いよいよ東京都にドクターヘリ導入、首都直下型地震に備える【岩貞るみこの人道車医】

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  • ドクターヘリの全国の配備拠点数

2022年3月31日、いよいよ東京都でドクターヘリ(以下DH)の運航が開始された。さらに4月18日に香川県でも運航が始まり、46都道府県に配備された56機が全国の空を飛ぶことになる(京都府は配備されていないが、兵庫県DHが対応)。

DHは、フライトドクターとナースの訓練を受けた医師と看護師が、医療資器材を載せたヘリで患者の元に飛んでいく。一分一秒を争う患者に対していち早く治療が開始できるほか、DHの機動力を活かし広範囲から患者の症状に対して適切な病院を選ぶこともできる。

特に交通事故の場合、つぶれた車内に閉じ込められ、救助に時間がかかることがある。そんなときでも医師が現場に来ることで昇圧剤や痛み止めなどを投与ができ、より安全に救出作業を進めることもできる。以前、取材中に聞いた件では、横転したトラクターの下敷きになった男性が、脚の皮膚がわずかにトラクターにひっかかり救出困難だったという。医師免許のない救助隊が皮膚を傷つければ傷害罪に問われかねないが、このときはDHで現場に来た医師が対応することで簡単に救出できたという。

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どうすれば医師が患者に早期接触ができるか

東京都の基地病院になるのは、三鷹市にある杏林大学医学部付属病院。東京の西側地域の基幹病院である。DH(運航担当者含む)と医師と看護師は、立川市にある東京消防庁航空隊多摩航空センターに待機し、消防からの要請に対応する。119通報で出動の判断をすることもあれば、現場に駆け付けた消防隊からの要請もある。離陸したDHは患者を載せた救急車とランデブーポイントと呼ばれる臨時ヘリポートで合流し患者を引き継ぐのだ。ランデブーポイントとなるのは、小中学校の校庭、野球場、陸上グラウンドなど、あらかじめ使用許可を得ている場所だが、他県では田んぼのあぜ道やスキー場の駐車場に着陸したケースもある。

東京都DHは、多摩地域を中心に対応にあたる。東京の西側にあたる多摩地域は、奥多摩をはじめ自然豊かな場所。人口が密集する23区内に比べ病院の数も少なくDHの機動力が活かされる場所でもある。23区内には飛ばないのかという声もあるが、これまでDHの取材を続けてきた私としては、23区内に無理やりDHを飛ばす必要はないと感じている。大切なのは、どうすれば医師が患者に早期接触ができるかであり、地域特性に応じて、消防防災ヘリ、DH、救急車、二輪車、自転車などを使い分ければよいのだ。実際、ロンドンではこうした手段を駆使して、毎回、一番、早く患者の元に行ける手段を選択している。

東京都DHの運航開始により、多摩地域の救急活動の質が上がったことは言うまでもない。要請も増え始めていて、地元の消防隊との連携もうまくいっているようだ。

日々のDH活動こそが災害時の鍵となる

ただ、今回の東京都DHの導入は、もうひとつ大きなメリットがある。それは災害時対応だ。

日本でのDHの導入のきっかけは、1995年に発生した阪神淡路大震災である。大勢の負傷者が押し寄せ、地域の病院は機能停止状態に陥った。被災していない隣県病院への患者分散が必要だというのに、消防防災ヘリなどを使った患者搬送は3日間でわずか17名という少なさだった。

一方、ドイツでは、そのときすでにDHが全国配備されていた。1998年に起こったドイツ高速鉄道の事故を覚えている人も多いかと思う。このとき、全国から39機のDHが集結。管制塔となる大型ヘリが空中で指示を出し、発生からわずか2時間で87人の重症患者をドイツ中の適切な病院へと搬送したのである。

ドクターヘリの全国の配備拠点数ドクターヘリの全国の配備拠点数

2000年代はじめから日本にもDHが増えていくにつれ、こうした災害時対応も活発化している。2007年の新潟県中越沖地震、2011年東日本大震災、2016年熊本地震などを中心に、全国のDHが集まって対応をしている(隣県と調整して地元の救急体制が手薄にならないよう調整)。

日々、DHに乗り、当たり前のように病院の外に出て患者と向き合っている医師や看護師は、現場での対応能力が研ぎ澄まされている。また、DHの機長や、それを支える整備士、専用の運航管理担当者(管制官)も、手慣れたものだ。もちろん、病院も病院ヘリポートの扱いや患者の受け入れもスムーズに行える。

平時にできないものが、災害時にできるはずがない。まさに、日々のDH活動こそが災害時の鍵となるのである。

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首都直下型地震に備える

今回、東京都DHの基地病院である杏林大学医学部付属病院高度救命級センター長である医師は、東京DMAT運営協議会会長、東京都災害医療協議会委員を務めている。さらに、東京都DHが待機する場所は、大学駅伝の予選会でおなじみの、陸上自衛隊立川駐屯地の飛行場に隣接しており、日々、東京都の離島などから患者搬送を行う東京消防庁航空隊のほか、第八本部消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)、さらに警視庁航空隊もいる。また、日本DMATの事務局も立川にあり、毎年、全国から集まる医師や看護師たちのDMAT研修も行われている場所だ。

今後、30年以内に70%の確率で発生するといわれている首都直下型地震。これに備える意味でも、今回の東京都DHの運航開始は、大きな意味があると感じている。

写真協力:東京都、杏林大学医学部付属病院、ヒラタ学園
地図協力:認定NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

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