【岩貞るみこの人道車医】「道の駅」から始まる自動運転…必要な2つのニーズとは

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道の駅「にしかた」周辺は、田んぼが広がり、直線と交差点で構成されたルートを走る。
  • 道の駅「にしかた」周辺は、田んぼが広がり、直線と交差点で構成されたルートを走る。
  • 今回、道の駅「にしかた」で使われるDeNAのロボットシャトル
  • 運転席はなく、シートは向い合せに3席ずつ。
  • 電動でスロープが出てくるので、乗り降りや手押し車などが載せやすい
  • 非常停止ボタンも装備
  • 全国の道の駅で使われる車両は、4種類のなかから選ばれる。ヤマハ発動機製
  • アイサンテクノロジー製
  • 先進モビリティ製

【道】「道の駅」から始まる自動運転

自動運転は、クルマの機能に注目が集まるけれど、本気で実用化するなら、道とセットにしたほうが圧倒的に早くできる。専用道を設けたり、走れるエリアを限定したり。自動運転システムが認識しやすい標識や目印を、道に設けていくというのも、ひとつの方法である。自動運転のことだけを考えたらいっそのこと、町を全部、作り変えられたらいいのにと思うけれど、それじゃものすごく人工的で味気ない町になりそうだ。

実用化に向けて絶対的に必要なのは、「欲しい」というニーズである。これがなくてはクルマは買ってもらえないし、公共交通機関として導入するにしても理解は得られない。自動運転=わからない=怖い。特に日本人は、知らないものは怖くてイヤという傾向にあるから、まずは、見せて見せて見せまくり、さらに乗ってもらう努力は必要だろう。

そんななか、この9月、国交省道路局が道の駅を拠点にした自動運転サービスの実証実験をスタートさせた。同じ国交省でもこちらは道路局。旧建設省で、車両ではなく道路を扱う側である(車両を扱うのは旧運輸省の自動車局。そもそも国交省として一体になった時点で、セットにしないとダメって考えがあったわけで)。

この実証実験、ざっくり説明すると、道の駅のなかでも、特に生活の拠点になっている駅(近くに病院や公民館などがある)を使って、道路環境や社会受容性やコストや地域への効果などを探ろうというもの。全国でまず5か所を国交省で選び、さらに「こういうのをやりますけれど、どうですか?」と全国の地域に呼び掛けて応募してきたなかから8か所を選び、もうひとつさらにフィージビリティスタディ組(なんでもカタカナにするのは好きじゃないけれど、正式名称がそうなので仕方ない。つまりは机上で検討する組)を5か所選んで行おうというもの。9月2日(土)の午後、晴れやかに開始式が行われた栃木市の道の駅「にしかた」は、その第一弾というわけだ。

◆住民のニーズと自治体のニーズ

さて、前段で「欲しい」というニーズが必要と書いたけれど、ニーズには大きく分けると二つある。ひとつはもちろん住民のニーズ。もうひとつは自治体のニーズである。

「うちでもやりたい! 高齢者の足を自動運転で! そのためなら協力します!」と、職員が気合を入れて取り組んでくれることはとっても大切。一方、「あればいいけれど、いろいろ調整も必要そうだし、面倒だなー。このままでもいんじゃない?」とか思っちゃうような自治体だと、うまくいかない。地方都市のなかには映画の撮影場所を提供し、観光客を伸ばしているところがあるけれど、あれも自治体担当者の並々ならぬ熱意と行動力があってこそである。映画スタッフの、「道路を使いたい」「古い民家で撮影したい」「お寺で撮りたい」というリクエストをフルパワーでこなして、よい作品作りに協力しているからこそ、いい映画になり町も話題になるのであって、「えー、撮影場所くらい自分で探してよー」「許可とるの面倒なんだよねー」という態度では、ぜったいに魅力的な町には撮ってもらえない。自動運転も同じことがいえると思う。

この道の駅「にしかた」。開始式には、石井国土交通大臣や茂木内閣府特命大臣(経済再生担当)、国交省の政務官が二人が来場して挨拶をするという、絶対に成功させるぞ!という気合が伝わる布陣&内容だったのだが、そのあとにマイクを握った鈴木栃木市長の最初の一言に、私は正直、ずりこけた。

「なぜ、道の駅にしかたが選ばれたのか、わかりません」

あのう…市長、説明は受けていないのでしょうか? いや、彼の一言は、選ばれた理由をどうこうと言っているのではなく、「選ばれて困っちゃったなあ。どうすればいいんですかね。うまくできなくても、我々がやりたいと言ったわけではないですからね」と、言い訳の先制攻撃をしたとしか思えないのだ。なぜ、選ばれたのか。それはこの地を見れば一目瞭然である。道の駅を中心に市役所、公民館、図書館、保健センターといった市民生活に必要な場所が半径500mに集まっているという条件を満たしていることはもちろん、周囲は田んぼが広がり、道は田んぼにそって直線で、自動運転の車両を走らせるにはもってこいなのである。設定したルートに高低差はなく、GPSの電波を遮るような建物や森林もない。これだけ条件がそろった実験場所なんて、日本中を探してもほとんどないだろう。ここを選ばずして、そして、ここで成功せずしてどうする? 鈴木市長、がんばってもらわないと困るんだけど。鈴木市長が、このあとの実証実験を見て開眼し、先頭切ってやってくれることを祈るばかりである。

自動運転サービスを根付かせるために

地方自治体のニーズと熱意。そういう意味では、最初に国交省が指名した「地域指定型」の5か所よりも、全国に募り、「うちもやりたい!」と応募してきた8か所のほうが、うまくいくような気がしてならない。その8か所とは、

北海道広尾郡「コスモール大樹」
山形県東置賜郡「たかはた」
富山県南砺市「たいら」
茨城県常陸太田市「ひたちおおた」
長野県伊那市「南アルプスむら長谷」
岡山県新見市「恋ヶ窪」
徳島県三好市「にしいや・かずら橋夢舞台」
福岡県みやま市「みやま市役所山川支所」

自動運転サービスがどう受け入れられていくのかだけでなく、自治体がどう動くと市民の理解が得られ、自動走行を根付かせることができるのか、そのノウハウもとても大切。それぞれが、いい結果を残してくれることを大いに期待している。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

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