人と地域の移動課題を解決する複合経路検索エンジン“mixway”の開発思想を探る

人と地域の移動課題を解決する複合経路検索エンジン“mixway”の開発思想を探る
  • 人と地域の移動課題を解決する複合経路検索エンジン“mixway”の開発思想を探る
  • 経路検索にサイクルスポットが加わる事で今までの経路とは大きく変わる事も増えている
  • 都心ではかなり一般化してきたサイクルスポット
  • 電動アシスト付き自転車での移動は移動の効率を高めてくれる
  • 普及が進んでいるサイクルスポット。今では特別な物では無く人々の生活に馴染んできている
  • ヴァル研究所 山口憶人氏(左)/飯田裕子氏(中)/ヴァル研究所 熊野壮真氏(右)
  • 付加価値を付ける経路検索に強い興味を持つ飯田裕子氏
  • システム開発の観点から様々な利便性を生み出している興味深い話が聞けた

これからこの記事を読んでくださろうとしている皆さんの“移動手段”は何ですか? これは住む環境や移動目的などが違えば方法や選択肢も変わるでしょう。

免許は持っていますか? 例えば北海道観光はレンタカーがあると便利だけど、運転免許を持たない方にとっては自由な移動が今はなかなか叶わず、残念な思いをすることも少なくないといいます。免許返納をしたあとの“個人の移動”に不安をもつ高齢者の方も少なくないのではないでしょうか。

人々の生活に合わせた移動方法の提案
多様化したニーズに対応できる複合経路検索エンジン

経路検索にサイクルスポットが加わる事で今までの経路とは大きく変わる事も増えている

様々な生活環境や利用目的に合わせ、新しい移動方法の提案やそのためのシステム開発を行う会社が、今回ご紹介するヴァル研究所です。“MaaS”時代に突入したいま、人々の移動がより柔軟なものになろうとしているのは間違いなく、新型コロナウイルスの感染拡大を機にこれまでと異なる移動手段を考える人たちも少なくないことでしょう。

都心ではかなり一般化してきたサイクルスポット

最近、経路探索アプリでシェアサイクルも移動手段の一つとして提案されることはご存知ですか? またこれまでは明日の移動を考えて移動検索をする方が多かったのに対し、今から乗ろう、20分後に乗ろうという検索から利用までのスパンが短くなっているという話も聞きます。移動に対するニーズもまさに多様化しているのです。

ヴァル研究所は経路検索を中心に色々なシステムを有するソフトウエア開発企業で、代表的な製品に『駅すぱあと』があり、すでに30年以上の実績があるそうです。『駅すぱあと』は鉄道やバス、船、飛行機などの公共交通手段を組み合わせた経路検索ソフトであり、国内で最も利用者が多いYahoo!JAPAN路線検索の裏側も支えているエンジンなので、実は普段から気づかずに利用しているという方も多いと思います。また、官公庁や会社での旅費・交通費・通勤費精算に『駅すぱあと』は数多く利用されていて、そのために特に運賃計算部分については徹底的にこだわっているということです。

電動アシスト付き自転車での移動は移動の効率を高めてくれる

さらに近年は様々な交通手段間を埋める移動手段として、またラスト/ファーストワンマイルと言われる公共の乗り物を利用する前、もしくは乗り物から降りた後の新たな手段として、例えばシェアサイクルやオンデマンド交通なども活用した新たな取り組みが始まっています。ヴァル研究所は、2年前に様々な移動手段をミックスさせた複合経路検索システム『mixway』を開発し、一般ユーザーに複合経路検索案内サービス『mixway』(以下、『mixway web』と称する。)として提供を開始しました。また、昨年から様々なアプリやwebサービス内での複合経路検索エンジンとして『mixway API』をスタートさせています。

ナビゲーション開発部 API Platform Teamの熊野壮真氏

『mixway』も駅すぱあとのファミリーであり、それまでの公共交通にシェアサイクルやオンデマンド交通などの新しいモビリティを仲間に入れたのが特徴とのこと。「公共交通でもないけれど自家用車でもないという曖昧なところにチャレンジしたくて生まれた」とナビゲーション開発部 API Platform Teamの熊野壮真さん。これはヴァル研究所にとってMaaSへの取り組みの”始まり“にまだ過ぎないようです。

