受講できる体制をめざしてほしいと切に願う。勝手な理想は二輪免許を持つ全ライダーが受講できること。どんなベテランライダーでも、新たな気づきがあるはずだ。また、「免許を取得したら次はYRAで公道体験」という流れができれば、たとえ自動運転機能などなくてもバイクはより安全で楽しい乗り物になるだろう。

YRAは今後も、レッスンの拡大や販売店との連携強化など様々なアップデートを計画しているという。機会に恵まれれば、また別のプログラムにも参加したい。それまでは、今回得られた経験を生かし、アラフォーデビューのバイクライフをしばらく楽しんでみようと思う。

YRA 大人のバイクレッスン参加者のみなさんと記念撮影YRA 大人のバイクレッスン参加者のみなさんと記念撮影

取材協力:ヤマハ発動機、ヤマハ発動機販売

《宮崎壮人》

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