右折で見通しの悪い交差点は全国に数多い。こうした交差点での衝突事故の減少につなげるべく、トヨタはITS技術の一つとして「右折時衝突防止支援システム」を警察庁連携の下で開発中だ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)のITS分科会第1回勉強会でその概要を明らかにした。
この勉強会はAJAJが、ITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システムの略)に対する関わり合いを強めていこうと「ITS分科会」としてスタートさせたもの。その第1回の勉強会としてトヨタ自動車が応じ、開発中の技術の一部が紹介された。
紹介されたのはトヨタが開発中の「右折時衝突防止支援システム」だ。路車間通信を使い、右折車と直進車の衝突事故を未然に防ぐことを目的とし、右折後の歩行者との事故防止も含まれる。ITARDA(交通事故総合分析センター)が2011年に調査したところでは、信号交差点で発生する事故は右折が全体の39%と左折時17%の2倍以上にのぼることが判明。つまり、右折時の事故を減らすことで事故件数の大幅低減につながるとの考えに基づき、このシステムは開発が進められているのだ。
交差点に近づく対向車や歩行者は、路側に設置されたセンサーで検知し、その情報は車側に装着された端末で受信してドライバーに告知される。この路側のセンサーには画像方式とレーザー方式が使われ、その情報は電波やビーコンを介して車側の受信端末に伝えられて表示する仕組みだ。表示はドライバーが一目で状況把握ができるHMI(Human Machine Interface)を重視したデザインで提供される。
このシステムで得られる効果は大きく二つある。一つは右折判断のタイミングを支援するためにディスプレイ表示で車両接近を知らせるというもので、接近車両がない場合もこの表示で判断できるようにしている(効果1)。もう一つは、対向車線に侵入する際に停止せずに右折しようとすると、警報音で車両接近を知らせて停止線に踏みとどまるよう促すというもの(効果2)だ。
実験に先だって課題となったのは、右折時の状況やドライバーの癖は様々で、ドライバーがどの時点で右折できると判断したかの判定が難しいこと。右折する際、停止線よりずっと手前に停車する人もいれば、交差点内をズルズルとクリープ走行する人、先行車に追従して停止線でも泊まらずに右折する人もいる。そこで、右折レーンにある先端線を前輪が跨いだとき、あるいは右折レーン側端線を後輪が跨いだ時を右折開始点と定義することにした。
参加者はトヨタ社員ではない一般者101名(男性63名/女性38名)。実験は参加者の車両にこのシステムの装着以外に、アクセルやブレーキ、車速データを取得できる車載装置と状況を車内から撮影できるドライブレコーダーも合わせて搭載。一方で交差点の路側には俯瞰して交差点の様子が撮影できるカメラも設置された。これにより、車載装置から得たデータと動画から解析できるようになり、参加者が運転する車両が右折時にアクセルを踏んでいるか、ブレーキを踏んでいるか、そ時点で速度はどのぐらい出ていたか細かく把握できるようになっていた。
実験個所は、トヨタのお膝元でもある愛知県豊田市内の6交差点・13方路が対象。参加者が通勤等の日常運転でインフラ設置交差点を右折したときの映像と走行データを記録する形で、情報を提供しない3か月間と情報提供を行う3か月間の計6か月にも及んでいる。実験出られたデータの中には、直進車があるにもかかわらず交差点を右折するケースもあり、その要因を探るためのサンプルとしても活用された。この結果、実験で取得したデータ数は、「支援なし」が4967件、「支援あり」が5506件にものぼった。
この二つの効果を通して得られたのは、見通しの悪交差点で54%もの発進抑制が行われたと言うこと。ドライバーが見通しが悪い状況を、システムによって享受できていたことがはっきり見て取れる。一方、見通しの良い交差点でも10%の発進抑制が行われたと言うから、システムの有効性は十分反映できたと考えていいだろう。実験終了に行われた参加者のアンケートによれば、78%が右折時に提供された情報を参考にしたと回答。88%がその情報が安全に役立ったとの回答も得られた。
今回の実験ではシステムを後付けする形で行われたが、トヨタでは数年後の近い将来に実用化することを目指しているとする。もしかしたら数年後には、右折時の危険性をメーター内やカーナビ上で警告するシステムが搭載されているかもしれない。