「なにわ筋線」建設推進、JR西日本・南海など一致 2031年春開業目指す

鉄道 行政
なにわ筋線などの新線構想の想定ルート。なにわ筋線は新大阪駅や北梅田の開発エリアから難波・関空方面に短絡するルートを構成する。
  • なにわ筋線などの新線構想の想定ルート。なにわ筋線は新大阪駅や北梅田の開発エリアから難波・関空方面に短絡するルートを構成する。
  • 新大阪駅からうめきた地区までは、地下化工事中の梅田貨物線(写真)を通る。
  • 地下化工事の一環として新設される北梅田駅は、大阪駅北側のうめきた開発エリア内(写真)に設置される。
  • JRの関空アクセス特急『はるか』。現在は大阪環状線(西九条)経由だが、なにわ筋線の完成後は同線経由に変更され、所要時間を短縮する。
  • なにわ筋線のJRルートは新大阪~JR難波間を結ぶ。写真はJR難波駅。
  • 南海ルートは新今宮駅に接続。現在の難波駅(写真)とは別に南海新難波駅を設ける。
  • 阪急もなにわ筋連絡線(十三~北梅田)や新大阪連絡線(新大阪~十三)を整備して、なにわ筋線に連絡する構想がある。写真は新大阪駅付近にある新大阪連絡線の建設予定地で、現在は駐車場として使用されている。

大阪府など5者は5月23日、大阪市中心部から関西国際空港(関空)への鉄道アクセスを強化する新線「なにわ筋線」などの整備を協力して進めていくことで一致したと発表した。なにわ筋線と阪急線を連絡する新線「なにわ筋連絡線」の整備も検討する。

なにわ筋線は、新大阪駅から大阪駅北側にある梅田貨物駅跡の開発エリア(うめきた)などを経由し、難波方面に抜ける新線の構想だ。関空アクセス列車の所要時間短縮、難波など大阪の中心市街地やうめきたの開発促進などのメリットがある。

新大阪駅からうめきたまでは、東海道本線貨物支線(梅田貨物線)を走る。梅田貨物線は現在、うめきた付近で連続立体交差事業(連立事業)による地下化工事が既に始まっており、大阪駅の北側には北梅田駅(仮称)が新設される。地下化と北梅田駅の開業は2023年春の予定だ。北梅田駅から先はなにわ筋の地下を通り、難波方面でJR西日本と南海電気鉄道の既設路線に接続。新大阪駅や大阪市の中心部から関空方面への短絡ルートを構成する。

大阪府・大阪市・JR西日本・南海電気鉄道・阪急電鉄5者の発表によると、整備・営業区間はJRが北梅田~JR難波間で、途中に中之島・西本町の各駅(いずれも仮称)を設置。中之島駅は京阪電気鉄道中之島線の中之島駅付近、西本町駅は大阪市営地下鉄中央線との交差部付近に設けられる見込みだ。

南海ルートは北梅田~南海新今宮間。このうち北梅田~西本町間はJRルートと線路を共用し、西本町駅の先でJRルートから分岐。JR難波・南海電鉄難波駅付近に南海新難波駅(仮称)を設け、さらに南下して新今宮駅で南海本線に接続する。

総事業費は概算で約3300億円。大阪市などが出資する第三セクターが建設する。JR西日本と南海が線路使用料を支払って列車を運行する上下分離方式を採用し、地下高速鉄道整備事業費の補助制度により建設費の補助を受けることを想定している。開業目標時期は2030年度(2031年春)。5者は「国との協議を進め、早期事業化をめざします」としている。

このほか、北梅田駅の北側で阪急十三方面に分岐するなにわ筋連絡線も「国と連携しながら整備に向けた調査・検討」を進めるとした。

■構想浮上から半世紀で開業へ

なにわ筋線の構想は1980年代初頭に浮上。1989年5月には、運輸大臣の諮問機関だった運輸政策審議会が関西圏の鉄道整備基本計画(運政審10号答申)を策定し、新大阪~JR難波・汐見橋間を「目標年次(2005年度)までに整備することが適当である区間」として盛り込んだ。JR西日本は1996年3月にJR難波駅を地下化。この際、なにわ筋線と接続できる構造にした。

