タントや京阪電車、信号機…さまざまな工業デザインの世界を紹介するイベントが開催

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秋田氏の講演。スクリーンに映るのは歩行者用信号機の図面
  • 秋田氏の講演。スクリーンに映るのは歩行者用信号機の図面
  • ヴィータサロ・ユホ氏
  • GKデザイン総研広島の弥中敏和 社長
  • ダイハツ工業コーポレート企画センターコーポレート企画部ブランドDNA室モノづくり企画部アーキテクチャー企画室の岩村卓 主査
  • プロダクトデザイナーの秋田道夫氏
  • アイリスオーヤマ家電開発部大阪R&Dセンターの真野一則センター長
  • パネルディスカッション風景
  • パネルディスカッション風景

軽自動車や鉄道車両など、日常生活で目にするさまざまな製品はどのようにしてデザインされたのか…デザイナー自身が紹介するイベントが6月25日、グランフロント大阪ナレッジキャピタルで開催された。

このイベント『Design is around us. あれをデザインした人!』は、工業デザインの世界的組織ICSIDが提唱する世界同時多発イベント「World Industrial Design Day 2016」に合わせ、JIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)の関西ブロックが主催したもの。

イベントにはナレッジキャピタルが後援、日本デザイン振興会が協力。2014年にはじめて開催され、3回目となる今回は4人のデザイナーがそれぞれのデザイン事例や、それにまつわる裏話などを披露した。

まず司会を務めるプロダクトデザイナーのヴィータサロ・ユホ氏が挨拶。「インダストリアルデザインとはメーカーとユーザーの双方に利益のある機能や使い勝手を備え、見た目もよいプロダクトやシステムを作ることだと思っています」とのこと。

その後、まずGKデザイン総研広島の弥中敏和 社長が京阪電鉄のデザインについて講演。プラットホームで使用する仮設物販スタンドのデザインを皮切りに、プリペイドカードのグラフィックや駅のサイン計画を経て、車両の内外装デザインを手がけるようになった流れを紹介した。

「京阪は線形がよくないことから、スピードアップによる所要時間の短縮が難しい。そこで移動中の快適度を向上させる運行業務とデザインを目指すことにした」と弥中社長。そしてまず、京阪の社員全員が意識を共有するための、シンボルグラフィックのデザインから始めたという。

また車両のリニューアルがだいぶ進んできた現在、次の目標をこう語った。「これまでモノのデザインをやってきたが、それは沿線の街の背景。背景が揃ってきたことで、あらためて利用者や町の人、オペレーションそのものが主役だということに立ち返って、もう一度進化しようとしている」。

ダイハツ『タント』の内外装デザインについて講演したのは、ダイハツ工業コーポレート企画センターコーポレート企画部ブランドDNA室モノづくり企画部アーキテクチャー企画室の岩村卓 主査。

デザイン作業が進んできた段階で制作する1/1サイズのクレイモデルは、複数台が作られることを紹介。「本命案とは別の案も検討するのは、きちんとした対抗案を作り、焦点を明らかにしながら議論を進める必要があるため」という。またこのほか、ダイハツではメーターの位置について「着座位置の高い車種では、視線移動量を考えるとセンターメーターのほうが優れていると判断している」といった裏話も披露。

プロダクトデザイナーの秋田道夫氏は、歩行者用信号機のデザイン事例紹介。「点灯面積が大きく親しみやすいマークのほうが、人はよく従ってくれる」という交通心理学者の主張や、メンテナンス性や視認性を高めるための配慮をしつつ、シンプルな造形を目指したことが紹介された。またアイデアスケッチは1枚も描かず、CAD設計者のデスクで直接、意見を交わしながら設計を進めてデザインが完成したという。

「いちばんのデザイナーは、デザイナーに仕事を頼もうと思ってくれる経営者だ。イノベーティブなのは“デザイナーに頼めば、なにかいいことをしてくれる”と考えてくれることで、これ自体がデザインだ」と秋田氏。

最後に登場したのは、アイリスオーヤマ家電開発部大阪R&Dセンターの真野一則センター長。同社ではマーケットインでもプロダクトアウトでもなく、自身がカスタマーの立場になって機能や適正価格を考える「ユーザーイン」発想で商品開発に取り組んでいるという。「市場調査はするが、その結果をそのまま提案に反映させただけでは採用されることはない。“自分がこれを作りたい!”という本気が社長に伝わらないと、新製品の企画は通らない」。

またいくつかのデザイン事例と開発秘話を紹介。除湿器の場合では、部屋干しした洗濯物の乾燥に使われることが非常に多い、ということが調査でわかり、衣類乾燥に徹した除湿器を開発することに決定。そして風を手前でなく前方に送るようにするため、従来の除湿器とはまったく異なるスイッチレイアウトになったという。「使用目的と“どんな人に売るのか”をはっきりさせれば、形は必然的に決まってくる」とのことだ。

最後に簡単なパネルディスカッションがおこなわれた。体制もデザインする対象もそれぞれ異なってはいるが、仕事に向き合う姿勢は通じるものがあったようだ。終止和やかな雰囲気で話が進み、イベントは終了した。なおJIDA関西ブロックでは、来年もこのイベントの開催を目指しているとのこと。

《古庄 速人》

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