ルノー カングー…日本発のアイディアがグローバル展開にも[インタビュー]

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ルノー・カングー
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ルノー・ジャポンにおける、販売の大きな柱のひとつである『カングー』。本国では商用車として活躍しているが、日本では家族でのキャンプから近所のお使い、さらにはワンメイクでのイベントとしては最大級のカングージャンボリーも開催されるなど、人気の高いクルマだ。そこで、カングーの商品責任者が来日したのを機に、本国から見た日本市場や使用実態の印象について話を聞いた。

◇日本での成功はバリエーションの多彩さ

----:本国では商用車として開発されたカングーですが、日本では乗用ユースとして使われています。オーナーはキャンプに出掛けたり、あるいは自分たちの手で内外装に手を加えたりなど、様々な楽しみ方で乗っています。このように日本で人気のあるカングーですが、本国から見て、どのように感じますか。

ルノーLCV(小型商用車)プログラムダイレクターのフィリップ・カイエット氏(以下敬称略):正直にいって年間17万台販売している中の2000台なので‥‥(笑)。

この日本市場の成功はダイバーシティの影響が大きいと思います。トランスミッションは2つ持っていますし、多彩なカラーもあります。日本からは様々なものが要求されますので、我々としてはこれを受け止めて、どのようにして効率的に工場で作っていくか、あるいはサプライヤーに作ってもらうかが一番難しいところですね。

我々の目からは、日本は台数がもっと伸びることを予測しています。そのために小さなボリュームであっても開発をしていかなければいけないので、そのバランスが難しいところです。

----:当初はそういった開発にかなり苦労したと聞いていますがいかがですか。

カイエット:はい、最初はとても苦労しました。というのはプロセスがなかったのでどうやって進めていけばいいのか、どうやって数十台だけのために生産をすればいいのかが手探りだったのです。

しかし今はもうわかりました。プロセスも理解し、どこの工場のどこの部署に話をすれば日本専用のために少量でも作れるかということがわかるようになりました。小さなボリュームのために、しかも短い期間でクルマを作らなければいけない、そのためのネットワーク作りは絶対に必要なことでした。

◇乗用VS商用

----:本国と日本でのカングーの使用実態は全く違いますね。この点について本国の商品企画としてはどのように捉えているのでしょうか。

カイエット:大きな違いは、日本では100%乗用車であるのに対し、ヨーロッパでは7割が商用車であるということです。

日本ではフレンチタッチをメインに押し出し、ルノーが最初に考えたル・ドスパス、遊びの空間としてカングーは日本で販売して来ました。実は当初、フランスでもこのような戦略はあったのですが、現行カングーになって全くなくなりました。つまり、ユーザー層が全く違うのです。

フレンチタッチであること、遊びの空間であることなどまさにライフスタイルに溶け込むような戦略は日本だけであって、ヨーロッパではもっと実用的な使い方が圧倒的です。そこが大きく違っています。

----:そこまで差があるのですね。そうするとフランスから見た日本市場はすごく不思議な世界に見えますね。なぜ日本でカングーは成功していると思いますか。

カイエット:フランスから見ると結構難しい市場です。日本人であれば、そして日本にいればもっとわかりやすいのでしょうね。

目で見た感じでわかるのはフレンチタッチやフランスの文化を感じるようなクルマということが成功要因ではないでしょうか。日本でカングーを見ているとその多くにフランスの国旗などが見られますね。しかし、フランスではまず見ることはないのです。そういったフランスの文化、フレンチタッチがカングーのユニークなところとして感じてもらえているのでしょう。

あとは、広い室内空間などをもとに手軽に簡単にどこにでも行けるようなクルマという基本的な特性があるでしょう。また乗ったらどこかに行きたくなるようなクルマだとも思いますので、そういった点が日本で成功している要因だと思っています。

もうひとつ以前に比べてルノーがグローバル化したこともあるでしょう。リージョンごとの専用車、例えば日本専用モデルが受け入れられるようになってきたのです。ルノーはフランスだけではなくヨーロッパを超え、世界中に売らなければいけません。そのためにどうやって効率的に工場をはじめ、多くの関係者のマインドを良くしながら開発し、日本やその他の国に適用させていくか。これは大きなチャレンジな部分でした。そこでキーになるのが、台数に見合ったビジネスが出来るかどうかです。

