【日産 ノート 新型】共通プラットフォームは車をつまらなくする?…CMF-Bに見る戦略

日産ノート新型
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新型日産『ノート』はCMF-Bと呼ばれるルノーとの共同開発プラットフォームを利用している。OEMをまたいだ共通プラットフォームの場合、専門家や自動車ファンが気になるのは、みんな同じクルマになってしまうのでは?という点かもしれない。

共通プラットフォーム戦略での差別化

日産自動車が新型ノートの発表に際して、開発エンジニアによる技術説明会を開催した。その内容から、これからプラットフォームを共有したモデルがどうなっていくのか考えてみたい。

国内においてプラットフォームの共通化、統一化は、おもにグローバルモデルでの開発効率やコストダウンの視点で語られることが多い。あるいは、モジュール化・モデル開発という側面からも説明される。

しかし、その一方で世界に目を向けてみると、プラットフォームはOEMを越えた議論の対象となっている。日産・ルノー・三菱はアライアンスでプラットフォームを統一する。フォルクスワーゲンもグループでプラットフォームの共有化を進めている。ホンダはGMとエンジンやEVについて同様な動きを見せている。トヨタはTHS2の外部供給を、EVについてはスバルと共同開発している。

ステランティスの動きが一番象徴的かもしれない。プジョー、シトロエン、フィアット、クライスラー、ジープ他のPSA、FCA連合は統一ブランド(ステランティス)の元、新車をCMPプラットフォームのモデルに移行しつつある。国内市場だけ見ても独立系のメーカーは限られており、トヨタ、ホンダ、日産の3勢力に分けることができる。乱暴に言えば、ホンダ、日産以外は軽自動車も含めトヨタ陣営と見なすことができる。

全体工数では6:4で開発メーカー

このような状況で、各社(ブランド)はどのようにオリジナリティを出していくのだろうか。

日産の新型ノートは、CMF-BというBセグメント向けのプラットフォームを利用している。CMF-Bの車両は、設計リーダーはルノーになり、フォロワーが日産という立場となる。基本設計はルノーが責任を負っているが、たとえば、ジオメトリや各部の性能や仕様は日産から提案するという。その過程で細かいやり取りは発生するが、最終的な仕様や要求に対する確認や調整は日産が行う。

設計担当者によれば、新型ノートの開発作業全体では日産6、ルノー4というようなおおまかな分担ではないかという。興味深いのはコストメリットはじつはそれほど重要ではないという点だ。プラットフォームや部品を共通化しても、製造工場や組み立て場所によっては輸送コストや手間がかかる状況も発生する。共通化すれば単純にコストダウンできるわけではない。共通プラットフォームや共同開発のねらいは、開発のスピードアップや効率化、ひいては全体の品質向上にある。

新型ノートの改良点

実際の新型ノートの機能はどうか。新型は新しい日産のロゴエンブレムとともにデザインも大きく進化しているが、性能面や機能面でも随所に改善、改良が加えられている。e-POWERのシステム、搭載バッテリー、モーター、エンジンに大きな変更はないが、各部の調整とソフトウェアの改良によって特性や性能が変わっている。発電用のエンジンも燃費と出力向上が図られている。

モーターは、前モデルのモーターの流用だが、磁気回路の変更と磁石の形状変更などで10%ほどトルクが向上している。なお、4WDモデルについては、リアに搭載されるモーターが大幅にパワーアップしている。形状が大きくなるため、リアマウントのためのメンバーが追加され、2点支持から3点支持になっている。リアバンパー部分にはレインフォースが追加され剛性と強度を確保している。

インバーターも大きく変わっている。小型軽量のためモーターと一体型とされた。同じがそれ以上の性能を確保しながら、サイズが40%ほど小さくなり、重量も33%ほど軽量化されている。ポイントはパワーモジュール、そのドライバ、制御基板といったインバーターの構成基板をハーネスでつなぐのではなく一体設計とした。基板配置や接続コネクタを工夫することで、発電機、モーターとの距離も短くしている。一体化は、消費電力、耐ノイズ性能にもメリットがある。

e-POWERの設計思想はEV

今回、走行時の騒音とエンジンによる振動などを抑えるため、e-POWERの制御方針を変えている。旧型ではなるべく電池の消耗を抑える制御をしていたが、制御ノウハウがたまり、電池はなるべく使い切る方向に制御を切り替えた。タイヤの回転(角速度)から路面状況(=ノイズ)を判定してエンジンの稼働(発電)を制御している。

設計チームにリーフを担当した者も多くいるといい、新型ノートは「ハイブリッド車」というよりEVとしての設計方針が適用されている。充電部分が発電機の制御になっているが、トルク制御や回生ブレーキ制御などはリーフで重ねてきた技術、ノウハウがふんだんに投入されている。

ソフトウェアは、CAN(車載ネットワーク)レベルのECUやセンサーなど、日産では「BIOS」(OSにもっとも基本的な入出力インターフェイスを提供するコンポーネント)と呼んでいるレイヤは従来どおりのサプライヤーからの調達がメインになるが、VCM(ビークルコントロールモジュール)は100%内製とし、そのソフトウェアもモデル設計による内製化が進んでいる。

新車開発の本質部分はソフトウェアにシフトしている

逆にいえば、このような設計方針でなければリーフのノウハウをノートに展開することも難しかったはずだ。実際、チームでは、プラットフォームの骨格がよかったこともあり、新型ノートの設計や製品に手応えを感じている。ノートのシステムはHR12以外のエンジンへの適用やアライアンス内のグローバル展開も視野に入っているそうだ。

新型ノートは、旧型や他の少し前のコンパクトカーと比べると、走行性能が上がっていること実感できると思う。しかし、スペックだけ見ると、サスペンションや各部の設計変更などハードウェアのリファインが行われているものの、モーターやバッテリー、エンジンそのものは流用だ(4WDのリアモーターはのぞく)。古い価値観では、手抜きのモデルチェンジと言われそうだが、CASE車両においては当てはまらない。

走行性能やフィーリングのチューニングの大半がソフトウェアによって可能だからだ。これは日産に限った話ではない。もちろん、ハードウェアの基本的な性能や品質が大前提ではあるが、そこだけ評価してもそのクルマの真価はわからない。

仮に同じプラットフォームを使い、同じエンジン(モーター・バッテリー)を載せていても、今回の新型ノートのようにジオメトリや各部の詳細仕様、そしてソフトウェアによって、クルマの個性や性能はいかようにもできる。「共通プラットフォームではどのクルマも同じになる」は、少なくともこれからのCASE車両については当てはまらない。

《中尾真二》

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