MaaS Projectスペシャリストの山口憶人氏

「世界と日本ではもちろん、国内でも都会と地方ではMaaSに求められるものは異なると思います。各エリアで観光、老齢化、商店街の活性化など困り事はそれぞれ。じゃあ、MaaSって何? その答えをそれぞれに置かれている状況や立場を我々も理解しながら一緒に考えましょう。というのが我々のスタンスです」、とMaaS Projectスペシャリストの山口憶人さん。

ヴァル研究所はどちらかといえば、B to CよりB to B、もしくはB to B to C のビジネススタイルが多く、あまり同社の社名やシステム名を目にする機会は多くない。近年社内に発足されたMaaS Projectチームは企画、プロデュース、プログラミング、メンテナンス、サポートセンター(利用者からの問い合わせ)まで、専任スタッフによってMaaSを全体で支える取り組みをしているとのこと。なぜサポートセンターまで用意されるのかと思ったら『駅すぱあと』を30年間やっているので実はその延長上になるそう。鉄道事業者だったら観光地の活性化、沿線住民への魅力向上への取り組み。また地方自治体によってそれぞれ悩みが違う中、それを一緒に話し合って、様々な業者とも連携し、技術部隊がアプリケーションを作ったり、予約・決済のシステムを組み合わせるというイメージであるとのことです。

経路検索に付加価値を付ける事で
新たな人の流れを構築出来るという試み

付加価値を付ける経路検索に強い興味を持つ飯田裕子氏

例えば「アレもヴァル研究所のお仕事だったのか」と今回知ったのが、昨年から小田急電鉄が取り組んでいるスマートフォンアプリ『EMot(エモット)』。デジタル箱根フリーパスなどの各種フリーパスチケットが購入できるだけでなく、様々なサービスの提案/実証実験が行われていることでも注目が集まっている。モビリティ検索には『mixway API』を活用し、公共交通機関に加え、タクシーやシェアサイクルなどを含む複合経路検索が可能。さらに飲食のフード・サブスクリプションモデルが採用されており、例えばおにぎりとかお蕎麦とかパンなどを、一日一回一定の金額分まで、新宿駅か新百合ヶ丘駅いずれかの指定店舗で購入できるチケットも揃っている。「電車に乗るだけでなくご飯も食べられるアプリケーションはサラリーマンの通勤利用を意識していたのですが、蓋を開けてみたら塾通いの学生さんたちに利用されていたり、実際やってみることで新しいものが見えてきます」と山口さん。ほかにも新百合ヶ丘駅のエルミロードで2,500円以上買い物をすると特定区間に乗車できる2回分のバスのチケットが無料でもらえる。これは近隣の住民の方へ「バスでまた来てください」の意味を込めて帰りの分と次回店舗に足を運ぶ“来る分”のチケットがプレゼントされるという試みだったそうです。「交通を利用するうえにどんなサービスを持ってくるかというところで、本当に色々なご支援をさせていただいていることにワクワクします」という山口さんのお話をうかがっていて、こちらも頬が緩んでしまう。

ヴァル研究所は地域の問題に対して提案、実行までを懸案ごとに一緒に考えていくスタイルだという

単なる経路検索の柔軟さだけでなくMaaSの可能性をリアルに感じられたエピソードでした。一方で地方に目を向けると人口減少による交通インフラの脆弱化が問題視されていることはご存知の方も多いでしょう。免許を持っていないという熊野さんは「クルマを持っていないという方、免許を返納した高齢者の方、そのほか何らかの理由で運転ができない方などユニバーサルな視点で“移動”を見る必要がある」とおっしゃっていました。実は冒頭の北海道観光でレンタカーを使えず、不便な思いをした・・・というお話は彼のリアルな体験談なのだったのです。

