【MaaS体験記】EV時代の電力供給のあり方とは…宮崎県国富町役場の取り組み

ソーラーパネルを使った屋根一体型カーポート
  • ソーラーパネルを使った屋根一体型カーポート
  • 国富町役場の正面入口付近
  • ソーラーパネルを使った屋根一体型カーポート
  • EV充放電器と接続された日産リーフ
  • 2セットある充放電機器
  • スマートドライブのシガーソケット型車載デバイス
  • スマートフォンアプリから公用車EVを予約する
  • 国富町役場の財政課管財契約係の主管兼係長の日髙英樹氏(左)と主事の日髙佑輔氏(右)

今回の取材は、宮崎県中部に位置する国富町役場におけるエネルギーマネジメントの実証実験だ。自治体公共施設における太陽光発電システムと蓄電池、車両管理システムを活用した取り組みは全国ではまだ少ない。

本実証は、出光興産と日本ユニシスが取り組むエネルギーマネジメントシステムの技術開発を背景に、エネルギーの地産地消と低炭素化の実現を目指す取り組みだ。実際に国富町役場に訪問して話を聞いた。

国富町役場での実証実験

宮崎県国富町役場での実証実験は、出光興産株式会社・日本ユニシス株式会社・株式会社スマートドライブの3社による車両管理システムと連携したエネルギーマネジメントシステム(EMS)の構築を目的にした取り組みだ。国富町役場の敷地内において、太陽光発電システム、蓄電池、充放電器、車両管理システムを活用し、これらのリソースを最適制御することにより、エネルギーコストや環境負荷の低減と災害時のレジリエンスの向上に資するシステムの構築を目指す。実証実験は、2021年4月から開始して2023年3月末まで行う。

今回使用する太陽光発電システム、蓄電池、充放電器などは出光興産の100%子会社であるソーラーフロンティア株式会社の取扱製品で、EMSは、出光興産と日本ユニシスが2021年3月から実証実験をしているシステムを活用。スマートドライブの車両管理システムを通じて、公用車EVの車両データを収集・分析・活用する。

国富町役場の正面入口付近国富町役場の正面入口付近

エネルギーマネジメントの現場視察

国富町は、宮崎空港から車で約40分程度の宮崎県中部にある。同町は「太陽光発電の町」をスローガンに掲げて太陽光発電の普及に取り組んでおり、町内の電力自給率は太陽光発電由来の電力によって100%を超えている。

国富町役場に、ソーラーパネルを使う屋根一体型カーポートが設置されたのは2016年3月で、発電設備が官公庁施設に設置される全国初の取り組みとなった。国富町役場に入るとすぐに駐車スペースがあり、庁舎入口付近に新設したスタイリッシュなカーポートが設置されている。このカーポートを採用した国富町には、太陽電池モジュールを製造するソーラーフロンティア株式会社の世界最大級の国富工場があり、ちょうど庁舎の屋上から遠く見える範囲に立地している。

ソーラーパネルを使った屋根一体型カーポートソーラーパネルを使った屋根一体型カーポート

この日、そのカーポートには1台の公用車EV『日産リーフ』が止まっており充電中だった。地産地消で庁舎の電力をまかなうことはもちろん2016年設置のカーポートは電力の有効活用として一部売電もしている、と国富町役場の財政課管財契約係主幹兼係長の日高英樹氏(※)は話す。売電は、2012年に固定価格買取制度(通称FIT法)ができたことで広く普及したが、どのくらい売電による収益効果があるのだろうか。 ※高ははしご高

EV充放電器と蓄電池の2セットは庁舎裏手にあり、公用車EV2台と接続されていた。日産リーフを採用した理由には「V2H」システムで非常用蓄電池として活用することができるためだ。この日産リーフに、スマートドライブが提供する車載端末がシガーソケットに差してあった。

EV充放電器と接続された日産リーフEV充放電器と接続された日産リーフ

公用車EVの稼働予定と充放電スケジュールが管理されれば、効率のいいマネジメントができそうだ。スマホを使うときにすでに充電されているのと同じ感覚で、公用車を使おうとおもったときにはすでに充電がされている状態になる。ただ、庁舎の電力需要に合わせて全体を制御しているため、EVを充電しても電池残量(SOC)は常に80%くらいをキープしており100%にはならないと日高氏は話す。公用車の利用に今のところ影響はないが、県をまたぐような広範囲に移動する場合があると、現状の電力で十分なのか、EVの走行距離や路上の充電設備状況なども合わせて見ていく必要がある。

2セットある充放電機器2セットある充放電機器

車両管理システムとEMSの連携

今回の実証では、公用車EVを3台利用して稼働予測を行うため、スマートドライブの「SmartDrive Fleet」車両管理システムを利用している。スマートドライブは、クラウド上で車両に関する情報を一括管理するサービスを展開している企業で、日本ユニシスのエネルギーマネジメントシステム(EMS)との連携は今回がはじめての取り組みだとスマートドライブの先進技術事業開発部ディレクター石野真吾氏は話す。

