その走りはまるでスポーツカーである。少しボディは長いものの、ほぼ意のままに操ることが出来るし、何より非常に機敏。その気になれば荷物もたくさん積める。ただし少々乗り心地は悪いが。
『メガーヌエステート』には、「GTライン」と今回試乗した「GT220」がある。この2車種、名前は似ているがその性格はまるで違う。
GTラインの方は、基本的に一クラス下の『ルーテシア』と同じ1.2リットルの直噴ターボエンジンと6速のデュアルクラッチトランスミッションを組み合わせているのに対し、GT220は2リットルターボユニットと6速マニュアルミッションの組み合わせだ。とまあ、ここまでならその程度?そんなに違わないじゃない、となるのだが、この2リットルエンジン、ルノーの最もやんちゃなモデル、RSから頂いたユニットなのである。
もちろんRSほどのやんちゃさではないが、それでも220psは伊達じゃない。依然として軽々リッター100psを超え、340Nmの図太いトルクを絞り出す。エンジンルームを開けると、カバーの上に誇らしげなルノー・スポールの文字が。というわけでおとなしく走れば少し足の硬い普通のワゴン。しかしひとたび鞭を入れると完全にスポーツカーに変身する、というわけだ。
マニュアルだと言っても恐れることは何もない。そもそもクラッチだってこんなもん?というくらい軽いし、スタートストップ機構が付いて、クラッチを踏めばすぐさまエンジンが目覚める。
これの利点は、万一恥ずかしいエンストを起したところで、いちいちキーを捻る(最近はそんな作業をするクルマは滅多になく、もっぱらプッシュボタン。もちろんこのクルマも)必要もなく、クラッチを踏むだけですぐ再スタートを切れるから、周囲に気づかれることもなく発進可能。多くが苦手とする坂道発進にしても、ヒルスタートアシストというホールド機能が付いているから、普通のクラッチミートをすれば平坦路と同じ要領で発進することが出来るのである。
それはあくまでも、マニュアルミッションに限った話。このクルマの本質はキレッキレの走りにある。具体的にどのくらい速いか、計測をしたわけではないが、こちらが普通に走っているつもりでアクセルを開けると、一般道では付いてくるクルマはまずいない。しかも、ありゃりゃ!というほどスピードが出てしまっている。だから、常にスピードメーターをにらめっこして走っていないと、まずいことになる。
ワインディングの走りはこのクルマの真骨頂。およそロールというものを知らないほど、ビタリと安定してスイスイと走る。そうした状況では実にスムーズで快適だ。しかし、渋滞路につかまってのろのろ走ると、途端に下からの突き上げ感が強まり、それまでの快適さはどこへやら…となってしまう。まさしく2面性を持ったクルマだった。
この足、言うまでもなくルノースポールの作品で、シャシー自体もシャシー・スポールをベースに作られたもの。ブレーキだってローター系が大型化されてストッピングパワーも申し分なし。RSのカップシャシーほどのヤンチャさではないし、クルマを受け取っていきなり乗り出した環8の渋滞が最初の印象を悪くしたけれど、慣れてしまえば硬いとはいえ、我慢の範囲を超えているわけでもない。何より何故か知らないがピタッとはまるようにフィットするシートのおかげで、長距離も疲れ知らずであった。(1週間およそ500km走った結果だ)
残念ながら荷物をたくさん積むような状況には巡り会わなかったが、通常状態で486リットルのスペースを確保し、リアシートも最近では珍しくなった座面を起してフラットなスペースを作り出せるようになっている(撮影時はやらなかったが)。
一方で少々残念だったのはその音。RS譲りのエンジンとくれば、少しはその気にさせてくれるサウンドを持っているかと思いきや、ごく普通。まあ、静かといえば静かだし、やんちゃな性格には似つかわしくないと言えばそうともいえる。サウンドチューンしてくれたら、このクルマは間違いなくスポーツカーである。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。