【川崎大輔の流通大陸】アセアンからの外国人自動車整備エンジニア その11

滋賀トヨペット、トゥアン君
  • 滋賀トヨペット、トゥアン君
  • 滋賀トヨペット、ドン君
  • 滋賀トヨペット、ドン君
  • メルセデスベンツ麻生・太田、グルン氏(ネパール)、左:トラン氏(ベトナム)

◆新車ディーラーも積極的に外国人採用スタート

滋賀トヨペット株式会社(山中隆太郎社長、滋賀県大津市)では、7名のベトナム人の自動車整備エンジニアが働く。採用理由は、新車ディーラーであっても自動車整備専門学校からの新卒採用が年々難しくなってきたためだ。総務部長である小澤氏は、「そういった最中、ACCという信頼出来るエージェントにお出会い出来たから採用が早期に実現できた」と語る。

初めて面接時に接した彼らベトナム人の印象は「悪くはないが、就労後、これが吉と出るか否かの不安はありました。当社に馴染めるかどうか、そして社内での受け入れ態勢が整えられるかどうか不安でした。しかし、問題なく就労できています。基本的に真面目で、周囲の人間とトラブルを起こすようなことはありません。就労姿勢に積極性があり、日本に馴染もうとする前向きな思いが感じられます。これからも継続して採用していけると思います。彼らが頑張ることで、日本人社員への刺激になることを期待しています」と話す。

外国人整備人材の雇用で気をつける最も重要なポイントは、区別や差別しないようにすることだ。つまり、外国人であっても甘えられない。受入企業は、日本人と同等の能力を発揮してもらうことを希望していることは間違いない。

小澤氏は「先ず整備の知識や技術については高度化する内容に適応できるよう、社内研修の機会を与えています。整備士は工場内での整備作業だけでなく、接客、特にお客様のご要望の聞き取り、整備内容や料金の説明等、お客様と接し、安心して愛車を運転いただくといったCSの最先端業務を担っています。一人の社員としてご理解いただけるような能力を身に付けてもらうことを目指しています」と語る。滋賀トヨペットにおける外国人活用は、新車ディーラー全体における一つの成功事例となっていくのではないだろうか。

滋賀トヨペット、ドン君滋賀トヨペット、ドン君

◆外国人の受け入れ体制は「ブラザー制度」

一般的に外国人の受け入れに成功している会社は、外国人の受け入れ体制を整えている。滋賀トヨペットでは、新人のための「ブラザー制度」がある。先輩格の社員を専らの指導員として指名して一緒に業務を教えていく制度だ。それを外国人にも同様に適用している。

「特に今回はベトナム人エンジニアたちに、能力の高い日本人社員を付けて、仕事上を始め、日常生活を含めた相談役として位置付けた制度をとりました。主はOJT教育で、日常業務の中で仕事はもちろん、業界の文化習慣などを体得させます」(小澤氏)。更に「専門用語(応接、技術用語)を始めとするコミュニケーション能力は日常業務の中で学んでいくのが一番と考えています。そのため日々積極的に人前へ出すよう指導しています。また日本語の『文字練習帳』を渡して毎日訓練をしています」と語る。

日本人整備士の確保が難しくなったと言われているが、実態はマインドの低さ含め、新卒の質の低下の方が課題だ。「すぐ辞める」、「根気がない」、「意欲がない」という若者へ評価が少なくない。小澤氏は、「外国人採用は、こういった状況打開の切り札だと考える。言葉の壁、生活感の違い等、色々と難関はあるが、どちらかと言えば受け入れる日本人の方に問題があるのであって、開放的に、理解をもって受け入れれば、それほど大きな問題とは思いません。積極的な育成を行えば、必ず陽は差してくると信じています」と語る。

◆輸入車ディーラーにも広がるアセアン出身外国人整備人材

メルセデスベンツ麻布・大田を運営する鈴木自動車株式会社(吉田満社長、東京都港区)では、4名の外国人エンジニアが働いている。国籍もバラバラで韓国人、ネパール人、ベトナム人、インド人(派遣)だ。

自動車業界は閉鎖的な業界で、他業界に比べて外国人活用は遅れていた。そのため2019年頃まで、日系新車ディーラーでも外国人を活用しているところは少なかった。国内で自動車整備人材の不足が深刻化する中、外国人の雇用を検討する中小企業が出てきた。

2016年4月1日より外国人技能実習生制度において「自動車整備」が職種に追加された。これによって外国人技能実習生が自動車整備の研修生として日本企業で働くことができるようになり中小企業を中心に活用が始まった。現在、ベトナムやフィリピン、カンボジアなどから20代の若い人材が日本全国の整備人材として働いている。2017年11月の技能実習法の施行によって、3年だった研修期間が最長5年間へ延長された。更に2019年4月に新しい在留資格である特定技能もスタート。自動車整備人材不足をカバーするための「労働力」として外国人活用の土台が整った。

日本の外国人受け入れ政策の拡大により、中小企業を中心に外国人整備人材の受け入れが徐々に始まった。一方で、新卒人材が採用できるような新車ディーラーを運営する大手企業は、外国人活用が遅れていた。しかし、特定技能が始まった2019年半ばあたりから、新車ディーラーにおいても外国人の活用が注目されてきた。

メルセデスベンツ大田のGMである鈴木氏は「初めての外国人を採用するのは少し勇気が入りました。しかし、初めて採用した外国人は日本語も問題なく、整備の経験もありましたので受け入れしやすかったです」と語る。現在では、外国人だからと特別扱いもしない社風ができている。輸入車ディーラーにおいても外国人活用が広がっている。

メルセデスベンツ麻生・太田、グルン氏(ネパール)、左:トラン氏(ベトナム)メルセデスベンツ麻生・太田、グルン氏(ネパール)、左:トラン氏(ベトナム)

◆特別なこともなく、制限もない、外国人の対応

「メルセデスという車種を扱う中で、外国人に抵抗があるお客様が一定数いるかもしれないという不安もありました」(鈴木氏)。メルセデスベンツ麻布総務部マネージャーの山田氏は「選考する上で、考えたのは、日本語でのコミュニケーション能力と、今までの実務経験でした」。更に「外国人採用の基準を事前に明確に持っておく必要があります。それを持っていれば、外国人の採用を怖がる必要はないと思います。それに外国人の意識は非常に高いですしすぐ技術を吸収していきます」と語る。

メルセデス麻布・大田では、採用後の整備のトレーニングとして、メルセデス指定の教育を各自のレベルに合わせて行って専門的な技術を学んでいる。実際の作業は3カ月間を目処に、日本人の先輩エンジニアとのOJTを行っている。「外国人だからという特別なことはなく、制限もしていません。たまたま全員既婚者ということもありますが、日本人と同様で生活に関してもタッチはしていません」(山田氏)。

新車ディーラーだけでなく、輸入車ディーラーでも外国人の活用がスタートし始めた。コロナの感染を抑止し、経済の再生を図っていく中で、優秀な外国人の働き手の確保は欠かせない。外国人を単なる安い人手ではなく、長期的な戦力として共存共栄の道を考えていくことが重要だ。このタイミングに外国人活用を行い外国人が活躍できるような社内体制を整えられるかどうか。これは、将来の企業の生き残りを左右することになろう。

<川崎大輔 プロフィール>

大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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