具体的には、車両予約状況や走行の実績情報をEMS側から参照できるようにし、EMSによるEVの充放電制御に活用している。移動データの取得には、シガーソケット型の車載デバイスを使いリアルタイムに取得できる仕組みだ。電池残量(SOC)などは「V2H」システム接続時に把握できると言う。

スマートドライブのシガーソケット型車載デバイススマートドライブのシガーソケット型車載デバイス

EVの予約は「SmartDrive Fleet」の予約機能を使う。予約するにはスマートフォンのアプリから行えるので、計画もしやすいと国富町役場の財政課管財契約係主事の日高佑輔氏(※)は話す。これまでは予約システムのようなものはなく課ごとに管理されていた。公用車は現在4、50台あるが、今回の実証で稼働状況がデータ化されるので、稼働を効率化していき今後は台数を減らせる取り組みにつながればと話した。 ※高ははしご高

スマートフォンアプリから公用車EVを予約するスマートフォンアプリから公用車EVを予約する

電気の需要家がうまく使えるように

第6次エネルギー基本計画やカーボンニュートラルに向けた取り組みが全国でも加速されようとしているなか、出光興産は再生可能エネルギーを中心とした分散型エネルギーリソースを活用する事業の創出に取り組んでいると、出光興産の地域創生事業室地方・インフラグループの木谷王彦氏は話す。

分散型エネルギーリソースというのは、太陽光発電や再生可能エネルギー、蓄電池やEV、充放電できるようなエネルギーリソースを活用していくことを指すが、とくに太陽光発電や風力発電などは不安定だったり気象により変動してしまう課題もあるため、うまく蓄電池やEVを組み合わせて電気の出し入れなど調整が可能なリソースを使っていくことが求められる。

また、これまでのようなメガソーラーなど大規模な太陽光発電所を作りづらくなってきている背景もあり、今後は自治体をはじめとした事業所や電気を使用する需要家のところに太陽光発電や蓄電池を入れていこうとする流れが進んでいくと言う。そのときに、電力の需要家のなかでうまく電気を使えるようにしていくことが本実証で目指す取り組みになる。

エネルギーマネジメントには、従来から太陽光発電と蓄電池が含まれるが、今回はEVの蓄電池をいっしょに活用することが特長のひとつになる。活用方法については、2021年10月29日に発表したソーラーフロンティア株式会社の国富工場での技術実証がベースになっている。

電力の最適制御にはさまざまな電力需要予測が必要になり、太陽光発電予測に加えてEV状態予測、また電気を販売しているため、JEPX(卸電力市場)の価格予測なども今回のEMSには含まれる。これらの予測技術については、日本ユニシスといっしょに取り組んでおり、サーバーも日本ユニシスが提供している。

なお、国富工場での技術実証には社用車を使ったが、EVの稼働予測が難しかったこともあり、今回の実証からはスマートドライブの車両管理システム「SmartDrive Fleet」を使っている。これによりEVが外出しているのか停車しているのかの予測ができ、いつ充電するのかといった充放電計画が立てられる。

年間で最大電力需要量が、電気の基本料金になるため、EVの充放電と庁舎の電力需要を管理して電力需要量を下げるようピークカットしていると出光興産の木谷氏は話す。

国富町役場の財政課管財契約係の主管兼係長の日髙英樹氏(左)と主事の日髙佑輔氏(右)国富町役場の財政課管財契約係の主管兼係長の日髙英樹氏(左)と主事の日髙佑輔氏(右)

エネルギーマネジメントの未来

2021年末に、庁舎の蛍光灯をすべてLEDに替えたところだと国富町役場の日高氏は話す。今回の実証実験とは直接関わらないが、国富町役場では「人と環境にやさしいまちづくり」として自然エネルギーの普及に取り組んでいる。また、今回の実証で使用する蓄電池やV2Hなどの充放電機器は、災害時などで停電が起きた場合でもBCP対策として災害対策本部などに電気を供給できる仕組みになっていると言う。

電気料金そのものがそれほど高価なものではない現代において、その管理による費用対効果はまだ見えにくいといった課題もある。今回の実証では、ピークカット前の最大電力量とピークカット後の最大電力量とを比較して効果を検証していくと言う。

日頃パソコンやスマホなどで生活している我々にとって、電力は今後ますます必要になってくる存在だ。自動車もEVが普及してくれば、移動に使う電力も増えていくことが容易に予想できる。今回の実証実験は、電力の需要家としては大掛かりなものに見えるが、今後のエネルギーマネジメントをエリアや建物、または世帯単位で考えるうえでは必要不可欠なステップとみることができる。将来、庁舎だけではなく、町全体の電力にも活用していく仕組みになることを期待する。

■MaaS 3つ星評価
エリアの大きさ★☆☆
実証実験の浸透★★☆
利用者の評価★★☆
事業者の関わり★★★
将来性★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長

グラフィックデザイナー出身。
2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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