【人とくるまのテクノロジー展15】「持続可能な世界への貢献」こそが自動車会社を生きながらえさせる

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「自動車会社が考える近未来の方向性」というタイトルのもと社会交通システム委員会前田義男氏が講演をおこなった。
  • 「自動車会社が考える近未来の方向性」というタイトルのもと社会交通システム委員会前田義男氏が講演をおこなった。
  • 人とくるまのテクノロジー展2015内フォーラムの様子。フォーラムタイトルは「2050年の社会情勢を見通した交通システムと自動車用動力の方向性―将来の自動車社会にどのように備えたらよいか―」左から、早稲田大学大聖泰弘氏、ナカニシ自動車産業リサーチ中西孝樹氏、テクノバ中田雅彦氏、本田技術研究所前田義彦氏。

5月20日パシフィコ横浜にて人とくるまのテクノロジー展2015が開催された。
同展内では「2050年の社会情勢を見通した交通システムと自動車用動力の方向性―将来の自動車社会にどのように備えたらよいか―」と題した春季大会フォーラムが開催された。

同フォーラムでは「自動車会社が考える近未来の方向性」というタイトルのもと社会交通システム委員会前田義男氏(本田技術研究所)が講演をおこなった。「自動車会社が各社、いろいろなポートフォリオを作成しておりますが、今日はその中から共通している部分を最大公約数的にまとめて発表したい」。前田氏は冒頭このように述べて、本題に入った。

◆自動車が排出するCO2は地球全体の14%

「地球温暖化と自動車ビジネスは切っても切り離せない関係で、我々はCO2のレジームに縛られてビジネスをしているといえるが、確かに現状では地球全体のCO2の約2割が交通セクターから排出され、自動車は交通セクターの73%、地球全体の14%のCO2を排出している(Roadmap for a Low-Carbon Power Sector2050より引用)といえる」と前田氏。

IEA(国際エネルギー機関:International Energy Agency)によるEnergy Technology Perspectives 2012では地球温暖化による気温上昇を2度に抑えるシナリオが提案されているが、これを実現するには2020年からEV(電気自動車)を、2030年からFCV(燃料電池車)をかなりの量市場に投入しないと実現が難しいものとなっているという。

現在の世界の自動車パワートレインを俯瞰して、「日本から、北米、欧州、中国、という順に今後先進国市場でHEV(ハイブリッドカー)の普及が予想されている。しかし同時に進展国市場では、地域ごとに異なった特性が要求され、自動車用燃料及びパワートレインは多様化していくと予想されている。一方でEV、PHEV(プラグインハイブリッドカー)、FCVの普及に関してはまだ時間がかかると予想されている。いずれにしても多様化する市場のニーズに対応して自動車会社は製品を世界の顧客に届けている状況」と前田氏は概説する。

◆CO2削減への取り組みに影響持つ、日本全体の電力構成

現在主要先進国は、2050年に大気中CO2濃度を450ppmにとどめる前提で合意を形成しており、各国のLDV(Light Duty Vehicle)温室効果ガス規制は、2050年にCO2を80%低減を目指している状況。平均で年率4%の規制強化を設定している。(前田氏)

各国毎年4%の燃費改善を要求されることにどのように対応するべきかについて、前田氏は「内燃機関の熱効率改善だけでは限界があり、車体の軽量化にも限界がある。そうすると、今後、次世代自動車の多くが何らかの電動パワートレインを装備し、さらには “外部から電力を供給する”BEV、PHEVを組み合わせ、一定量普及させないと目標値は達成できない」とコメントした。

また“外部からエネルギーを供給する”クルマでCO2を減らす場合には、その国ごとの電力ミックスが非常に大きな影響を持つ、この点について前田氏は「震災後の日本は、震災前に比べると化石燃料由来の電力が増えている現状であり、日本全体の、発電セクターからのCO2排出量は増加し、EV・PHEVのW2W(Well-to-Wheel:一次エネルギー採掘から走行まで)CO2も増加している」とし、IEA Energy Balances of OECD Countries 2014より日本の発電の電力構成の推移を示すグラフをスライドに映しながら説明する。

◆日欧米の自動運転ロードマップより「2030年は共通したゴール地点」

続いて、CO2削減とならんで、自動車のもたらす社会的な課題の解決策として議論される自動運転に話が移った。前田氏は「高齢化社会、車の安全、交通流の円滑化を考えるにあたっての大きな要素と考えられている」と述べたうえで、各団体が発表している自動運転へのロードマップを示す(「欧州ERTRACロードマップ」「SIP自動走行システムロードマップ」「NEDOエネルギーITS隊列走行コンセプトのロードマップ」)。

「早くて2026年、2030年までにレベル4の自動運転、無人運転を目指す取り組みが見受けられる。現在様々な自動車会社や、部品メーカー、さらにはICT企業までもが実証実験を行っている」とコメントした。

◆FCVは長距離移動、都市間物流 EVは都市部・近距離

もう一つ各社共通で将来を考えているテーマに燃料電池がある、と前田氏。自動車会社が描くロードマップの中で、FCVはどのように位置づけられているのか。

FCVは「脱石油、またはCO2排出量の低減の取り組みとして位置づけられ」、例えばVWでは“カーボンニュートラルな電気からつくる”ものとされ、日産だと“再生可能なエネルギーでの発電”という言葉が添えられた文脈で登場する。他のクルマとの棲み分けについては「FCVは長距離移動、都市間物流にという風潮がある。例えばトヨタは物流を担うようなヘビーデューティとして使われる構想をつくっていて、VWは長距離での交通手段として提案している。欧州共同研究では物流距離では中距離までである。ホンダはEVを街中(の移動)としているのに対しFCVは遠距離まで含んだものとして捉えられている」と各社の位置づけに言及しながら説明した。

◆クルマの未来は「持続可能な世界へ貢献できる」チャンス

最後に、自動車会社が描く将来の水素社会のイメージについて言及した。「再生可能な水素が注目され、水素エネルギーを使った発電をもとに未来が描かれており」水素エネルギーの特徴としてエネルギー消費側でCO2排出がゼロであること、多様な一次エネルギーから製造が可能なこと、貯蔵・輸送が可能なことなどのメリットが挙げられる一方で「“水素の製造過程”に排出されるCO2や、多額の投資への考慮をすることも忘れてはならない」との懸念が示された。

最後に前田氏は本講演のテーマである、自動車会社が考える近未来の方向性について以下の2点にまとめた。

「次世代自動車では、技術革新のリードタイムが長く投資額も大きいエネルギーインフラ技術と、技術変化が速いICT(情報通信技術)の双方への対応など、従来のクルマ開発ではなかった広範囲かつ技術の変革スピードが異なる業界とのコラボレーションが必要となる」。そのうえで、「総合的なエネルギー最適化技術として日本のエネルギーインフラ技術、次世代自動車技術、自動運転システム技術を組み合わせたシステムを早期に確立し、全世界に多く普及していくことで、持続可能な世界へ大きな貢献ができる」との期待を示し、講演を締めた。

《北原 梨津子》

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