【WTCC】悪条件乗り越え完走、ホンダ・道上に聞くレースの難しさ…密着レポ[後編]

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道上龍選手
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WTCC(世界ツーリングカー選手権)にホンダのワークスドライバーとして参戦している道上龍選手を追って訪れたマカオ、2日目。

夜が明けると、マカオの街は低い雲に覆われ、視界は雨でかすんでみえる。遠くを眺めてみると、路面は黒く塗れている。バスが行きかうたびに水煙が左右に跳ね上がり、車線は縦に伸びるわだちが4本の川のようだ。南国ならではのスコールのように晴れ間を期待するが、しとしと降る雨は雲の流れも遅く、なかなか止む気配がない。今日一日は寒い雨が続きそうだ。

コースにはすでにレーシングサウンドが響き渡っていた。私が日本のスーパー耐久レースで戦った三菱『ランサーエボリューションIX』が当時のカラーリングを残して走っている。ライバルであった『インプレッサ』を始め、日本で活躍していたマシンが雨のなか横一線に並ぶなど激しいレースを行っている。4WDにとっては、うってつけのシチュエーションに違いないが、そんなマシンをもってしても姿勢が乱れ気味。レーシングコースも縦に伸びるわだちが、いく筋もの川を作り足元がとられてしまっている。雨が強くなるとストレートでさえ数台スピンしてしまって、レースは赤旗で終了。今日のレースは荒れそうだ。

WTCCのスタートに合わせてグリッドに足を運んでみると、タイヤは路面から離れている状態で、タイヤウォーマーがかけられている。どのマシンもスタート進行に合わせて、その時を静かに待っていた。道上選手のポジションからはコントロールブリッジが、正面の低い位置に見えてるはずだ。そこから上位6台が交互に並ぶ。その中には昨日のレースでボディにダメージを受けた、ホンダワークスのチームメイト2台もある。FIA・GTレースを走る『NSX』も多重クラッシュに巻き込まれたことから、ガレージでは3台の修復が課せられたはずだが、そのすべてがひと晩で原型を取り戻していた。

ホンダチームで唯一無傷の道上選手のコンディションはきっと悪くないはずだ。7番目のポジションも、トップの混乱を冷静に見極められる位置にあるし、後方ほど水煙の影響も受けにくいと思われる。昨日の勢いと慎重さを持っていれば好結果が期待できそうだ。

◆すべてはドライバーの腕次第

スタートは2周のセーフティーカーの先導走行によるローリングスタート。我々はスタートラインに目が届く最終コーナーでその時を待った。道上龍手はトップグループの集団からわずかに間合いをとっているのか、水煙が少し落ち着いた位置で最終コーナー手前から一気に加速体制に移る。前方視界がクリアな半面、自ら作る水煙の後ろにはポイント争いを行っている2台のボルボを含めて4台が連なり、前車にノーズを接近させた縦一列の状況でスタートラインに向け一気に速度を増していく。

道上選手は1周目の最終コーナーでは滑りやすい状況にも関わらず、トップグループ同様にアウトに少しだけラインを残しながら全開で最終コーナーを立ち上がっていく。入口側で出口の姿勢を眺めていると、出口外側のにあるスポンジにテールエンドが隠れ、一瞬アウトの壁に接触しているかのようにも見える。しかも全開でアウトの壁ギリギリのラインを取っている中、不思議にいつもヒューゥンとエンジン音が一段と大きくなる。

道上選手に聞くと「WTCCのマシンは電子制御なし。すべてはドライバーの腕でカバーしないといけないから大変なんです。今日みたいに、特に滑りやすい状況だとフロントがストレートでさえ、すぐに空転してしまうんです」という。最終コーナーでエンジンが急激に上昇する唸り音は、実は全開にした時の空転音だったのだ。そういえばトップ集団の中には、それを嫌ってかひとつ上のギアを使い、低い回転のまま立ち上がっていくマシンもいた。

かすむ視界の中、背後にライバルを従え、ストレートに向けて最高速を少しでも伸ばすためにいち早くアクセルペダルを踏み、壁にボディサイドから接触する不安と緊張感と戦いながら、尚且つタイヤの空転にも悩まされるのだ。一般道ならではのグリップの低さに加えて、ほこりと水に覆われたマカオの市街地コースは、想像をはるかに超える滑りやすさと怖さを持っているに違いない。