それから、カングー独特の他の車種にはない特徴を挙げるならば、他の車種のようにいくつもの工場で作っているのではなく、モブージュ工場でしか作っていないということです。その結果、ダイバーシティの管理をしやすくなっています。引き続き日本専用の部分、台数は見合っていなくても上手く出来るようにしていきます。これは我々の使命でもあるのです。

そういった点で実は結果も出て来ています。日本での限定車などの情報から、他の国もその機会を捉えるようになったのです。最近は日本のために作る計画をグローバルにも展開し、台数を募ることが出来るようになりました。

◇日本発のカングー

----:具体的に他の国に提供したクルマはありますか。

カイエット:実は結構あるのですよ。一番大きく、また一番インパクトがあったのがデュアルクラッチです。今まで我々は1.6リットルの4速ATと、1.2リットルターボ6速マニュアルミッションがありましたので、それを先に日本に導入し、その後デュアルクラッチに切り替えました。このデュアルクラッチの開発は日本のリクエストだったのです。この仕様はのちにヨーロッパにも投入しました。その結果、ヨーロッパでAT比率がほぼ0%だったものが10%に増えたのです。

また、右ハンドルも同様です。イギリスにも右ハンドルはありますが日本仕様とは全く違うクルマで商用車寄りの仕様です。乗用車専用の右ハンドルは日本からリクエストが出て開発し、その後オーストラリアや他の国に出すことが出来るようになりました。

カラーも同様ですね。日本仕様として開発したカラーをまず日本で発売し、その後他の国に情報展開し、導入する機会を作っていっています。

もうひとつ日本で行っている企画として興味深いのはコラボレーションが挙げられます。例えばピエール・エルメ・パリや、ラ・タント・イレーズなどのコラボ企画の限定車を出していますが、こういったコラボレーションはフレンチタッチを強調しており大いに評価出来ます。当然のことながらフランスで、フレンチタッチはあまり合いませんが、他の国であればこのフレンチタッチは使えますので、こういったアイディアを希望する国に提案することが可能なのです。日本にはそういうアイディアがたくさんあります。

◇工場以外でこんなにたくさんのカングーを見たことがない

----:カングージャンボリーをご覧になったそうですが、その印象を教えてください。

カイエット:初めて見ましたが、すごく驚いています。こんなにたくさんのカングーは工場以外で見たことがありません、というよりも、工場だと早く出庫させたいので、ここまでたくさん見ることは出来ないかもしれません(笑)。

実際にイベントで感じて驚いたことは、カングーに対しての情熱です。カングーを持っているというプライドがすごく強いのです。

また、オーナー同士、お互いに見せ合ったり、他の人は何をやっているかというコミュニケーションを取り合うことがカングーらしいと思いました。実は、この傾向は日本だけではないのです。カングーはブランド化しており、日本ではカングーを持つということがポイントで、ルノーのカングーを持つということよりも重きがあるようです。これは日本に限らずアジア地域でのオーナーからも感じられることです。ヨーロッパでもカングーを買っている、カングーを持っているというプライドがオーナーにはあります。

----:つまり、ルノーを所有するということよりも、カングーを所有するということに重きを置かれているということですね。そのことは商用車であっても変わらないのでしょうか。

カイエット:実は商用車の方がその傾向が強いのです。99%のユーザーがもう一度カングーを買っています。その理由はカングーという名前、そして商用車としての信頼性が非常に高いことが挙げられます。これはもちろんクルマが持っている根本的なDNAもあるのですが、さらに欧州のみですがPro+というネットワークサービスがあります。これはメンテナンスなどを含めてユーザーとの関係性が非常に高いもので、これらが合わさることで、カングーがブランド化した理由になっています。

2010年にカングーは10万台販売していましたが、現在は17万台と毎年5%から10%増えています。こんなに長いライフサイクルを持っているクルマはありません。普通の乗用車は2から3年で台数は落ちてくるのですが、カングーだけは今になってもまだ右肩上がりで、これは日本だけではないのです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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