【土井正己のMove the World】とことん強い「ドバイ経済」の謎

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ドバイの街並み
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  • 「Al-Futtaim」の経営するトヨタのショールーム
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ドバイ(UAE:アラブ首長国連邦の商業都市)に来たのは20年ぶりであろうか。前回来た時も、他の中近東の国に比べて、幾分解放感を感じたのを覚えているが、今回は、「イスラム」または「新興国」という印象は、全く与えられなかった。

本来砂漠のはずであるが、至るところに水があり、緑がある。世界で一番高いといわれる巨大ショッピングセンター・ビルまである、。案内をしてくれた、「Al-Futtaim」というドバイ有数の総合商社に勤めるチャールズ(Charles P. Awad)さんによると「アメイジング・シティーと呼んでくれ」ということだ。彼が言うには、ドバイには欧州や日本の様な歴史はない。しかし、人の期待以上のものを作り「アメイジング」を与え続けることで世界から人は集まってくる。これが、ドバイの発展を支えているるということだ。

◆「Al-Futtaim」という会社

チャールズさんは、「Al-Futtaim」の統括マーケティング・ディレクターである。この会社は、1930年代に設立されているが、本格的なグローバル商社となったのは、正規輸入代理店として日本からトヨタ、ホンダ、日野のクルマを輸入販売しだしてからで、その利益を他のビジネスに再投資をして、どんどんと大きくなった会社だ。今では、ドバイの土地開発、ホテルやショッピングモールの経営、欧州の高級ブランド品店、プライベートジェット会社など、ありとあらゆるビジネスを手掛けている。ドバイ以外にも中東全域、そして、シンガポールにまで進出しているという、ドバイ経済のシンボルのような会社だ。

オーナー・経営者であるAl-Futtaim家は、ドバイの旧家であるが、マネジメント層のほとんどは、外国人だ。元々、保護国としてイギリスの影響は強く、また、インドやフィリピンから大量の移民を受け入れてきた。そういう人たちの2世、3世が、ドバイ企業のマネジメントを支えている。会社での共通語はもちろん英語。一般社会でも英語が普及している。

もう一人、案内してくれたのが「Al-Futtaim」のスタッフ、リチャードさんだ。彼はどこから来たのかと尋ねたところ「生まれはレバノン。紛争で米国に移住し、フロリダの大学を出た。米国でマーケティングの会社で仕事を転々とした後、故郷に近いここに来た」という。もちろん、公用語であるアラビア語も話す。サービス品質や顧客満足度に重点を置いたマーケティング手法、また欧米でも通用しそうなクリエイティブを自慢げに説明してくれた。世界を知っている人間が集まり、世界に通用するマーケティング手法で攻め込む。アラブのみならず、世界で強いわけである。

◆カローラは台湾製

「Al-Futtaim」の経営するトヨタのショールームにも足を運んだ。商用ニーズと乗用ニーズが半々くらいの比率で売れるという。どちらのニーズも満たせる『カローラ』が台数としては一番ということだ。では、そのカローラはどこから輸入しているのかを確認したところ、なんと「台湾製」だった。『ハイラックス』は「タイ製」だし、モデルごとに、米国製、カナダ製、オーストラリア製、もちろん日本製もある。世界中のトヨタの工場から、最も都合のいい商品を入れているということである。

この国では、日本ブランドが素晴らしく高い。それは、『ランドクルーザー』、『パジェロ』、『サファリ』といった日本の四輪駆動車が、アラブの砂漠を故障することなく、走破してきたことによるものだ。日本の高級車も人気があり、レクサスはよく見かけた。レクサスの都市型体験スペース「INTERSECT BY LEXUS」が、昨年青山で開設されたが、その2号店が、今年の12月にドバイにできるという。これもリチャードさんの企画だ。

強いドバイの謎

しかし、なぜ僅か20年くらいで、こんなに成長したのだろうか。「オイルがでる」ということだけでは、サウジアラビアもオマーンも同じだ。リチャードさんの意見はこうだった。

「国家がオープンポリシーであることが一番大事。移民の受け入れにも寛大だし、ビザの手続きも簡単で早い。移民が増えると治安が心配になるが、警察など厳しい監視体制がひかれ、街中に防犯カメラがある。そして罪を犯したものは厳刑に処される」。

なるほど、労働力と市場形成の基本は「オープンポリシーと強い警察」にあるようだ。しかし、外資を呼込み、産業が育成されるにはインフラが必要なはず。最初に誰が社会インフラを整備したのかと聞くと「それは、ドバイの王家だ」という。私財を投げ売り、インフラ整備に腐心したらしい。また、リーマンショック後の復活も早かった。これも国家や王家が銀行の貸し渋りなどが起きないよう監視したそうだ。このように経済成長には、先見性のある強いリーダーが必要だということだ。

ドバイは、日本への憧れが強く、技術力やモノづくり力を欲しがっている。日本も学ぶべきことが多くあり、意外と日本のグローバル化推進のいいパートナーとなるかもしれない。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」副社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事

《土井 正己》

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