現行アウディの最小モデル『A1』がフェイスリフトをうけ、内外装の細部がリデザインされると同時に、パワーユニットにも大きな変更が加えられた。アウディとしては初の、排気量1.0リットルの3気筒ターボという、ダウンサイジングエンジンが搭載されたのだ。
実はこのエンジン、同グループのVW『up!』の1.0リットル3気筒NAをベースにしてターボ化したもので、999ccの排気量から95psと16.3kgmを発生する。ただし、組み合わせられるトランスミッションは同じ2ペダルながらup!のシングルクラッチ5段と大きく異なり、ツインクラッチの7段Sトロニックにアップグレードされる。
この「A1 1.0TFSI」、ボディは3ドアと5ドアの2種類が用意され、後者は他のアウディと同じくスポーツバックと呼ばれる。今回、御殿場をベースに試乗したのは、最もベーシックな3ドアの「1.0TFSI」で、車両本体価格249万円のクルマだが、多彩なパッケージオプションを備えた試乗車のプライスは331万円に達していた。
さっそくキャビンに収まると、ダッシュボードのデザインや質感は小さいながらアウディのそれで、上質にしてスポーティな雰囲気が漂う。もちろん運転席の周辺には不足のないスペースが確保されているが、後席に関してはある種の割り切りが感じられる。特にスポーツバックより全高の低い3ドアボディの場合、レッグルームはまだしもヘッドルームには圧迫感があり、大人が長時間座っているのはちょっと辛そうに思えた。
それはそれとして、走らせてみると、A1は小さいながら見事に"アウディ"している。例えば同じプレミアムDセグメントの『MINI』と比べると分かり易いけれど、ステアリングはMINIより明らかに軽く、乗り心地もMINIより確実に柔らかく快適なものだ。走りのキビキビ感ではMINIに及ばないが、だからといってワインディングロードが不得手かというと決してそうではなく、タイトベンドの続く長尾峠も気持ちよくクリアしていく。
では、肝心の3気筒ターボエンジンはどうかというと、回転感はたしかに4気筒とは違うものの、振動が特に気になるといった弊害はない。それに加えてパフォーマンスも充分という印象で、踏めばいつでもトルキーで不足のない加速を振舞ってくれる。トランスミッションがup!と違ってツインクラッチなのも、ドライビングの洗練度を高めている。
というわけでA1の1.0 TFSI、ランニングコストのあまり掛からない上質で快適なコンパクトハッチが欲しい、という層にはぴったりのクルマではないかと思う。ただし、リアシートにも大人が乗る機会が少なくないなら、5ドアのスポーツバックを選ぶべきだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★☆
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
吉田匠│モータージャーナリスト
1971年、青山学院大学卒業と同時に自動車専門誌『CAR GRAPHIC』の編集記者としてニ玄社に入社。1985年、同社を円満退社、フリーランスのモータージャーナリストとして独立。1989年以来、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『僕の恋人がカニ目になってから』(ニ玄社)、『男は黙ってスポーツカー』『ポルシェ911全仕事』『男は笑ってスポーツセダン』(双葉社)など、著書多数。