大きな転機となるオンデマンド交通への対応
より柔軟にニーズを満たすシステム開発を目指す

システム開発の観点から様々な利便性を生み出している興味深い話が聞けた

シェアサイクルから始めたMaaSへの取り組みもこの2年で変化が見えはじめ、とりわけオンデマンド交通が大きな転機になっているという。最近注目されているオンデマンド交通を含むMaaSの実証実験には静岡県伊豆半島で行われた『Izuko(イズコ)』や、三重県伊勢志摩エリアで行われた『ぶらりすと』があるが、これらにもヴァル研究所が関わっていました。これらの実証実験に対し、経路検索機能を提供することを通じて、既存の公共交通がある地域でも、オンデマンド交通という「曖昧な乗り物」が効果を発揮する場面があることを知ったとおっしゃっています。このような取り組みは国土交通省や経済産業省、内閣府などの国、地方自治体の“新しい取組を熱心に支持いただける方”によって支援されているものがいまも沢山動いているらしい。「特に地方では経営の厳しい交通事業者さんも多く、ギリギリで路線を支えていらっしゃる。これまでの、人が乗り物に合わせるのではなく、"乗り物が人に合わせる"といった変化が起こると思います。そこにはITは必要になってくるし、情報や技術をもっているところと共に柔軟にニーズに適したシステムを開発/提供していきたい」と熊野さん。

そんな熊野さんいわく、『mixway』では経路案内はもちろん、今後力を入れてやっていくべきは経路(手段)提案とパーソナライズだという。「シェアサイクルは都内でも大分見るようになったと思いますが、その活用はまだまだであると感じます。例えば不動産の広告に駅やバス停まで徒歩何分とは書いてあっても、シェアサイクルポートあります、と書いて利便性をアピールする場面はまだまだ多くないと思います。ところが駅から徒歩20~30分もかかるから家賃が安い、という物件でもシェアサイクルポートがある場所がけっこうあるんです。そんなケースでシェアサイクルやオンデマンド交通を提案できれば、新たなライフスタイルの付加価値にも繋がりますよね」と熊野さん。

あらゆるモビリティに対応する「mixway API」はこちら

今後も進化を続ける経路検索
新たな移動手段も積極的に情報収集を行う

新たな移動手段の提案については、山口さんも実際にフィンランドで体験し利便性を感じたというキックボードも採り入れたいが、まだまだ安易には勧められないと残念そう。交通文化の違いが大きいのだと言う。「日本独自の手段が出てくる可能性もある。例えば老人向けの電動シニアカーなども日本文化の一つ。限定的な場所で近年進化を遂げている車椅子の活用もしかり。我々だけで考えずにぜひ皆さんと考えさせていただきたいと思っています。答えとなる選択肢はいっぱいあって、地方によって違って、それを一緒に作り上げていきたい」と山口さん。

リアルタイム検索やパーソナライズ検索もこれからの重要なキーワード。2020年1月に実施した『立川おでかけアプリ』では、電車やバスのリアルタイムな運行情報を反映した経路検索機能を提供しました。早い、安い、楽といった選択肢以外に、利用者一人一人の嗜好や特性に合わせた検索結果を出すといったパーソナライズも重要視して、いろいろと取り組んでいるようです。さらに今後移動の指向にAIが入ってくるとパーソナライズがより活きてくることでしょう。

ヴァル研究所 山口憶人氏(左)/飯田裕子氏(中)/ヴァル研究所 熊野壮真氏(右)

今後、ヴァル研究所の社名や『mixway』の名称も、あまり表には出てはこないのかもしれないと感じた。同社は"裏方主義"と"共創主義"をを大事にしているそうで、今回お話をうかがっていて、"人々の移動"に対する想いはとても熱心に語ってくださったのに自社顕示欲は控えめに映った。彼らの“人々の移動”をみんなで繋いで創りあげ、支えたいという意識が余計にコントラストとなって浮かび上がって見えてきたのが印象的でした。

ヴァル研究所では、国土交通省と株式会社博報堂と一緒に、6月29日に無料ウェブセミナーを開催するそうです。今後さらに様々な可能性を探る上でも参加してみてはいかがでしょう。私も当日話をうかがってみたいと思っています。

お申し込みは6/26(金)午前12時まで!6/29(月)開催の無料ウェブセミナー詳細はこちら

《飯田裕子》

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