道上選手もその餌食になってしまったという。3周目に順位を落とした理由を聞いてみると「実はリスボアでオーバーランしてしまったのが原因だと思っている人も多いかもしれませんが、ホントはその手前の接触がすべての元なんです」と、スマートフォンでファンが撮っていた連続カットを見せてくれた。スタートライン直後の緩い左コーナー外側に接近する34号車。一見するといつものように攻めている状況と変わりない。

しかし、その後のカットはガードレールがボディに隠れて見えない。そして、リアが少し浮いているようにも見える。「この時はコースに跳ね返されて後ろのクルマとの接触をさせるためにガードレール側に少しステアリングを切っていた」ともいう。一瞬の出来事だけに普通に見ているだけでは気づかない。しかし、明らかにガードレールとボディサイドがわずかに接触して「少しの動揺が次のブレーキングの見極めを揺るがせしまった」らしい。その結果がみんなが見ているリスボアのオーバーランによる、順位ダウンだ。

その後、無事にゴールラインを切ってマカオでの戦いは終わった。落ち着いたころに話を聞いてみると「予想以上に滑りやすい。特に山側に入っていくとよく滑る。海側ではストレートでもラインが乱れる」。雨の速さには昔から定評があり、前戦のもてぎではテストから常にトップタイムをたたき出すほど、安定していた道上選手のコメントだけによほどのことなのだろう。

◆最悪のコンディションの中を完走

昨日同様リアウイングを寝かせたままのセッティングが雨に有っていなかった? の問いに「いやーっ、雨だからってリアは全然流れない! いつでもフロントのグリップをいかに上げるかがポイント。それに集中しているんだけど、それが決まっていてもフロントが滑る」と答える。とにかく400ps近いパワーをFFで走らせるのは相当に大変のようだ。

子供に勉強を教えるように丁寧に説明をしてくれる道上選手に「龍ちゃんの腕で何とかなるでしょう!?」というと「知っています? 瀬在さん。このマシンはトラクションコントロールが無いの。今日はほんとにほしかった。で、そのあとはブレーキングね。滑ってしまったでしょ。ABSもないの」。そのマシン操りながらこの滑りやすいマカオで世界の強豪と競り合っていたのだ。

前に行われていたレースでエボリューションIXがストレートでスピンしてしまうようなコース。FF400ps近いマシンながらも、電子制御は一切なし。さらに、容赦なく襲い掛かってくるライバル。その中で無事に走っているだけでも奇跡に近い。

スマートフォンで見せてくれた1コーナーでの接触だって、考えてみればわかる。緩く左に曲がっていくコーナーに合わせて右側いっぱいにマシンを持ってきて、そこから左に寄せ、再びアウトへとラインを取っていく。そのとき前後に流れる4本のわだちをまたいでいく。しかも、そこには水がありマシンは浮きやすい。速度も落とせないから加速状態。水に乗ればいやでもタイヤは空転。旋回中だから横に力が働き瞬時にアウトに飛んでしまう。何周にもわたってそのぎりぎりを見切りな攻めていたが、一瞬だけその滑り量が多かった。自然の怖さでもあるし、電子制御システムのないマシンの操縦の難しさだろう。

想像の域はでないが、このマシンを雨のマカオで操れるドライバーは限られているに違いない。そんな中で戦い、道上選手は前日に日本人初の3位となり、表彰台にあがり、最悪のコンディションの中、無傷で激しい戦いを切り抜けてゴールラインを切った。

お疲れ様! の声に「こんなマカオは信じられへん! レースできたのが不思議や!」といつもの元気を取り戻す一方、「こっちのマシンは電子デバイスがあってええなぁ」とNSX GT3を笑顔で指さした。もしかしたらシビックタイプRに変わり、来年はNSXでここを走る姿を思い描いているのか? 友人として来年も是非マカオで戦う道上選手の姿を見てみたい。FIA・GTワールドカップでアクシデントに巻き込まれるまで世界の強豪と伍して、8位を走っていたNSXの高いポテンシャルと、道上龍選手の世界で戦ってきた技術によって、表彰台に上る姿をぜひ実現してほしい。

<協力・ホンダ>
《瀬在仁志》

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