しかし、膨大な建設費を必要とすることや、うめきた再開発の前提条件となる梅田貨物駅の移転事業などが遅れたため、なにわ筋線自体は具体化に向けた検討が進まなかった。2004年10月に近畿地方交通審議会が策定した「近畿圏における望ましい交通のあり方について」(近交審8号答申)でも、なにわ筋線は「京阪神圏において、中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として盛り込まれたが、目標年次は定められなかった。

その後、梅田貨物駅の移転計画や同駅跡地の開発計画、梅田貨物線の地下化計画が進んだのを機に、関係各者による本格的な検討や協議が始まった。運政審10号答申と近交審8号答申では、なにわ筋線と南海線の接続地点を南海高野線(汐見橋線)の汐見橋駅としていたが、検討の過程で利用者を多く見込める難波接続が浮上。今回の発表でも、南海ルートはJR・南海難波駅付近を通って新今宮駅に接続させるルートが採用された。

一方、今回発表された整備・営業区間には、梅田貨物線を通る新大阪~北梅田間に触れていない。JR西日本広報部によると、「事業としては別枠(梅田貨物線の地下化事業)になるため、なにわ筋線としての整備区間には入れなかった」という。

梅田貨物線は現在、京都・新大阪方面と関空を結ぶJRの空港アクセス特急『はるか』が運行されている。梅田貨物線と接続するなにわ筋線が整備されれば、『はるか』のなにわ筋線乗り入れだけでなく南海電鉄も梅田貨物線経由で新大阪駅に乗り入れできるが、これについてJR西日本広報部は「いろいろな可能性を検討している段階。南海に関しては特急『ラピート』を中心に新大阪乗り入れの可能性を検討しているのも事実だが、決定したわけではない」としている。

■なにわ筋連絡線・新大阪連絡線は狭軌で一体整備か

なにわ筋連絡線は、運政審10号答申では十三~北梅田間が「2005年度までに整備に着手することが適当である区間」と位置付けられたが、なにわ筋線の具体化が進まなかったことから、こちらも具体的な動きがないまま推移した。近交審8号答申では、大阪市営地下鉄四つ橋線を西梅田駅から北梅田経由で十三駅に延伸する構想(西梅田・十三連絡線)が「中長期的」路線として盛り込まれ、なにわ筋連絡線の計画は事実上消滅していた。

ただ、西梅田駅の北側を阪神電気鉄道本線の地下トンネルがふさいでおり、延伸するためには既設のトンネルを移設するなどの大規模な改良工事が必要になる。このため、西梅田・十三連絡線の構想も進展しなかった。結果的には今回、西梅田駅付近の大規模改良を必要としない当初の構想に戻ったことになる。

阪急電鉄が先ごろ発表した長期計画では、新大阪~十三間を結ぶ新大阪連絡線の整備が盛り込まれており、なにわ筋連絡線との一体的な整備も考えられる。ただし、5者の今回の発表では、なにわ筋連絡線と新大阪連絡線の連携に触れなかった。

なにわ筋連絡線・新大阪連絡線の整備に関しては、2本のレール幅(軌間)をどうするのかも焦点の一つになる。なにわ筋線はJR在来線・南海線と同じ1067mm軌間(狭軌)で整備されることが事実上決まっているが、阪急の既設線はJR新幹線と同じ1435mm軌間(標準軌)を採用している。

仮に新大阪連絡線・なにわ筋連絡線を標準軌で整備した場合、既設の阪急各線からの乗り入れは可能になるが、逆になにわ筋線には乗り入れできない。一方、狭軌で整備すると阪急各線からは十三駅での乗り換えが必要だが、なにわ筋線に乗り入れることが可能に。新大阪駅や十三駅から阪急の車両による関空アクセス列車が運転される可能性もある。

阪急などは今後、さまざまなメリットやデメリットを比較検討した上で、新大阪連絡線・なにわ筋連絡線の一体整備や軌間などの仕様を決めていくことになるとみられる。

《草町義和》

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